18話 魔術療法
遂に王都へ到着した俺達はローダの店へと向かっていた。腰を曲げてよろよろと歩くその姿は、傍から見れば孫と祖父だ。
飛空挺から降りる際に、中々俺が起きなかったからゼルに叩かれ、余計に酷くなったのだ。
情けない格好で歩くはめになった俺を気の毒に思っているのか、彼女は荷物を持ってくれた。
飛空挺乗り場から城まで一直線の大通りを進み、王都の中心にある噴水広場で左に曲がる。人混みの中を進むのはかなり辛い。
軽くぶつかるだけでも激痛が走るのだ。過去にモンスターと戦っていた時ですらここまで痛みを感じることはなかった。
「平気か?」
「そこそこ……」
ローダの店を目指すことに頭がいっぱいで受け答えも雑になる。あと少し、あともう少しで辿り着くのだ。
細い裏路地に入り込み、王都地下街へと続く階段を降りる。
ここでは危険な品物を扱っている店が多々ある。呪われた武具を販売していたり、国で禁止されている違法薬物を製造したりとやりたい放題である。
良い点をあげるとすれば絶版になった本が売られていることぐらいだ。
もちろん、お偉いさん方も地下街で行われていることは重々承知しているが、彼らも度々利用するので本気で潰そうとはしない。
そんな説明をゼルにしていると、俺の隣を聖騎士団の小隊長が走り抜けていった。顔を隠さずに怪しい色の薬が詰まった小瓶を抱えていた。
「そんな危険な場所にローダって奴は店を出しているのか?」
「表向きは魔術療法士だが、裏じゃ盗品の売買をしてるのさ。俺も何回か買ったことあるしな」
十年前と変わらない、奇抜なデザインの看板をぶら下げた店の前に立つ。窓からローダが暇そうにタバコをふかしているのが見えた。
吊り下げられている鈴がチリンと音をたてて入店したことを報せる。
「いらっしゃ──お、ユーリィ超久しぶりだな」
ローダがタバコを揉み消して立ち上がる。俺の倍はある背丈の大男だ。彼は獣人と人のハーフで、耳と尻尾が生えている。
昔、ローダをモンスターから守ってあげたところから付き合いが始まったのだ。
「おっす、久しぶりだな」
「死んだって噂が流れてて心配したんだぜー?」
やっぱりどこでも俺が死んだ事になっているらしい。
「おや、その女の子はお前の娘か? もう結婚したのか!」
「いやいや、まだ独身だよ。こいつは町で拾った孤児だ。母親を探す旅に付き合ってやってんだ」
「なーるほどなぁ。でもうちに来たって情報は無いぜ。盗品しか扱ってねぇからな」
「情報でも盗品でもなくて、体を治してほしいんだ」
「痛めたのか?」
「ああ、ひどい筋肉痛でな。何もしてなくても痛いんだ」
「わかった。診てやるからついてこい」
部屋の奥に通され、薄い布の服を渡される。足下まで丈がある長い服だ。
下着以外は脱いで籠に入れる。
「よーしそこに寝ろ」
柔らかい寝台の上にうつ伏せで寝かされる。掛け声も無く、唐突に背中に触れた。
瞬間、鎚で殴られたかのような激痛が駆け巡る。
痛すぎて叫ぶこともできずに息がつまる。それに気づいたローダがうーんと唸った。
「思ったより酷いな。どうやったらこんなに筋肉が拗れるんだ?」
「ちょっと……色々……あってな……」
「治すには治せるが、悲鳴をあげられるのは面倒だしな」
ちょっと待ってろ、とローダがすぐ隣にある棚から透明の液体がはいったビンと注射器を持ってきた。
「ちょっと刺すからな」
右の二の腕に針が刺さった。薬液が注入されるのが分かる。そしてすぐに、全身が硬直した。
ピタッ、と動けなくなってしまった。まるで石化魔法でもかけられたかのように動かないのだ。
「超強力な麻酔だ。しばらくは何も感じないだろう」
首から下の感覚がゼロと言っていいほど、何も感じない。頭だけがふわふわと浮いている気分だ。
ローダの手が背中に触れているのが見えるのに、刺激がない。
「どんな感じだ?」
「徐々にほぐれてるぞ。なぁ、何をしたらこんな事になるんだ?」
彼になら話しても問題ないかと思い、かいつまんで説明した。
シャービスの連中に捨てられ、その際にゼルと契約したこと。復習の旅を始め、一人目を始末したこと。
最初は半信半疑で聞いていたが、だんだんと相槌に真剣さが含まれてきた。
「それじゃ、さっきの孤児って話は嘘なのか」
「ああ……それ以上の嘘が思い付かなくてな。あんな子供っぽあ話し方だが、本当は大人びた感じなんだ」
「なるほどねぇ、お前も苦労してんだな」
「まーな。残る三人がどこにいるかが問題なんだよ」
「三人? 一人始末したんだから四人じゃないのか?」
「パルメは西にある村に帰ったんだと。体が治ったらすぐに向かう予定だ」
「あんまり無理するなよ」
「無理でもないさ。ゼルがいれば大抵の事はなんとからなる」
「そのせいでこんな体になってんだろうが」
「悪い悪い。あと、どれくらいで終わりそうだ?」
「んー……二時間はかかるな。とりあえず寝てろや」
「さっき起きたばっか寝れねぇよ」
しょうがねぇな、と溜息をついたローダは先程の棚から 淡いピンク色の薬液を持ってきた。
それを数滴口に放り込まれる。蜂蜜のような甘さが口の中に広がり──。




