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出陣

 白銀に輝く十人乗り馬車が十台。馬は約五十頭。


 用意できる最大限の装甲馬車(ウォーワゴン)と馬だ。数は正直少ないが、それでも十分立派な騎士団に見えた。


「目的地までは二週間もの時間が掛かるとのこと。食料も予備の武器や盾も準備出来たし、秘密兵器も準備完了……よし、出発しようかな」


 確認を終えてそう口にすると、ディーが馬上から声を張り上げる。


「出陣である! 第五班以外は配置につけ! 第五班は馬車内でバリスタの準備をせよ!」


「はっ!」


 ディーの指示に皆が素早く動き、あっという間に行軍の隊列を整える。


 うむ、見事。ヴァン君は満足である。


「あ、あの、私も馬車で良いのでしょうか……」


 縦列に並ぶ馬車の六番目、最も豪華な内装の馬車内で、ティルが不安そうにそんなことを呟く。


「良いよ。僕のお世話係だからね。外で歩くと大変だもの」


 そう答えると、ティルは困ったように笑った。


 皆は交代制で馬車で休むが、僕は領主特権でずっと馬車である。その上、隣にはいつでも鎧を着られるように軽装のままのカムシンとティル。更に体力面に不安のあるアルテも乗っている。


 後は、超最強機械弓部隊の皆が順番で馬車に乗るという形だ。


「とりあえず、ゆったり進んでスクデット近くで偵察かな。敵が撤退してたら良いけど、多分まだまだ戦いの最中だろうし」


 この世界、魔術などがある割に攻城戦は長い期間がかかるのが普通らしい。結局、城壁を簡単に突破できるような魔術師など殆どいないため、常識的には攻城兵器などを用いて徐々に城壁や城門を破壊するしかないのだ。


 もちろん、一流の四元素魔術師が十人、二十人といれば話は別だが、それは中々難しい。なにせ、国を守るためにも有能な魔術師が必要だし、相手側も防衛のために魔術師を配備している、はずだ。


「国防の要であるスクデットにも魔術師は配備されてるよね?」


「勿論ですぞ! それに、あの地はフェルティオ侯爵領! お父上がすぐに騎士団を率いて救援に向かっているはずです!」


「そりゃそうか」


 出発前に聞いたディーの言葉に、僕は頷いて納得した。


 なんだかんだで、ダディは凄い。


 それはよく理解していた。実力主義過ぎて頭はおかしいが、本人の能力は間違いなく高いのだ。


 さらに、その父が一から作り直した騎士団も尋常ではない。実力のある者をかき集め、それを馬鹿みたいに鍛えている。


 ディーに鍛えられる合間に眺めていたが、訓練内容も、それに楽々ついてくる騎士達もクレイジーである。


 ちなみに、僕は少年兵達と同様の訓練であったため、その地獄の訓練には参加していない。


「まぁ、よほど人数に差がない限りは安心かな?」


 僕はそう思い、のんべんだらりと馬車の旅を楽しんだのだった。








 だが、現場に着いてみると、予想外の事態となっていた。


 戦いが終わっていたのだ。


 大きな黒煙が濛々と立ち昇り、崩壊した城壁や建物が痛々しい姿を晒していた。恐らく、国境騎士団や侯爵家の騎士団であろう兵士達が、陣形も無く散り散りに城塞都市から離れていく。


 そう。城塞都市スクデット、陥落の瞬間だ。


 城壁は一箇所が完全に破壊されており、その近くには黒い鎧を着た騎士団が大挙していた。


「……まさか、スクデットが一カ月や二カ月で攻略されるとは……」


 ディーの部下である兵士長のアーブが驚愕し、呟く。その台詞に、ディーが眉間に深いシワを作り、答えた。


「原因は、恐らくアレであろう」


 そう言って指し示した先には、城壁の一部を足場にして羽を休める、ワイバーンの姿があった。


 それも一体や二体ではない。二十を超えるワイバーンが、城壁の一角を埋め尽くしているのだ。


 異常な光景だ。普通ならば、あの街は魔獣に滅ぼされたと判断されるだろう。


 そして、城壁の内側ではまだ炎や風が吹き荒れ、怒号が響いている。


「まだ戦ってるみたい」


 そう口にすると、ディーが歯噛みして頷く。


「その通りです。恐らく国境騎士団が殿となり、侯爵家騎士団が退避を先導しているものかと」


「あそこは要塞であり、都市でもありますからね。一般人も多いでしょうし……」


「侯爵家騎士団が城塞都市の周囲に展開して応戦しています。まともに追撃されてはいませんが、完全に退却の時期を逃してしまっています」


 三人から深刻な戦況報告を受け、僕は腕を組み、唸った。


 城塞都市を落としたことや目の前の敵を追うことに意識を奪われ、敵はまだ僕たちに気が付いていない。


 無理はしたくないが、これならば多少の援護はできるか。


 そう思って、顔を上げた。


「……早いけど、秘密兵器を出すよ。いつでも逃げられるようにしつつ、準備をして」


 命令を下すと、ディー達が返事をして動き出した。


 素早く準備を整えていくディー達を見ながら、僕はアルテを振り返る。


「秘密兵器、大丈夫?」


 そう尋ねると、アルテは胸の前で両手の指を絡ませて頷く。


「……任せてください」


「うん、任せた」


 肩を震わせて決意を口にするアルテに、笑いながら応える。


「ティルとカムシンはアルテが無防備になるかもしれないから守ってあげてね」


「はい!」


「分かりました」


 ティルとカムシンは巨大な盾を構えて頷き、配置についた。


 僅か五分程度か。


 準備は調い、装甲馬車が左右に並ぶ形で置かれ、屋根の部分が御者席に向かって立ち上がる。


 素材は軽くて強いウッドブロックを主として作っているため、力持ち数人で楽々動かすことが出来た。


 そして、あっという間に馬車は巨大な壁へと様変わりする。真ん中に作られたスライド式窓を開け、そこからバリスタの先端を突き出し、準備は完了である。


 十台の装甲馬車で作られた巨大な壁とバリスタ。その後方にはバリスタの操作をする者と補助者。更に後方には連射式機械弓部隊とそれを守る大盾部隊。


 鉄壁の布陣だ。


「……よし。じゃ、攻撃を開始するよ! 派手にやった方が市民を逃す助けになるだろうし、思い切ってみよう! では、作戦通りにアルテから」


 そう告げると、アルテは頷いて壁の隙間から煙を上げる城塞都市を見据えた。


「行きます。自動人形(オートマトン)、ウノ!」


 アルテが叫んだ瞬間、馬車に一体だけ載せられていたウッドブロック製の人形が上体を起こした。


 半日調整を繰り返して完成したアルテ専用の人形である。服はそれぞれ微妙に違うが、皆ドレスに鎧が付いたようなデザインだ。身長は三メートルの細身。武器は二メートルを超える大剣と大盾である。


 身体や武器を出来るだけウッドブロックで作成したため、アルテの動かす負担も少ない。


 自動人形は馬車の上で立ち上がると、軽く跳躍してふわりと浮かび上がった。


 その自然な動きと身体能力に、見ていたセアト騎士団の面々も感嘆の声を上げる。


 そして、壁の向こう側に着地した自動人形は、アルテのイメージした通り、風のような速度で城塞都市に向けて走り出した。


 敵の一部が自動人形に気がつくが、もう遅い。


 敵の馬車を踏み台に跳び上がった自動人形は、空を切るように抵抗無く、ワイバーンの首を切り落とした。


「よし! 今だよ! 混乱してる内に、出来るだけ多くのワイバーンを射て!」


 叫んだ瞬間、前から狙いをつけていたバリスタが次々と矢を放った。


「傀儡の魔術で操られているワイバーンは初動が遅い! ゆっくりで良い! 確実に狙いをつけろ!」


 ディーの怒鳴り声に、兵士達の怒鳴り声が返ってくる。


 さぁ、戦争の開始だ。初めての戦争が盛大な奇襲からというのが実に僕らしいな。


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