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合流

 嫌だ嫌だと言っている内に、スクデットに最も近い町に辿り着いた。


 あの敗戦の後なのだから、増援を含む軍の立て直しには時間が掛かっていると判断したのだ。


 町に着くと、すぐに大勢の騎士や傭兵などの姿を見かけた。だが、思ったより数が少ない。まさか、もう奪還戦に赴いたのだろうか。


「もしかして、僕の方から見えなかっただけで、城壁が大きく崩壊してたりしたのかな? それなら、相手が城壁を修復するまでに奪還戦に移りたい筈だよね」


 そう呟くと、ディーが腕を組んで唸った。


「ふむ……失態を取り返すためにもそうしたい気持ちは分かりますが、はたして……」


「籠城してる側が完膚無きまでに負けたんだからね。しっかり態勢を整えて挑むかな」


「私ならばそうしますな。増援を迎え入れ、城塞都市を攻略するだけの準備をするでしょう。長期戦を見込むのが常ですからな」


 と、町中でそんな会話をしていると、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。金属のぶつかり合う、鎧を着た者の独特の音も聞こえる。


 振り返ると、そこには驚くべき相手が立っていた。いや、想定はしていたが、まだ心の準備が出来ていなかったと言うべきか。


「お久しぶりです。父上」


 そう言って頭を下げると、一年ぶりに見た我がダディ、ジャルパ・ブル・アティ・フェルティオ侯爵がこちらを見下ろした。


 微妙に以前より痩せたような気がするが、その険しい眼つきは変わらない。周りには父の近衛兵たる金色の装飾がされた黒い鎧を着込んだ者達がいる。


 父は極端な実力主義のため、侯爵家騎士団は皆ゴツい者が多い。


 その精強な騎士達に囲まれた父は、腹立たしげな表情で僕を見下ろし、口を開いた。


「……男爵となったようだな」


「あ、はい。家名は変えていないので、ヴァン男爵と名乗っていますが……」


「……ドラゴンを討伐したと聞いた」


「あ、一応、緑森竜を」


 さらりとそう答えると、父は眉間に深い皺を作る。


「どうやった? あのクラスのドラゴンは、私とて単独では倒せない。それこそ、我が騎士団が総力を挙げて挑む相手だ」


 そう口にすると、父は探るような目つきで僕を見た。


「……えっと、バリスタで」


 答えると、父は息を吐くように笑う。


「はっ。バリスタだと? ありえん。まさか、ミスリルの槍でも飛ばしたか? そんなこと、不可能であろう?」


 馬鹿にするように言われ、溜め息を返す。正直に言っても、恐らく信じてもらえないだろう。


「……ジャルパ侯爵。何か、不要な剣か盾をください」


 そう告げると、父は一瞬目を瞬かせ、すぐに顔色を変えた。明らかに怒っている。


 しかし、何を思ったのか、父はその怒りを抑えて隣に立つ騎士を見た。


「予備武器を出せ」


「はっ!」


 騎士は淀みない動きで長さ七十センチほどの直剣を差し出してくる。


 それを受け取り、その場で鞘に入ったままの剣を地面と平行に持ち上げた。


「カムシン、斬ってみて」


 僕がそれだけ呟くと、カムシンは無言で愛刀を抜き、上段から切り下ろした。


 甲高い金属音が僅かに響き、父や騎士達が戸惑う。


「な、なにを……」


 剣の持ち主の騎士が何か言った瞬間、鞘に入った剣は真ん中から鞘ごと真っ二つになり、剣先側から地面に落ちた。


 有り得ない斬れ味と、それを成し遂げたのが十歳程度の子供であることに、父達は驚愕する。


 うむ。次にカムシンの剣を新調する時は「斬鉄剣」と名付けよう。


 そんなことを思っていると、父が信じられないものを見るような目で僕を見下ろし、口を開いた。


「今のは……その剣は、いったい……?」


 父の質問に応えようと口を開いたその時、反対方向から声がした。


「ヴァン男爵!」


 聞き慣れたその声に振り向くと、アメリカンなドリームを体現した見事なプロポーションの美女がこちらに向かってきているのが見えた。


「パナメラ子爵。お久しぶりです」


 パナメラは父と対照的な白と銀を基調とした軽装の鎧姿である。大きな戦用の勝負鎧だろうか。以前見たものより美しく優雅だ。


「ふむ。少し背が伸びたか」


「そうですね。いつか子爵よりも大きくなる予定です」


「はっはっは、楽しみだ! さぁ、陛下がお待ちだ。付いておいで」


「あ、もう陛下も到着してるんですね」


「うむ。陛下も心待ちにしていたぞ。また面白いものを用意したのではないか、とな」


 笑いながらそんな会話をしていると、放置していた父が顔を上げた。


「……ヴァン。本当に、緑森竜を討伐したのか」


 父は掠れた声でそれだけ口にした。その問いに、僕は曖昧に笑って頷き、答える。


「そうですね。とりあえず、陛下にご挨拶してから、バリスタを見せましょうか」


 そう告げると、父ではなくパナメラが上機嫌に口を開いた。


「うむ、それが良い。聞くより見たほうが早いというものだ。矢さえくれるなら私のバリスタを見せようか?」


「いや、今は子爵に渡したものより良い物がありますので」


「なに!? もう新しいものが!? 私も欲しいぞ!」


「ま、まぁ次回用意しておきましょうか。金額は応相談で」


 興奮するパナメラをなだめながら、僕は陛下のもとへと向かった。後ろからは少し離れて父も付いてきていたが、結局それからこちらに話しかけてくることは無かった。


 町の中を進んでいくと、徐々に兵士の数も増え、奥の正面にある二階建ての屋敷の前には明らかに豪華な鎧の騎士達が列をなしていた。


 見事な赤い鎧の騎士達だ。あれは王の赤鎧と呼ばれる陛下直属の親衛隊だろう。まぁ、他国の者からは畏怖とともに鮮血の甲冑などとも呼ばれているらしいが。


「パナメラ・カレラ・カイエン子爵である。ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵を連れてきた」


「どうぞ」


 パナメラが名を名乗ると、赤鎧達は一斉に左右に分かれて道を作った。面白い。


 赤鎧達はぴしりと背筋を伸ばし、判で押したように同じ姿勢で立っている。まさに、軍隊の整列といった感じだ。


「おぉ……」


 小さな声で感嘆の声を漏らすと、パナメラは息を漏らすように笑う。


「ふっ、陛下の近衛騎士を見て感動したか」


「はい。凄い迫力ですね。やっぱり、凄く強いんですか?」


 尋ねると、パナメラは笑いながら頷いた。


「それはそうだ。赤い鎧を身に纏うことができるのは僅か五百名。毎年行われる騎士登用試験で優秀と判断された者が現役の近衛兵と戦い、実力で奪い取らなければならない。つまり、本当に実力のある者しかなれないということだ」


 そう答えつつ、パナメラはちらりとこちらを見る。


「……まぁ、装備次第では少年にも勝ち目はあるかもな」


 と、小さく呟く。


 その言葉に赤鎧達の眼球がジロリと動いてこちらを見たが、パナメラは気にせずに館の中へと歩いていった。


 王国屈指の精鋭達に注目されながら、僕は苦笑いを浮かべて小走りに進む。


 パナメラめ。わざとだな。


 僕はパナメラのボンキュッボンな後ろ姿に鼻の下を伸ばしながら後に続いたのだった。








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