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3話 夢の中で

 俺の勘は外れたようだ。この部屋は宝の安置場所ではない。何かを封印しているように見える。

 目の前の巨大な石板には六芒星と封印系統の術式が刻まれている。


 魔法を本職としない俺には到底理解できる代物でないが、魔法に長けたリンファなら解読できたのだろう。


「って……なんでアイツの事を思い出すんだ。殺すって決めたろ……」

 あの忌々しいエルフの事を頭から振り払って脱出の手掛かりになる物を探す。


「…………ぉ……」

「…………?」

 誰かに呼ばれたような気がした。だが気のせいだろう。きっと裏切られて疲れているのだ。そう適当に納得する。

 縦長の部屋を一通り見たが、脱出用の魔法陣等は見つからなかった。


「おいおい何もねぇぞ……」

 中央の石版以外に特筆すべき物は無く、完全に手詰まりだ。


 誰もが夢見たこのダンジョンの真の踏破を俺が達成したのだ。奴等はダミーのゴールで喜んでいたのだ。


「嬉しいけど……嬉しくねぇなぁ」

 帰る手段が見つからないと判断した俺はその場に寝転がった。腕を枕代わりにして少し考える。


 ダミーゴールにスフィアを配置するとは、ここに封印しているものの方が価値があるのだろうか。

 しかし世界を変えうる力を持つスフィアよりも貴重なものとはなんだ?


 歴史から抹消された古代の武器や道具が眠っているのだとしたら、外にいるあの奇妙な奴を粉砕し、復讐も楽に行えるだろう。


「おぉ……興奮してきた!」

 だがここで焦ってはいけない。一度座って呼吸を調える。

 石版について調べるのは休憩してからでも遅くはない。


 幸い、ここにモンスターはいないし、あの四つ足も突っ込んでくることはない。少し仮眠してから調査を再開しよう。

 そう決めて目を閉じた。


 硬い石の床だが、痺れさせられ、裏切られて心身共に疲れていたのだろう。サイクロプスとあの四つ足に追いかけられたし。

 目を閉じると、一気に心地よい闇へと引き込まれた。


「お?」

 気がついた時には真っ白い空間に立っていた。上下左右、全てが白で染められている。


「ははーん、こりゃ夢だな」

 夢とは言ったものの、ここまで意識がはっきりしているのは初めてだ。いつもは二度寝の時にぼんやりとした夢を見る程度なのに。


 曖昧な夢だと脈絡のないまま物語が展開していつの間にか目が覚めているというものだ。

 しかし今は意識がある。


 何かしらの行動を起こさないと夢から覚めそうにはない。あんな所で眠ったのがまずかったのだろうか。


「おい」

「誰だ!」

 どこかから声がした。聞き覚えのない少女の声だ。


「こっちだこっち」

 足下から声がする。目を向けると、夜空を思わせるような漆黒の、長い髪を持った少女の首だけが生えていた。

 金色の瞳は幼い少女が出せるような覇気ではなく、ニヤリと笑うその口には鋭い八重歯が見えた。


「よう、旅人よ」

「お、お前……誰だよ」

 腰につけている剣を抜こうと手を伸ばすが、そこに柄は無かった。


「なんだ、知らずにやって来たのか?」

「知らずにって……何かがあるって噂しか知らないし……」


「それぐらい知っていれば十分か。私がその封印されていた者だ。名をゼルグリアという。以後、お見知りおきを」

「ゼルグリア……」


「ほら、私が目名乗ったのだからお前も名を言え!」

「お、俺はユーリィ。ユーリィ・フロミネス」

「ユーリィか。私の事はゼルと呼ぶといい」

 ゼルグリア改め、ゼルはにっこりと笑った。封印されていたから会話に飢えているのだろうか。


「はあ、それで……俺に何の用?」

「お前、ここから出たいんだろう? 自分を捨てた仲間に仕返ししたいんだろう?」

 ゼルの瞳がキラリと輝く。


「どうして……それを」

「簡単な事だ。ユーリィが寝ている間に心を探らせてもらった。ずいぶんこっぴどくやられたもんだな」


「まぁな……笑いたきゃ笑え」

「ふむ……ユーリィよ、私と取引をしないか?」


「取り引き?」

「ああ、私は魂を五つに裂いて封印されている。あと四つ集めれば私は復活できる」


「俺のメリットは?」

「ふむ、力を貸してやろう。私が力を与えれば一騎当千の大英雄すらをも凌駕する力を得られるぞ」


 俺の知る中で、最も化け物じみた逸話を持つ英雄は一人で、かつ素手で世界を滅ぼそうとした邪竜を倒したそうだ。

 その英雄より強くなれるというのは向かうところ敵なしという事でもある。

 それだけの力があれば、スフィアを持つアイツらにも対抗できるだろう。


「わかった、取り引きに応じよう」

「決まりだな。なら、まず目を覚ませ、そして私を封じている石板を破壊す

るんだ」


「最後に一ついいか」

 薄れゆくゼルグリアに尋ねる。


「完全に復活したら、お前はどうするんだ?」

「……世界を滅ぼそうかな」

「そうか」


 この世界に、もう執着はなくなった。ディアラ達に捨てられてもうどうでも良くなってしまった。

 これからの俺の生きる目的はあいつらを悲惨な目に合わせてやることだけだ。それが終われば世界なんてどうなっても構わない。


「さあ起きろ、復讐の始まりだ」

 ゼルグリアが消えると急速に世界が狭まり始めた。白い世界の彼方から無数の闇が迫る。

 それに飲み込まれた時、俺の目が覚めた。

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