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4話 復讐の始まり

「本当に壊していいんだな?」

「ああ、頼む」


 石版からゼルグリアの声がする。剣を抜き、腰を深く落とす。

 大きく息を吸って飛び出した。放たれた矢のように素早く、そして鋭く、腕を突きだす。


 ガギィン! と耳障りな音が部屋中に響く。石版は壊れたのだろうか。衝撃で痺れた腕を擦りながら顔をあげる。


「やっぱ無理か……」

 剣はど真ん中に突き刺さったまま抜けなくなった。どれだけ力を込めてもびくともしない。

 大人二人分はある石版を剣一本で破壊するのは無理があったのだ。


「なんだなんだ……こんなものも壊せないのか」

 石板の割れ目からゼルグリアが霊体となって出現した。夢で見たままの姿で俺の前に。


「他に武器は持ってないのか?」

「無い」

「魔法は?」

「精霊のいないここでは撃ちたくないな」

 打つ手なし。念のために持ってきていた爆弾もディアラが持ち去った鞄に入っていた。


「まったく……このままでは餓死するぞ」

「まあ……手段が無い訳じゃ無いんだけどな……」

「本当か!?」


「ただ……俺が死ぬ可能性がある」

「何をするつもりだ?」

 ゼルの形のよい眉が少し上がる。


「外に化け物がいるんだ。そいつを部屋に呼び込んで石板を破壊させる」

 少し扉を開けて煽ればあの怪物も乗ってくるだろう。この地を守る役目あるはずだ。

 全力で俺を排除しに来るだろう。


「あいつを使うのか……一か八かにかけてみるのも手だな。ならばこの石板を破壊した暁には今現在の私の全力を貸してやる」

「はあ? それじゃあ俺とお前が契約するってのか?」


「その通りだ。今は仮契約だがな。これが壊れればその瞬間に契約を結ぶ。そして私の貸した力を実感してみてくれ」

「おーけー……やろう」

 ゼルの顔を一瞥して、腹を括る。あいつらを地獄の底に叩き落とすまで俺は死なないと決めたんだ。

 霊体のゼルグリアと向かい合い、手を合わせる。


「汝、我と契約を結ぶか?」

 張り詰めた声でゼルグリアに問われる。

「ユーリィ・フロミネスはここに誓う。ゼルグリアと契約を交わし、運命を共にすると」

 眩い光が合わせた手の間から漏れだした。一瞬のうちにそれらが炸裂するとお互いの手の甲に六芒星を模した紋章が刻まれた。


「うし、行くぜ」

 かくして、俺とゼルグリアの超無茶な計画がスタートした。


「ふっ……ぐ……」

 異常に重い扉を引っ張る。ずりずりと、微かにだが動いているのがわかる。

「ほら、頑張れ頑張れ」

 柱に寄りかかりながら気の無い応援が飛んでくる。顔を真っ赤にして引くと、ようやく俺一人が出れる程度に開いた。


 顔だけだしてこっそり覗くと、天井に奴が張り付いていた。俺に気がつくと物凄い速さで突撃してきた。

 天井を蹴り、一瞬にして扉の前に立つ。


 オニキスのような黒い瞳に俺の顔が映った。鋭い牙を剥き出しにした奴は大きく吼えると扉に体当たりした。

 バゴン! と一撃で石の扉が半分消し飛び砂埃が舞う。


 取り敢えず作戦の第一段階は成功した。あとは上手いこと石版まで誘導して破壊させるだけだ。


 扉を突き破った奴はゆったりと部屋に入る。奥が行き止まりなのを察して、俺をいたぶるつもりだろうか。

 口の端が上がり、嗤っているような表情になる。


「かかって来やがれ!」

 瓦礫の破片を顔めがけて投げる。尖った石が鼻の頭に命中すると、微かに血の玉が浮かんだ。


 傷をつけられた事に怒ったようで、叫びながら突っ込んできた。部屋中に木霊する声を背にして石版へ走りだす。

 激突寸前に横へ飛び、奴を石版に叩きつける。


 剣の刺さった場所に飛び込み、柄頭が奴の目玉に突き刺さった。潰れた瞳からは粘ついた液体が漏れているのが見える。

 おまけにあり得ないくらいに臭い匂いがする。


「ぜ、ゼルグリア!」

「任せろ──力を、受け取れ!」

 すぅ、と俺の前に現れたゼルグリアが小さな手を俺に向けた。

 直後、かつて無いほどの力の奔流が俺を呑み込んだ。今この瞬間、俺は世界の頂点に立っていると確信した。


 目から抜き取った剣を俺めがけて投げてきた。力を受けとる前の俺だったら首を切断されて死んでいただろう。

 しかし、今は剣の回転がゆっくりと見える。柄がこちらを向いた瞬間に手を伸ばし、強く握る。


「いくぜ……!」

 奴の鋭い突きが繰り出される。しかし子供が突きだす槍のように遅く感じた。

 刃こぼれした剣で撫でるように右腕を、二の腕辺りから切り捨てる。


 一切の抵抗を感じない。豆腐でも切っているかのような感覚に陥る。そのまま流れるように跳躍し首に刃を通した。


 奴の体液で汚れた刀身を振り払って鞘に納める。カチンッと小気味良い音を鳴らした。


「……私達の勝ちだな」

「あ、あぁ……」

 緊張が解けたのか全身の力が抜けてその場にしゃがみこんでしまう。

「魂一欠片でもあれだけの力を出せるんだ、凄いだろう」

 ゼルグリアが腰に手を当てて自慢気に言った。

 確かに凄まじい力だが、体力の消耗が半端じゃない。震える手はそこらに落ちている石ころさえまともに掴めない。


「やはりいきなり全力譲渡は駄目だったか」

「俺の体のことも考えてくれよな……」

「すまんすまん、これから慣れてくれ」

 彼女の手を借りながら立ち上がり、崩落した扉から出る。


「久しい外の世界、楽しみだ……」

 ──あいつら、まだ近くにいるといいんだけど。

 ゼルグリアと正反対の考えをめぐらせながらゼルグリアの後に続いた。

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