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後方支援がしたい

 館の二階に上がり、広間に案内される。


 広間は木材の壁や床の落ち着いた雰囲気の内装だった。真ん中には八人程度が並んで座れる長テーブルがあり、左右に三人と奥に一人の男が腰掛け、顔をつき合わせている。


 僕が広間に入ったことにより、全員の顔がこちらに向いた。


「む、ヴァン男爵! ようやく来たか!」


 僕の顔を見て、一番奥にいる一人がそう言って立ち上がる。


 ディーノ・エン・ツォーラ・ベルリネート国王陛下その人だ。


「あらかたスクデット攻略の手順は煮詰めたが、卿が来たなら話は別だ。改めて、男爵の戦力を加えた作戦を練るとしよう」


 上機嫌にそう言いながら、陛下は手招きをする。だが、周りにいる厳つい中年の男達は怪訝な顔つきである。


「……えっと、失礼します。あー、新参者ですがよろしくお願いします」


 適当に腰を低く挨拶をしとけば大丈夫だろう。そんな軽い気持ちで頭を下げつつ、僕も長テーブルの下座についた。パナメラは僕の右隣の椅子に笑みを浮かべてどっかりと腰を下ろす。


 と、最後にダディが無表情に横を通り、長テーブルの真ん中辺りの空いた椅子に座った。


 全員を軽く見回し、陛下は口を開く。


「さて、本来なら王都に隣接する領主に助力を求めるところだが、今回は時間が重要な要素となる。直接関係するフェルティオ侯爵騎士団、国境騎士団、フェルディナット伯爵騎士団、ベンチュリー伯爵騎士団、パナメラ子爵及びヴァン男爵……以上の戦力を結集し、スクデットを攻略するものとする。異論はないな?」


 陛下がそう告げると、痩せた垂れ目の中年男性が不安そうに僕を見た。上等な作りの傷一つない鎧を着ており、肩には風車をモチーフにした家紋が刻まれている。


 初めて見たが、あれがフェルディナット伯爵か。噂通り、自信の無さそうな顔つきである。


 フェルディナット伯爵は一瞬何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずに僕から視線を外した。


 うーむ。自信を持つ前のアルテに似てなくも無いか? やはり親子なのか。顔自体は痩せてはいてもイケてるメンズフェイスだ。アルテの美少女っぷりも納得はいく。


 そんなことを思っていると、アルテダディの対面に座っていた白髪の偉丈夫が眉根を寄せてこちらをマジマジと見た。


「……ヴァン男爵とは、まさかそこの子供の事ですかな?」


 と、嗄れた声でそんなことを言われてしまった。


「はい。ヴァン・ネイ・フェルティオと申します。つい先日男爵になったばかりで……」


 照れ笑いを浮かべつつ名乗ると、白髪の男は目を鋭く尖らせる。恐らく、あれがベンチュリー伯爵かな。初めましてである。ということは、残りは陛下のお付きとどちらかの騎士団長か。


「……陛下、悪い冗談はおやめください。こんな子供に何が出来ると……」


 ベンチュリー伯爵がそう言って振り返ると、面白そうに笑う陛下の姿を見て口を噤んだ。


「冗談か。まぁ良い。誰もがそう思うだろうが、ヴァン男爵の戦いぶりを見れば考えは変わるだろう。楽しみにしておくが良い」


 上機嫌にそう告げる陛下に、僕は思わず片手を挙げて口を開く。


「あ、すみません。僕、スクデット攻略戦には参加しません」


 ちょっと今度の会社の飲み会出れませんくらいのノリでそう告げると、皆の目が丸くなった。


 そして、ベンチュリー伯爵とダディの目が鋭く吊り上がり、フェルディナット伯爵は怪訝な顔つきとなる。ベンチュリー伯爵は僕からダディへ視線を移した。


「どういうことか、聞かせてもらいたい。そのままの意味で取るならば、これはまさか、我が子可愛さに戦に参加したという体裁作りではありませんかな?」


 ベンチュリー伯爵が低い声でそう言うと、話を振られたダディが眉間に皺を作って睨み返した。


「……卿は、私がそのような姑息な真似をする、と? 当主代行の長男を参戦させているのだ。末の子を引き退らせる意味もない」


 と、あんまりな言葉を口にする。


 その末の息子は十歳にも満たない子供でーす! むしろ、戦場に来ることを反対しろー! もっと可愛がれー!


 色々言いたいことはあったが、僕はそれらの言葉を呑み込み、代わりに笑みを貼り付ける。


「いえ、父は関係ありません。ただ、僕は自らの領地を心配しているだけです」


 そう告げると、ベンチュリー伯爵とダディの目はいよいよ鋭くなった。


「国防の危機である。それを、吹けば飛ぶような小さな村を守るために協力を惜しむつもりか」


「子供とはいえ、視野が狭すぎる。自らの小さな領地をいくら守ったところで、スクデットを拠点に侵略されたら更に窮地となるだろう。そのくらいの考えには気が付いてもらいたいものだ」


 怒りを滲ませるおじさん二人。


 その怒りを一身に受けながら、僕は軽く笑いながら頷く。


「それくらいは理解しています。逆に、御二方は僕の立場を理解しておいででしょうか。国防の危機に一軍を引き連れて現れた大貴族の御二方は、ちっぽけな村一つを懸命に守る一領主の境遇を想像だにしていないのではありませんか?」


 ヴァン君は怒ってるぞ。本当にぷんぷんしてるんだからね。


 そんな想いを込めて有無を言わさぬ物言いをしたつもりだったが、二人の顔は今にも何か言ってやろうといった険しいものとなった。


 だが、それを陛下が押し留める。


「ふむ……そこまで言うならば、何故この戦に参加しないのか話すが良い」


 ありがたい。陛下大好き。


 僕は咳払いを一つして皆を見回し、口を開く。


「ありがとうございます。まず、僕は本当に小さな、今にも潰れそうな村に領主として任につきました。たまたま騎士が三名と引退した老執事、メイドと奴隷の少年が自ら付いてきてくれましたが、それ以外には一切の援助も無かったのです。それでも頑張って、僕は約一年で村を大きく、強くしました。今では食べ物にも衣服にも困っていません」


 まず経緯を話すと、皆の目が我がダディに向いた。ダディは仏頂面で僕を見下ろしている。


 それを横目に、説明を続けた。


「ただ、それでも今はまだ小さな村です。その村から出来たばかりの騎士団を連れ出し、冒険者も大勢雇って此処へ来ています。そんな状態で、僕の村がイェリネッタ王国に攻められでもしたら、到底勝ち目は無いでしょう」


 と、とってつけたような言い訳を口にする。


 村の状況を知っている陛下とパナメラは若干苦笑いを浮かべているが、他は情報がないので即座に異論は挟めない。


 そう思って口を開こうとしたが、まさかのパナメラが疑問を発した。


「イェリネッタがヴァン男爵の領地を狙う可能性がある、と……何故、そう思うのか。フェルディナット伯爵領の砦ならば戦略的価値はある。しかし、ヴァン男爵の言う小さな村に、兵を送り込む価値は正直言って無いだろう?」


 その疑問に、皆の目がこちらに向いた。


 それに対し「想像の域を出ないのですが」と前置きしつつ、回答する。


「……長年攻めあぐねていたスクデット攻略に乗り出し、瞬く間に攻略してしまった。ワイバーンもその一つでしょうが、最大の理由は黒色玉を武器に取り入れたことです。イェリネッタ王国側の視点で考えるなら、これは今までの小競り合いとはわけが違う。相当な覚悟と自信を持って挑んでいるとしか思えません。もし、本気でスクーデリア王国を叩き潰すつもりならば、スクデット攻略のみではなく、他の重要拠点も即座に攻略していくでしょう。そのためには、攻略に時間のかかる籠城をさせないことが肝要です」


 それだけ話すと、パナメラが片方の眉を上げて、唸る。


「……つまり、補給に利用される近隣の村や町も?」


「手っ取り早く使えなくするだけで良いでしょう。つまり、焼き払います」


 そう告げると、皆が顔を顰め、押し黙った。







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