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新兵器と再出発

 簡単に投石機と口にしても、種類は様々である。


 人力のもの、弓やバネなどによるもの、錘によるもの。様々な形や種類がある。


 これまでの物は人力と魔獣の皮を使った弦を用いて発射する、独自の設計だった。


 だが、今回の投石機の模型のお陰で、新たな発想が取り入れられる。バネ式やパチンコ式を試したが上手く行かなかった。殆どの場合はバリスタの方が使いやすいくらいだったからだ。


 しかし、この錘を使った投石機の場合、単純に大型化していけば威力も飛距離も上がっていく。


 構造は単純なだけに、長い期間で改良が続けられており、最も効率的で使いやすい構造も探求が進んでいる。


 それを一から探っていくのは非効率的であるため、自ら作りながら、同時にベルランゴ商会に模型及び設計図の購入を依頼していたのだ。


 結果、手に入った投石機の模型は三台と設計図は五枚。これだけあれば、最高の投石機が作れるだろう。


 ちなみに、同時並行で探してもらっていた火薬の類は見つからなかった。残念ながら、まだこちらまで広がっていないらしい。


「まぁ、落ち込んでも仕方ない」


 僕はそう呟き、投石機の改良を開始した。


 今回の件で、飛行中のワイバーンを狙うならどのくらいの高度まで攻撃を届かせなければならないのか目星がついた。


 実際にはもっと高い場所を飛行することが出来るだろうが、魔術師を乗せて移動するならば、あれ以上高くは飛ばないように思う。


 寒いし、空気も薄いしね。そう考えると速さも制限があるのではないだろうか。


 ならば、投石機でも十分に攻撃が可能な筈である。


 模型の投石機では仰角四十度程度まで上げることが出来た。遠くに物を飛ばすことを考慮すると、あまり角度を高く設定出来ないのだろう。


 逆にシーソーのような形にすると仰角は大きくなるが遠くまで飛ばない。更には力も足りないから高度のある目標には届かない可能性がある。


 高さはありつつも、充分な威力でなくてはならない。


 その両立のために、僕は無数の模型を作った。


 そうして出来上がったのは、試作機五十四号。


 最もシンプルな錘式投石機に、初速確保のためのバネを加えたものである。仰角はなんと約七十度。それでいて、高さも威力も充分に備えた対空特化の投石機だ。


 装填するのは手裏剣入りの箱。改良して以前より上手く拡散するようにはしたが、前回使ってみたものと殆ど同じものだ。


 模型が上手くいったので大きなものを作成してみたが、思いのほか良い出来となった。


 射出された手裏剣は空中で見事に拡散し、空高く飛んでいく。


「おー、見えなくなった!」


 歓声を上げて喜んでいると、若干呆れ顔のディーが空を見上げて唸った。


「うぅむ……これは驚異的な代物ですぞ。高く飛び過ぎて滞空時間は長いですが、後に広範囲に降り注ぎますからな。敵が大軍であればあるほど効果を発揮するでしょう」


 そんな感想を口にするディーに笑い返し、頷く。


「そうだね。一回発射したら準備に時間がかかるから暫く使えなくなるけど、威力も射程も耐久性も及第点だ。火薬が見つかるまではこれで我慢しようか」


「……我慢、ですか。まさか、まだ不満とは……」


 僕の言葉にエスパーダが苦笑しつつ、そう呟く。他の者は大抵が絶句していた。その中で、全く動揺していないティルとカムシンは投石機を見上げて口を開く。


「それにしても大きいですねぇ」


「ヴァン様、この投石機は幾つ作るのですか?」


「設置式のものを東西南北合わせて二十機。移動式のものをとりあえず五機かな。あ、でも平地の街道だけなら良いけど、スクデットまで運ぶのは難しいかも……?」


「あ、確かにかなり厳しい道もありました。これだけ大きいと、坂道で倒れるかも……」


 僕とティル、カムシンにアルテを加えてそんなやり取りをし、ふと閃いた。


「そうだ。僕が現地で作れば良いんだよ。材料だけ運搬なら、何とかなるし」


 そう口にすると、皆が「なるほど!」みたいな感じで感嘆の声を上げた。


 自分の領民に対してだが、皆かなり感覚が麻痺してきている気がする。


 そんなことを思いながら、僕は高さ十五メートルにもなる投石機を見上げたのだった。







 そんなこんなで一週間。急ピッチで城壁の外側に新たな壁と投石機を設置した。更に、馬車を追加で五台用意し、中に投石機の材料を積み込む。前回使った装甲馬車もまた使用するため、今回はより大所帯である。


「もうちょっと投石機の運用訓練をしたかったけど、仕方ないね。現地に行って、チャチャっと投石機だけ作ったら帰るから、皆待っててね」


 村に残るエスパーダ達に別れを告げて、僕はまた戦へと赴く。


「あーあ。本当ならもう二度と戦争には行かないつもりだったのになぁ」


 そう呟く僕に、アルテが眉根を寄せた。


「そうですよ。あのバリスタを提供すれば充分と思います。わざわざ、新しい投石機まで……」


 どこか不満そうなアルテの言葉に、ティルが同意するように頷く。カムシンは何か言いたそうな顔をしているが、僕を見て口を噤んだ。


 僕は苦笑しつつ、首を左右に振る。


「正直に言えば、僕だって自分の村から出たくないんだよ。でも、もしイェリネッタ王国が侵攻を続けていって、セアト村の周囲の町を奪われてしまったら大変だ。砂糖が手に入らなくなったりしたら……考えるだけでも恐ろしい。だから、この近辺で言うとスクデットとフェルディナット伯爵の防衛拠点である要塞ザルツ。この二箇所は陥落されると困るかな」


 そう言うと、カムシンが困ったように眉をハの字にした。


「しかし、スクデットはもう奪われてしまったと思いますが……」


 と、不安そうな指摘が入る。だが、その言葉に僕は待ってましたと深く頷いた。


「だから、投石機を持っていくんだよ。スクデットを奪還した後に、スクデットに投石機とバリスタを貸与すれば良い。そうすれば、そう簡単には奪われないようになると思う」


「成る程! ヴァン様の武器があるなら大丈夫ですね!」


 カムシンは笑顔でそう答えた。


 それに頷き、僕は笑みを浮かべる。


「バリスタ、投石機は無償で貸し出そう。でも、それに使う矢と手裏剣とかは有料だ。定期的にセアト村から冒険者に依頼して行商してもらえば、かなりの稼ぎになるだろうね」


 待ちに待った、セアト村の定期収入である。


 笑いが止まらない。


「……ヴァン様が邪悪な笑いを……」


「スクデットとザルツ……ヴァン様のお父様と、私のお父様が代金を支払うということですね」


 ティルとアルテが若干引いていたが、やっていることは剣や鎧を卸すのと変わらない。真っ当な商売である。


 まぁ、恐らく僕以外は参入出来ない商売になるが。


「矢一本で金貨一枚ぐらいにしてあげたら良いかな。手裏剣は一枚で銀貨五枚。一箱ならサービスで大金貨二枚としよう」


 材料から考えたらぼったくり料金だ。


 だが、それにアルテは晴れやかな笑顔で頷く。


「流石はヴァン様です。そんなに安くお売りするなんて……やはり、そこで暮らす民のことをお考えに?」


「え? あ、うん、そう、そうね? 安い、よね?」


「はい。威力と貴重性を考えたら安過ぎるくらいかと」


 はっきりとアルテが断言する。どうやら安過ぎたらしい。


 アルテの微笑みを見ていると、値段を釣り上げるのも気が引ける。もう少し考えて値段設定すれば良かったか。


 僕は若干後悔しながら、再びスクデットを目指したのだった。








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