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僕の対応と準備

季節の変わり目は体調管理に気をつけてください。

油断すると、寝込むことになります。。。

 僕の言葉に、陛下が神妙な顔で口を開く。


「……多数の拠点を同時に攻め、更に小規模の町や村にまで兵を差し向ける。それは、現実的ではない話に聞こえるな。どの国もそうだが、隣国から身を守るために多くの兵や物資、経費が必要だ。故に、隣国と本格的に争う時でも総力戦とはならんのだ」


 一応、僕が子供であることを考慮して丁寧に説明をしてくれる陛下。ありがとう、陛下。感謝の意を込めて一度頷くが、丁寧に反論する。


「これまでは確かにそうだったのでしょうが、今回から戦の内容が変わりました。もし、イェリネッタ王国がワイバーンを数十体、傀儡の魔術師を数十人保有しているならば、各拠点に十から二十組ずつ向かわせるでしょう。スクデットですら陥落したのです。それを考えれば、同時に複数箇所が狙われることも十分有り得ると思います」


 そう答えると、陛下は顎を引いて背もたれに体重を預けた。


 一考に値すると判断してくれたのかもしれない。


 と、そこへフェルディナット伯爵が初めて口を開いた。


「……今の話、私としては十分に検討の余地があるように感じた。しかし、そうなるとヴァン男爵の言い分には少し気になる点があるように思う。まるで、ヴァン男爵ならばイェリネッタ王国の新たな戦い方に対応出来るかのように聞こえて……」


「対応は出来ると思います。ワイバーンも黒色玉にも対処可能です」


 はっきりそう返事をすると、フェルディナット伯爵も口を噤む。


 すると、苛々した雰囲気のベンチュリー伯爵が我慢できずにテーブルを叩いた。


「馬鹿馬鹿しい! こんな子供の戯言など聞いていられん! 国境騎士団ばかりか、フェルティオ侯爵殿の騎士団すら撤退を余儀なくされるような一軍がそう幾つもあってたまるか! 大体、そんな相手を貴様のような子供一人戻ったところでどうなるというのか!?」


 と、ベンチュリー伯爵は全くの正論を口にする。まぁ、こんな会議で子供が持論を展開しても説得力など欠片も無いだろう。


 とはいえ、僕も引くつもりは無いけども。


「僕が戻ったら、勝率は上がります。それは間違いありませんよ。それに、僕は何もせずに帰るつもりはありません」


 そう告げると、ベンチュリー伯爵はぎろりとこちらを睨んできた。いやー、怖いー。殺人鬼の目ですよ、あれは。


 そんなことを思いつつ、陛下に体ごと向き直った。


「僕はすぐにも帰路につかせていただきます。その代わり、虎の子の新型バリスタと新兵器である超絶最強カタパルトを置いていきます。もちろん、それを扱う最強連射式機械弓部隊もパナメラ子爵に預けますので、充分な戦力になることでしょう」


 そう告げると、陛下とパナメラは「おお!」と歓喜の声を上げた。


 だが、当たり前ながらベンチュリー伯爵は納得していない表情である。


 仕方なく、僕は椅子から立ち上がるとベンチュリー伯爵に対して口を開いた。


「納得していただくために、大変失礼なことを言わせていただきます。伯爵の剣、もしくは盾を貸してください」


 そう告げると、怒り出すかと思ったが意外にも伯爵は静かに隣に座る男を見た。すると、大柄な鎧姿の男は無言で分厚い盾を持ち上げる。すごい重そうなのに片手で持ち上げてるぞ、この人。


 ディーや他の冒険者達の中にもゲームのような大剣を使う人がいるが、魔術無しでも物理法則を無視したような世界である。


 盾を持ち上げたままこちらを見ている男の顔を見て、何となく疑問を持つ。ベンチュリー伯爵のとこの騎士団長だろうが、揃って厳つい顔の偉丈夫なのは何故なのか。


 あ、まさか伯爵のお子さんかな? そう思ったら似てる気がする。


「……これをどうすれば良いのか」


「あ、すみません。では、そのまま持ってもらって……手は、真ん中ですよね。よし……」


 と、ぼんやりしていたら男が困惑気味にそう口にしたので、色々と確認しながら盾の状態を見る。


「では、少しの間動かないでください」


 それだけ言うと、僕は素早く腰に手を伸ばし、剣を抜き、そのまま盾を切り落とした。


 大きな盾を縦に三割ほどカットし、ついでに勢い余って木製のテーブルも切り裂く。床までは切らずに済んだが、周りの者達は目が点となった。


 ガランガランと耳障りな音を鳴らして床を転がっていく盾の一部に、皆の目が向く。


「……これまでより、更に鋭さが増した気がしたが」


 パナメラが小さくそう呟いてこちらを見ると、釣られたように皆が振り返った。


 僕は視線を浴びて微笑み、自らの剣を顔の前に掲げる。


 我ながら見事な装飾の剣である。不純物の無い、美しい輝きを放つオリハルコンの剣だ。


「この剣は極上の一振りですが、僕が販売している鉄の剣もこれに近い切れ味です」


 そう言ってから、僕は皆の顔をもう一度見回して、再び口を開いた。


「そして、僕のバリスタで飛ばすのは、これと同等の切れ味の刃をつけた矢です。そのバリスタを使って緑森竜を討伐しました。ちなみに、僕の村に攻め込んできたワイバーンも旧型のカタパルトで討伐しています」


「バリスタでドラゴンだと?」


 低い声でそう聞き返すベンチュリー伯爵に、僕が答える前に陛下が口を開く。


「うむ。ワイバーンを一撃で落とすところならば見たぞ」


 陛下が一言そう告げると、流石の伯爵も黙らざるを得なかった。そこへ、駄目押しにパナメラが口を開く。


「私はドラゴン討伐に加わっていましたよ。魔術は全て足止めにしかなりませんでしたが、男爵のバリスタはドラゴンの鱗を貫通し、瞬く間に討伐してしまいました。その威力は保証しましょう」


 二人のその言葉に、ベンチュリー伯爵とマイダディ、アルテダディの三人が誰とも無く顔を見合わせたりしていた。


 流石に簡単には信じられない内容だが、陛下の言葉を疑う発言も出来ない、といった感じかな。


 まぁ、考えていても仕方がない。言葉では納得しないだろうし、僕は僕に出来ることをしてサッサと帰ろう。


「……それでは、僕は移動式バリスタとカタパルトを作って帰ります。矢とカタパルト用の手裏剣を詰めた樽は準備してありますので、そちらをお使いください」


「……今から作る、だと?」


「ヴァン。ここまで我慢して黙っていたが、貴様はやはり事態を分かっておらん……今は一刻を争う」


「はい、外に行きまーす!」


 怒りを再燃させ始めた頑固オヤジーズのセリフを断ち切り、僕は席を立って素早く部屋を出た。


 屋外に出ると、騎士たちが体ごと向き直り、入り口前に立っている騎士がこちらを見る。


「ヴァン男爵殿、会議は終わりましたか?」


 そう聞かれ、軽く頷きながら手を前に出す。


「うん。ちょっと準備があるから、その大通りを空けてもらえるかな?」


「は! 承知いたしました! 左右へ分かれろ!」


 騎士のおじさんは二つ返事で素早く指示を出した。うむ、流石は陛下直属の騎士達である。動きに無駄は無く、何より速い。


 後方からはどやどやと陛下達が出てくる気配を感じながら、僕は大通りの先にいる我が部隊に向けて大声を出した。


「ごめーん! 材料持ってきてくれるー!?」


「はい! 分かりましたー!」


 すぐにカムシンの返事がして、資材を積み込んだ馬車が動き出す。


 さぁ、パパッとバリスタとカタパルトを作って帰ろうか。








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