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【別視点】蹂躙されし者達2

 近付いても何も起きなかった。


 いや、城壁の上で兵士らしき者達が動く姿はあるのだ。しかし、一切攻撃はしてこない。


 そろそろ長弓ならば届いてもおかしくない距離である。だが、やはり城塞都市は沈黙を守っていた。


 矢が飛んできても盾で防げるように隊列を整え、慎重に前進する。


 そして、ついには城門を見上げることの出来る距離にまでたどり着いた。


「まさか、この城塞都市も機能していないのか」


 そう口にした瞬間、城壁の上から声がした。


「ここはヴァン男爵の領地、セアト村でーす! そちらの所属を教えてくださーい!」


 まさかの子供の声だった。その上、内容もそんな気の抜けたものである。私が笑う前に、険しい顔をしていた兵士達が吹き出すように笑い出す。


 少数の要塞攻めに緊張していたところにコレだ。笑うなという方が酷というものだろう。


 だが、笑ってばかりというわけにもいかない。この場所は長弓ならば届く距離なのだ。


「我々はこの村の調査に来た! この村にはこのような城壁は無かった筈だが、何故こんな城塞都市になっている!?」


 嘘を交えつつ、この状況について尋ねた。敵意が無いように見せるためである。


「つい最近出来たばかりですよー! 魔獣もよく出るので、守りを固めてまーす! 兵士の皆さんは、何故わざわざイェリネッタ王国から来たんですかー?」


「な、何故、我々がイェリネッタ王国の者と分かった!?」


 旗も出しておらず、鎧なども大した違いはない筈だ。どうやって他国の者と看破したのか。


 驚いていると、空から呆れたような声が聞こえてきた。


「……まぁ、カマをかけただけですけどね。エスパ町からまっすぐにこの村を目指してきたこともそうですけど、あまり賢い方ではないようですねー?」


「ば、ば、馬鹿にしてるのか!? 貴様、降りてこい! 子供だからと手加減してもらえると思うなよ!?」


 カッとして怒鳴り返す。すると、城壁から笑い声が聞こえてきた。


 恐らく兵士達が我々を嘲笑っているのだ。


「ば、馬鹿だ! 馬鹿がいるぞ! わっははは! こんな相手ばかりなら戦も楽なのだがなぁ!」


「まったくその通りですな」


 と、完全に舐めきった声まで聞こえてきた。


「ぐ、ぬぬぬ……! 」


 怒りに立ち眩みしそうになる。


 それもこれも、奴らは城壁の上にいるという安心感があるせいだ。攻められないと思い、気が大きくなっているに違いない。


 私は息を深く吸い、再度怒鳴る。


「馬鹿は貴様らだ! ワイバーンは上空から攻めることが出来るのだぞ!? 城壁など意味を成さん!」


 そう叫ぶと、城壁からの声は止んだ。


 私は斜め後ろに立つ兵士に声をかける。


「ワイバーンを操る傀儡の魔術師に指示を送れ。低空飛行して脅かしてやるのだ。恐怖を与えたら降伏勧告をするぞ」


「ウニモグ様、それは無茶かと……」


「何故だ!?」


 反論してきた兵士を睨むと、兵士は眉根を寄せて口を開く。


「四元素魔術師がいた場合、ワイバーンは攻撃を受ける可能性があります」


「馬鹿か、貴様! 下位とはいえワイバーンはドラゴンだぞ!?」


「……分かりました」


 兵士は不服そうに答えた。


 高速飛行中のドラゴンなら攻撃を当てられる可能性は少ない。それに一、二回魔術による攻撃を受けたところで死ぬことはない。更には敵の戦力を見定める良い目安になる。


 これだけ簡単なことが何故分からないのか。


「傀儡の魔術師に指示を出しました」


「うむ。恐慌状態になった場合、無謀な行動に出る可能性がある。気を払え」


 私はそう言って城壁の上を睨んだ。


 城壁の上では何か人が動いているようだが、何も出来ないに決まっている。せいぜいが長弓を射る程度だろう。そんなものは話にならない。


 さぁ、どれだけ驚くか見ものだ。


 そう思って眺めていると、ワイバーンは大きく弧を描き、風のような速度で城壁の上を飛来するところだった。


「行け! ドラゴンの恐怖を思い知るが良い!」


 高笑いをしてそう叫んだ瞬間、城壁の上から声がした。


「発射!」


 その声と共に、空から黒い雨が降った。


 扇状に広がる黒い雨は、まるでワイバーンを包み込むように広がっていく。


 風を切る音とワイバーンの呻き声が聞こえ、力を失ったワイバーンが高度を落とした。城壁の半ばほどの場所に頭から叩きつけられたワイバーンは、そのまま地面に落下する。


 遅れて、黒い雨は速度を緩めていき、やがては我々の頭上に向かって降り注いだ。


「た、盾だ! 盾を構えろ!」


 誰かが叫び、私は慌てて重装兵の後ろに身を隠した。次の瞬間、激しい金属音と湿った衝突音、更には大量の悲鳴がいたる方向から聞こえてくる。


 わけが分からないまま、身を縮めてしゃがみ込んだ。


 数秒間もの間降り注いだ雨は止み、私は恐る恐る目を開ける。


 そして、周囲の状況に気が付き、驚愕した。


「ば、馬鹿な……!? なんだ、これは……!」


 周りには、我が兵達が倒れていた。呻き声や悲鳴を上げており、死んだ者は少ないかもしれない。


 しかし、どう見ても戦える状況ではない。


「な、何が起きた……魔術か!?」


 誰にともなく叫ぶが、返答は無い。私と同じように無傷だった者も多くいるが、何が起きたのかはわからないようだった。


 倒れた兵士を確認すると、鎧には大した傷も無い。やはり魔術によるものか。


 そう思ったが、ふと、地面に落ちている不思議な物に気が付き、跪いた。


 四方に尖ったナイフの先端のようなものを備えた平べったい金属だ。手のひらほどで薄いため重くはない。


 よく周りを見てみれば、そんな金属の板が無数に落ちていた。


「……これは、これは何だ……!? これが、今の攻撃の正体か!?」


 叫ぶと、子供の声が返ってきた。


「四方手裏剣。平形手裏剣の一種だね。薄くて軽いから、大量に詰め込んで四方手裏剣爆弾を作ってみたんだ。数撃ったから当たったね、嬉しいな大作戦。まぁ、一発限りしか撃てない専用バリスタがまだ二機しかないからね。あんまり多数の相手にはまだ対処できないけど」


 と、そんな声が聞こえて、振り返る。


 気付いたら跳ね橋が音も無く下りてきていて、門が半ばまで開かれていた。その隙間には、思った以上に幼い子供の姿があった。


「実験はまぁまぁ成功だったね。ただ、思ったより攻撃範囲が狭かったかな。それと、空中で弾けた手裏剣の一部がこちらに戻ってきたのは危なかった。改良しないと次回は使用出来ないよねぇ。残念」


 そう言って苦笑する子供は、まるで街の中を散歩でもするかのように歩いてきた。


 左右、後方には鎧姿の男達が並び、剣と盾を構えている。隙など見当たらないが、この距離ならばもしかしたら。


 思うが早いか、私は動き出していた。


「焼かれて死ね! 炎の……!」


 魔術の詠唱を開始する。最速の魔術ならば十秒もかからない。兵士たちが盾を構えて警戒するが、もう遅い。


「水よ」


 だが、私よりも早く魔術を発動する者がいた。その低い男の声と共に、大量の水が周囲を浸水させる。


「……凍れ」


 そして、次の一言で全ての水が凍りついた。足首まで凍りついた私は動けなくなり、動揺から発動間近だった魔術まで霧散する。


「土壁」


「風刃壁」


 直後、年嵩のいった男の声と中年の男の声がし、目の前に巨大な土の壁と竜巻のような風の壁が出現した。


「わっはっは! やはり、我が一番であるな。年季が違うぞ、年季が」


 そう言って、美しくも妖艶な美女を連れた派手な男が壁の向こう側から現れた。


 子供も付いてくるが、私の目はその男の顔から離せなかった。


「お、お前は……! まさか、スクーデリア王国の……!」


 私の言葉を聞き、男は眉間に皺を寄せてこちらを見下ろした。


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