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43話 神と人

「どうやってアレを倒す?」

 空から見下ろして俺達を探している。森に隠れたとはいえ、見つかるのは時間の問題だ。

「ほぼ確実に二人で重要器官を支えているんだろう」

「重要器官?」


「脳と心臓。この二つをそれぞれ分担して動かしているのだろう。神の顔はディアラに似てなくもない」

 言われてみれば奴に似てるような気がする。


「そこで体に登って私が心臓を、ユーリィが脳を破壊してくれ」

「どうやってさ」

「闇町で買ったフックがあるだろ。私の力も貸してやるから」

 ゼルが指を鳴らすと全身に力が湧いてきた。フックにロープを結びつけ、準備万端。


「行こう」

 身を潜めながら背後に回り込んで神の肩にフックを引っ掻けた。何度か引いて確りと食い込んだ事を確認してから登り始めた。


「意外とバレないもんだな」

「この体を動かす事に集中しているから感覚系がおろそかになっているんだろう。本気で殴りかからない限り気づくことはないはずだ」

 頻繁に動き回るせいで何度か落ちかけたが、取りあえず背中まで登った。


「よし、私は今から胸に大穴を開ける。振り落とされるなよ?」

「ああ、脳みそのほうは任せとけ」

 それじゃ、と小さく手を上げて俺とゼルは別れた。


 俺が肩付近まで上がった事を確認した彼女は燃え盛る炎を手に纏わせ、勢いよく叩き込んだ。近くにいれば跡形もなく蒸発していたであろうレベルの熱量がここまで昇ってくる。


 心臓を破壊すれば終わり、と思っていたが破壊したその向こう側には闇が広がっていた。

 ゼルは一度だけこちらを向いて微笑むとその闇へ飛び込んでいった。


「そこにいたんだね」

 神の巨大な手が肩についた虫を払うかのように伸びてきた。ジャンプして頭頂部に移る。


「神の背中に穴を空けるなんて……許すわけにはいかないね」

「あ!」

 という間に背中の穴が塞がってしまった。傷一つない、真っ白で滑らかな肌に戻ってしまった。

「驚いたかい? 神の力を持ってすればこれくらい他愛ない事だよ」

 

「けっ、ゼルが体内からお前をぶっ壊してくれるぜ!」

「む……体内で何かが走り回っているな。気にするほどでもないか……」

「……!?」


 声と口調がおかしくなっている。少し高めだったディアラの声から、無機質で威圧感のある声に変わった。


「だ、誰だ……お前……」

「我は──。お前らが神と呼ぶ者だ。」

 何だ? 奴の言葉に聞き取れない箇所があった。耳障りな雑音が耳に入ってきたが正確に理解できなかった。


「そうか、お前達には理解できぬ言語であったか。まあよい。だが、神の頭に乗るとは不敬であるぞ!」

 再び手が伸びてきた。反対側の肩に降りて攻撃を避ける。俺も何とかして頭に風穴開けないと話にならない。

 加えて俺達が負けた場合、この世界は作成者本人によって破壊されるらしい。


 三度目の凪ぎ払い。今までのよりスピード速く、無理に避けたせいで肩から滑り落ちてしまった。

「くっそ! もうこれの出番かよ!」

 ポーチから呪符を二枚取り出して両足の裏に張り付ける。ドスンと強い衝撃と共に空中に着地した。


「空を飛ぶ人間か、珍しい者もいるな」

 この浮遊の呪符はしばらくの間、宙に浮いていられるようにする物だ。空を飛び回れる訳でもなく、ただ空中に立てるだけ。それ以外は地上とほぼ変わりはない。


「しかしだ、このような不敬を働く者が蔓延る世界……やはり消して新しく作り直さねばならぬな」

「何だと! あんたが作った世界なのに壊すのか!?」


「この世の物は全て我が創造物。どうしようと我の勝手だ。木の姿になってから常に世界を見渡していたが、望んだ世界とはかけ離れた方向へと進んでいる。故に、今一度やり直すのだ」

「むちゃくちゃだ! あんたが作ったからって何もかも消してやり直すなんて、ホントにやっていいとでも思ってんのか!」


「当たり前だ。この世の作者は我だ。我が力を持って消し去るのだ。創造物達に異論はあるまい。お前だって何か物を作った時に満足のいく出来じゃなければ破棄して作り直すだろう。それと一緒だ。ただスケールが違うだけだ」


 ちくしょう、言葉が通じても話が通じないとはこの事だ。あの無機質な面に本気の一撃を叩き込めば割れると確信している。

 だがこの場から一歩でも動けば撃ち落とされてしまうような気がしてならない。


 呪符の効果もそろそろ切れる。新しく取り出して貼り直している最中に撃墜でもされたらたまったもんじゃない。

「うお……っと」


 ガクン、と足場が不安定になった。いよいよ再落下が始まってしまう。落ちてしまっては元も子もない。

 落とされない事を祈りつつ貼り直そうとした直後、創造神の胸の辺りから爆発音が響いた。


 それと同時に神が胸を押さえて苦しそうに呻き始めた。

 ──今しかない。

 そう悟り、空を蹴って素早く神の体を登り始めた。肩まで一気に駆け上がり、側頭部を剣で斬りつけた。


 一撃では砕けなかったがかなり大きなヒビが入った。後は蹴りでも叩き割れる。

「おおおおおッ!」

 ゼルから借りた力のおかげでそのまま中に突入できた。入ったとほぼ同時に入り口の穴は塞がってしまった。


「いいさ、さっさとケリつけて内側から穴空けてやるからよ」

 呟きながら石でできた不思議と明るい通路を歩きだした。

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