ヴァンのお土産
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さて、まずは土台から、そう思った矢先に後方から怒鳴り声が響く。
「こぞ……! ヴァン男爵! 陛下の御前で無礼な態度を……!」
めっちゃ怒ってるやないか。
怒鳴りながら近づいてくる足音に冷や汗を流しながら、僕は素早く作業に移った。
まずは巨大な車輪付きの土台。すでにセアト村用に複数台製作しているため、瞬く間に土台一つ作り上げる。
魔術も数をこなせば慣れるものである。
そして、目論見通り、土台が出来上がると同時に迫り来る足音と怒鳴り声はピタリと止んだ。
ホッと一息吐きつつ、更に上部のカタパルト部分を作り上げていく。
柱が立ち、大きな軸が出来、芯棒がニョキッと生えた。我ながら面白い光景だ。よく出来たクレイアニメを見る気持ちに近いかもしれない。
更に芯棒を包み込むようにまた巨大な軸が左右に現れ、そこから前後に棒が伸びる。一見するとデカいシーソーだが、中身は凶悪だ。
素材もバネや軸、軸受、芯棒などの負荷が強くかかる部分にはミスリル合金なども用いている。
そうして出来上がったヴァン印の超最強カタパルトは、衆目の度肝を抜くに値する代物だった。
馬車一台でカタパルト一台分の素材が載っているのだ。出来上がったカタパルトのその大きさも見上げるほどである。
皆が一様に目を見開いて固まっている中、僕は二台目のカタパルトを作った。
そこへ、ようやく再起動が終わったベンチュリー伯爵が声を張り上げる。
「な、な、な、なんなんだ、これは!?」
その声に振り返ると、館前にはベンチュリー伯爵だけでなくマイダディやアルテダディ、パナメラの姿もあった。
そして、遅れて陛下が数人の騎士を伴って出てくる。
「おぉ! これがヴァン男爵の新兵器か!」
陛下がそう言って一番にカタパルトに近付いてくると、後ろから苦笑を浮かべたパナメラが付いてきた。
「また、随分と派手なものを作り上げたものだ」
呆れたような言い方でパナメラが感想を口にした。
「いえいえ。本当に派手なのは実際に動いた時ですよ。お楽しみに」
軽くそんな返事をして、僕は更にカタパルトを作り、軽量型バリスタも作る。
全てが完成してから、陛下を振り返った。
「さて。このカタパルトとバリスタ一式及び僕の自慢の騎士団を、パナメラ子爵に預けさせていただきます」
そう告げると、陛下とパナメラが無言で頷く。
と、それまで呆然としたまま動かなかった上級貴族の面々が口を開いた。
「ちょ、ちょっと待て!」
「誰一人疑問に思わんのか!? なんだ、今の魔術は!」
怒鳴りながら詰め寄ってくるベンチュリー伯爵に、馬車の横に立っていたカムシンが無意識に刀の柄を手にした。
腰を僅かに落として向き直るカムシンに、ベンチュリー伯爵だけでなく周囲の騎士達も空気を変える。
急速に張り詰めていく中、あえて僕はカムシンの首根っこを掴んで引き退る。
「うちの子が申し訳ありません。父の手前、これ以上余計なことは言わずに去るとしましょう。もし詳しく聞きたいならばパナメラ子爵にお尋ねください。それでは」
一礼し、更に一歩下がる。カムシンも慌てて頭を下げて下がった。
すると、ベンチュリー伯爵の代わりに陛下が口を開く。
「ふむ。これだけの武器があれば、必ず勝てるか?」
不敵な笑みを浮かべ、陛下がそんな質問をした。僕は立ち止まり、陛下に体ごと向き直って答える。
「必ず、とは言いません。でも、万全は尽くしました。敵が僕の予測を超えてこなければ、九割以上の確率で勝てます」
そう告げると、陛下は口の端を吊り上げて頷いた。
「ならば良い。では、またいずれ会おう」
「はい、それでは」
それだけの会話を終え、深く一礼してから踵を返す。
よっしゃ。もう帰っていいよね? 帰るよ? 帰っちゃうからね?
頭の中でそんなことを思いながら、僕は帰路についたのだった。
「……見た目は確かに凄いが、本当に使えるのか。どう思われる、フェルティオ卿」
「私とて初見だ……だが、陛下やパナメラ子爵は以前に見ており、その能力を把握している」
「む……」
ベンチュリー伯爵とフェルティオ侯爵がカタパルトを見ながらそんな会話をしている中、国王とパナメラは最後の確認を行っていた。
ヴァンの残した連射式機械弓部隊を前に、最前列で背筋を伸ばすボーラに声をかける。
「ふむ。この部隊の隊長は君か」
「は、は、はい! 名をボーラと申します!」
国王に声をかけられ、ボーラが緊張とともに名乗ると、国王は笑いながら頷く。
「以前見た記憶がある。頼りにしているぞ」
「……! あ、ありがたき幸せ!」
国王に覚えられていた。その事実に、ボーラは目を回しながら礼を述べた。
そこへ、部隊を預けられたパナメラが口を開く。
「ボーラ隊長。君達はヴァン男爵より預かった極めて重要な一団だ。損害を受けないように最大限の配慮をしよう」
「はっ! あ、ありがとうございます!」
パナメラの言葉に謝辞を返すボーラ。しかし、返事をするボーラの言葉尻に被せるようにパナメラが言葉を続けた。
「ただし、預かったからには君達は我が騎士団の一員として扱う。命令の絶対遵守はもちろん、我が騎士団として騎士の誇りと作法を覚えてもらうぞ」
口の端を上げてそう告げられ、ボーラは僅かに顔を引きつらせながら大きな声で返事をした。
「は、はっ! 肝に銘じておきます!」
パナメラの言葉とボーラの返事に反応してか、それまで少し緩い部分があった連射式機械弓部隊の面々に緊張感が張り詰める。
それをゆっくり眺め、国王は頷いた。
「流石は子爵。僅かな間に預かりの兵達の顔つきを変えたな」
小さくそう言われ、パナメラは表情を変えずに顎を引く。
「ヴァン男爵の騎士団は確かに高い戦闘能力はあるでしょう。ただ、それは単純に男爵の作り上げた武器の数々に依存したもの。はっきり言って、騎士達の練度や能力は低いと思っています」
「ふむ。確かにな。あのヴァン男爵のことだ。大して叱り飛ばしもせずに武器の扱いや隊列、戦い方について教えているだけだろう。竜討伐の騎士団長がいても、たった一人では隅々まで見ることはできまい。良いことか悪いことか、戦場においても何処か緩んでいるように見える」
「はい。他の騎士団と訓練を共にすることは良い経験となります。折角ですから、二、三週間程度でもみっちり学ばせてやりましょう」
そんなやり取りをして、パナメラと国王が笑みを浮かべる。
会話を聞いたわけでもないのに、その会話する様子を見て、ボーラ達は無意識に冷や汗を流していたのだった。
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