武器、防具の供給
ベルランゴ商会支店のエスパ町メディチ商店。
素材の買取は本店であるセアト村店が専門だが、それ以外は本店同様の品揃えである。
つまり、大変忙しい。むしろ、最も街道に近い場所にあるため、販売は本店より忙しいかもしれない。
店内を覗いてみると、広めに作ったはずなのに買い物客でいっぱいだった。
いや、この客数は間違いなく本店よりも多い。やはり、美人店主の力か。
「もう槍は無いのか」
「すみません。槍はもう先日売り切れてしまって……」
「盾も欲しいんだけど」
「あ、盾はスモールシールドなら!」
「いや、このぐらいの、大きいやつを」
「すみません。その大きさの盾は……」
入り口近くにいた若い従業員が客対応に追われていた。
その従業員が僕に気が付き、ハッとした顔になる。
「て、店長! ヴァン様が! ヴァン様が……っ!」
嗚咽混じりに店長を呼ぶ従業員。その声に、客で来ていた冒険者や村人もこちらを振り向く。
そして、奥から疲れた顔のメディチが現れた。
「あぁ、ヴァン様! よくぞお越しになられました! その、今日は武器か防具の納品で……?」
恐る恐るといった感じで聞いてくるメディチに、僕は思わず正直に否定する。
「いや、そうじゃないけど……」
「あ、あぁっ!」
僕の言葉を聞くが早いか、メディチはその場に泣き崩れた。哀れすぎる。
「だ、大丈夫。すぐに作るから! ほら、材料を頂戴! バンバン作るよ!」
慌ててフォローすると、メディチは涙目で顔を上げ、祈りだした。
「あ、ありがとうございます! ヴァン様……!」
「どういたしまして……」
返事をすると、メディチは立ち上がってすぐに従業員達に声をかける。
「素材を! 木、鉄、ミスリルを持ってきてください!」
「はい!」
必死な姿と声を見て、僕はこれも一種の戦争である、なんてことを考えていた。
しばらくして、久しぶりに全力の武器、防具作りを行った。冒険者達が嬉々として並ぶので、箱と料金表を作り、貨幣をそこに入れてもらうことにする。
「短剣っす! 鉄が良いっす!」
「まっすぐ? 曲剣? 片刃?」
「あ、えっと……両刃でまっすぐっす!」
「……はい、こんな感じかな?」
「うぉおおっ!? 早い! 凄い! ありがとうございます!」
と、勢いに任せて次々に客をさばいていく。一人五分内が目標だ。
すると、二時間もしたら客全員に商品が行き渡った。
「頑張ったー……僕はライン工じゃないんだからさ。男爵ってなんだったっけ? 工場長の別名?」
「す、すみません。私にはさっぱり……」
僕は疲れからティルを虐めてしまう。すると、神は見ていたのか、迅速に天罰がやってきた。
「ヴァン様! 連れてきました!」
その声とともに、冒険者達を引き連れたオルトが現れたのだ。
「俺は大剣と防具一式で! あ、盾は少し丸みがある大型のやつが良いです!」
その嬉しそうな顔と声を見聞きして、僕は椅子に座ったまま項垂れた。
灰だ。灰になっちまったよ。真っ白に燃え尽きちまったぜ。今度からハイなヴァン男爵と呼んでくれ。
自暴自棄になったヴァン君は、結局その日全ての時間を武器防具の生産に費やした。
いや、大急ぎで戦争に参加したいわけじゃないから良いけど、どう考えても男爵の仕事じゃないぞ。
文句を言いつつ、次の日は次の日でセアト騎士団の面々と面談である。
セアト村の空き地に皆を集め、お立ち台の上に立つ。
騎士団は後から増えた元隣村の住民と奴隷達を含め、今では百人にもなった。まぁ、それでもまだまだ少ないが、村の人口を考えたら多過ぎるくらいである。
皆の注目を集めつつ、僕は口を開く。
「えー、騎士団の皆様。今回はセアト騎士団初めての遠征となります。目的地は近隣最大の城塞都市、スクデット。現在、防衛戦の真っ最中と思われる場所です」
そう告げると、皆の表情が硬くなった。特に、戦いの経験の無い村人や奴隷の面々だ。
まぁ、僕だって嫌なのだ。皆はもっとだろう。
「恐らく、相手はイェリネッタ王国の騎士団です。何度も我が国と小競り合いを続けており、我々と違って経験も多いでしょう」
話を続けると、皆が息を飲む。
その顔を見回し、あえて微笑む。
「ですが、恐るるには足りません」
そう言うと、一同がざわざわと顔を見合わせた。ディーも興味深そうに僕を見ている。
その視線を意識しながら、笑って右手の人差し指を立てて顔の前に持ってきた。
「僕達は最前線には決して行きませんからね」
僕の言葉に、皆がざわざわと顔を見合わせる。と、誰かが片手を挙げた。
期待の超最強連射式機械弓部隊の副隊長、ボーラである。
「はい、ボーラさん」
指差して名を呼ぶと、ボーラが口を開いた。
「あの、ヴァン様は新しく爵位を貰ったばかり、ですよね。それなら、むしろ最前線に配置されるんじゃ……」
「良い質問! 良い質問ですよ、ボーラさん!」
「っ!?」
僕のテンションにボーラがビクリと肩を跳ねさせる。だが、皆を納得させる理由を話せるのだから、ボーラにハイパータケシくんをあげたいくらいだ。
僕は笑顔で頷き、答える。
「何故なら、国王陛下が僕の作った武器や城塞都市に興味を持っているからです! 他にも理由はありますが、とりあえずたった二、三百人の新参騎士団が最前線に行けば壊滅の可能性が高いため、後方に配置される……はず!」
そう告げると、今度は全身新しい装備となったオルトが口を開いた。
「そうなりゃ有難いですが、もし前線に配置されてもこの面子なら何とかなりそうですがね。ほら、ヴァン様が作った機械弓も五十以上あるんでしょ?」
「まぁ、そうだけどね。でも、やっぱり前線に出てれば戦死者は出ちゃうからね。全員無傷で帰るを目標に行動します」
言いながら、僕はティルとカムシンに合図を出し、前に並べていた木の箱を開けていく。
最前列の団員が爪先立ちになって中を覗こうとしている。
その様子に苦笑しながら、カムシンを見て一番右手の箱を指差した。
カムシンは頷いて移動し、箱の中身を持ち上げて顔の前に出す。
「今回、身を守るための新たな装備を準備しました。軽くて丈夫な大盾です。地面に立てて肩を盾の裏側に押し付けて構えれば、すっぽりと全身が隠れるように出来ています。構えたままでも上部に格子を付けた小さな窓があるので、そこから前方を確認出来ます」
説明し、先頭に並ぶ団員達に盾を配ってもらう。
「おぉ、軽い!」
わいわいと盾を持って騒ぐ皆を眺めつつ、補足説明を行う。
「鎧と同じ素材だからね。軽くて鉄並みだよ。ちなみに、表面には薄くミスリル板を貼り付けてるから、炎による魔術を受けても一回か二回は耐えられる、はず!」
「おぉ、なんと!」
「……検証は出来てないけどね」
最後の言葉は小さく呟いておく。皆を不安にさせるわけにはいかない。
まぁ、出来る限り遠距離から矢を射かけたりして援護に徹するつもりだから大丈夫だろう。
「後は馬車かなー。ちょっと作ってみよう。国王とパナメラさんの旅程を考えたら、多少時間はあるかな」
そんなことを呟きつつ、その日は解散し、ディーに騎士団の訓練をしてもらった。
と、いうことで僕は翌日から馬車作りを行い、三日で完成させた。
色々と突っ込まれたが、笑って流した。
はっはっは。ヴァン君は安全の為には手段を選ばないのだ。自重などする訳がない。
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