【別視点】戦争3 結果
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ドラゴンの絶叫に耳を押さえながら、パナメラは状況を確認した。
「ドラゴンの背は切り傷程度しか与えられなかったが、目や口、腹部には十分なダメージを与えられたな。だが、一瞬で絶命せしめることは出来なかった。ブレスの向く先がよかったが、あれがもしこちらに向いていたらと思うと恐ろしいな」
パナメラが冷静にそう感想を述べると、ボーラが何度も頷きながら青い顔で振り向いた。
「ま、まだ動いてますが、大丈夫ですか?」
そう確認すると、パナメラは鼻で笑って戦場を指差す。
「ドラゴンにとどめを刺すのも重要だが、ブレスにさえ気を配れば大損害は出ないだろう。ならば、今は敵を追い詰めるのが先だ。このまま逃してしまえば総合的に見て我が国の負けだからな」
パナメラの言葉にボーラが何か言おうと口を開いた瞬間、スクデットから黒い影が飛び出した。
大きな五つの影だ。影は翼を広げ、まっすぐにこちらへと向かってくる。
「ワイバーン!? 五体も同時に……!?」
「自棄になったか……ボーラ、狙えるか?」
「ね、狙います! 皆、来るよ! 少し前を狙って! バリスタも狙える人は狙って!」
慌てつつも、ボーラ達は素早く角度の調整をし、発射準備を完了した。
ワイバーンは風のような速さで迫るが、ボーラ達の動きに乱れは無い。
「準備できたね!? 射て!!」
発射の指示に、皆がそれぞれカタパルトとバリスタを起動した。地響きと風を切り裂く音が同時に鳴り響き、空へと黒い箱やバリスタの矢が射ち出される。
黒い箱は空に打ち出されてすぐにバラバラに砕け、中から無数の銀色の板のようなものが現れる。
鉄製の手裏剣だ。それらは瞬く間に広がっていきワイバーン達へと迫った。
鉄の雨さながら、カタパルトから発射された大量の刃物は空気を切り裂きながら飛来。ワイバーンの胴体や羽根、脚と撃ち抜いていく。
野生の勘か、頭に直撃するワイバーンはいなかったが、それでも身体のどこかに幾つも穴を空けて、無事にいられる個体は無かった。
恐ろしい速度でバランスを崩したワイバーン達が落下してくる中、ボーラは眉間の皺を深くして叫ぶ。
「大楯の裏に隠れて! 早く!」
怒鳴り声に反応して身を隠す皆を尻目に、パナメラは楽しそうに笑いながら一歩前に出た。
「最高の結果だ。よくやったな、ボーラ隊長。後は、私に任せろ」
そう言って、パナメラは詠唱し終わっていた魔術を発動させる。
「お前達も離れていろ! 眼前の敵を焼き尽くせ、銀の朱」
その言葉が発せられた直後、パナメラの前に三重の魔法陣が浮かび上がり、中心に炎の塊が生まれた。
各魔法陣に生まれた炎は、まるで互いに互いを喰い合うように混ざり合い、巨大な火球となった。
火球は弾けるように広がり、落下してくるワイバーン達目掛けて噴き上がる。さながら極大の火炎放射だ。空は一気にオレンジ色に染まり、ワイバーン達はその大きな体を全て呑み込まれてしまった。
熱量もさることながら、瞬く間に空気を燃焼させた炎の威力にワイバーン達も落下の角度が変わる。
数秒後、ワイバーンが燃えながら地上に落下したため、大きな地響きが連続して発生した。
「ぎ、ぎりぎり……」
「た、助かったけど……」
ワイバーンはボーラ達に当たる寸前に地面に落下し、大惨事は免れた。
目の前に焼けた臭いを発するワイバーンが転がる光景に頬を引き攣らせ、ボーラはパナメラを見る。
パナメラは不敵に笑い、声を上げた。
「喜べ! 敵の主力たるドラゴンもワイバーンも壊滅した! 勝利は確定的だ!」
その言葉に、パナメラの騎士団が真っ先に反応し、歓声を上げる。遅れてボーラ達が歓声を上げると、徐々にその声は広がっていき、戦場を包み込むような大歓声へとなった。
その空気は否応なく敵の兵士たちの心を折る。
徐々に戦線は後退。最後には城門の破壊された城塞都市を捨てて、イェリネッタ王国軍は撤退していった。
勝鬨が上がり一部は追撃の動きを見せるが、すぐさまそれを制止する声が聞こえてくる。
「な、なぜ……」
ボーラが首を傾げると、パナメラが鼻を鳴らす。
「ドラゴンやワイバーンよりも、あの爆発する武器を危険と判断したのだろう。私が指示を出すとしても同様の指示を出す。なにせ、スクデットの裏は山道だ。あの武器を逃げながら投げられてみろ。数の利も何も無い。無駄に兵士たちを死なせるだけだ」
「な、なるほど」
難しい顔で頷くボーラに、パナメラは吹き出すように笑い、近付いて肩を叩いた。
「安心しろ。文句無しの勝ち戦だ。そして、最も戦果を挙げたのは貴様らだろう。主人に胸を張って報告出来るぞ」
笑いながらそう言われて、ボーラは瞬きを一つして、くしゃりと顔を歪めて笑った。
離れた場所から眺めていた一団は、遠くまで響く歓声を聞いて顔を見合わせ、笑う。
「結局最後まで観戦しちゃったね」
溜め息混じりにそう呟き、ヴァンは両手を上に体を伸ばす。
「無事に勝ったようですね……皆が怪我してないと良いのですが……」
不安そうなティルに、カムシンが胸を張る。
「ヴァン様の兵器を使って負けるなんてありえないでしょう。圧勝です。だからきっと怪我人もいません」
戦争が始まってからずっと興奮気味なカムシンが鼻息荒くそう宣言する。それに苦笑しつつ、ヴァンは頷いた。
「多分ね。とりあえずボーラ達は大丈夫だと思うよ。パナメラ子爵の性格なら意地でも守ってくれるだろうし」
「パナメラ様なら間違いないですね」
ヴァンの言葉にカムシンが即答した。そのやり取りを見て、アルテが笑いながら口を開く。
「ふふ。では、私も人形を戻して良いですね」
「そうだね。バレないように素早く逃げるよ」
「はい。では……あれ? あ、撤退中のイェリネッタ兵でしょうか。攻撃を受けたみたいで……」
戸惑うアルテの言葉に、ヴァンは一瞬考えるような素振りを見せたが、すぐに顔を上げた。
「とりあえず、馬に乗った人だけ捕縛出来るかな? もし黒色玉の入手経路を知ってたら……」
「分かりました。やってみます」




