ようやく使者が
申し訳ありません。更新頻度が少し落ちます。
アルテの人形の舞いを酒の肴にバーベキュー大会を開催してみた。
最初の戸惑いや恐れはどこにいったのか。
即席で作った舞台の上で踊る人形を眺めつつ、皆が楽しそうに食事を楽しんでいる。
四方を篝火で照らされた舞台の上で、人形は美しく舞う。
アルテも嬉しそうに人形を踊らせた。
「魔力は大丈夫?」
そう尋ねると、アルテは額に汗を浮かべながらも晴れ晴れとした笑顔で頷く。
「大丈夫です。ミスリルの人形を動かすことに比べたら紙を操るくらい簡単ですよ」
興奮した様子でそう答えたアルテだったが、なるほど、人形は躍動感たっぷりに動き回っている。
「素材かな? 金属だから難しかったのなら、もしかして比重が大きいと魔力が通りづらかったり?」
疑問は次々と湧いてくる。
だが、今はアルテが喜んでいることだけで満足しておこう。
今日を最高の夜のまま終わらせてあげなければ、アルテが可哀想だ。
そう思い、僕はアルテが楽しくなるような話題を振り、夜更けまで笑いあったのだった。
翌日、テンションを上げすぎて疲労とアルコールを持ち越した住民たちがノロノロと仕事に向かう中、街道を見張る村人の一人から報告が入った。
「ヴァン様! なんか凄い馬車が来ます!」
「凄い馬車?」
首を傾げると、たまたま通りがかったオルト一行が振り返る。
「あぁ、それは王都からの使者じゃないですかね? 今回はちょっと遅かったけど、普通なら竜討伐があればすぐに使者を派遣して状況の確認とかしますから」
オルトがそう言うと、プルリエルが口を開く。
「あ、ヴァン様が男爵になられたから、その書状の準備とか手続きがあったのかもしれませんよ」
「それとダンジョンの確認もありやすぜ」
盛り沢山だな。
「なるほど。じゃあ、悪い意味で来たわけじゃなさそうだね」
ふむふむと頷いて呟いていると、オルト達は苦笑混じりに片手を挙げた。
「ちょっと面白そうなんで、俺たちも見てて良いですか?」
「え、面白いかな? まぁ、良いけど」
オルトの言い分がよく分からなかったが、一応了承する。
と、そんなやり取りを聞いていた村人や冒険者達が興味深そうな顔をした。
「なんだなんだ?」
「ヴァン様の叙爵式だってよ」
「ヴァン様、何になるんだ?」
「男爵だよ、男爵」
「ヴァン様って侯爵家じゃなかったか?」
「ヴァン様が侯爵ってわけじゃないんだよ」
皆が結構な音量でガヤガヤと話し始め、僕は一人唸る。
あいつら、最近遠慮がなくなってきたな。僕は良いけど普通の貴族が相手ならめっちゃ怒られるぞ。
「ヴァン様、男爵になったらバーベキュー大会っすか?」
「朝から最高じゃねぇか!」
一部冒険者が勝手にバーベキュートークで盛り上がりだした。自由人めが。
「やっても夜だよ」
溜め息混じりにそう答えておくと、冒険者は跳び上がって喜ぶ。
「よっしゃあ!」
「ヴァン様、肉焼き用の網用意します!」
「炭は何処だ!?」
「まだ早いってば!」
騒ぎ出す冒険者達に突っ込んでみたが、まったく聞こえていない。
冒険者達が声をかけたせいで、村人達も協力して準備が始まる。網や炭、酒樽が並んでいくのを眺めて、諦める。
ダメだ。あいつら肉焼中毒者だ。更生施設を作ろうかな。食事は野菜と果物だけの施設を。
そんなことを考えていると、馬車は村に到着した。
どうやら馬車の側面に王家の紋章があるらしく、僕も仕方なく村の入り口まで出迎えに行く。
星型城壁は完成しているため、その正門まで行くだけだ。ちなみにまだバリスタは連射式の機構は取り入れておらず、二連式のままである。
「ヴァン様、部下を全員連れていった方が宜しいかと……」
エスパーダの言葉に、僕は頷く。確かに、子供の僕一人が出迎えても威厳がないか。そう納得して、集合の号令をかける。
ディーを筆頭に超最強連射式機械弓部隊五十人を含めたセアト村騎士団百人の整列。そしてエスパーダ騎士団三十人の整列だ。
おぉ、意外にも百人を超えるとそれなりに見える。
百三十人が僕の作った装備を着て、揃ってこちらを見ている。なかなかに壮観だ。
装備は基本的にはウッドブロックの兜や鎧、盾と、各々の力に合わせてウッドブロック製か鉄製の剣だ。
正直、その辺の騎士団相手なら全てウッドブロック製の装備で充分だが、強大な騎士団を相手にするとそう簡単では無いらしい。
ということで、現在の装備が標準のA装備。他にも鉄の盾やミスリルの剣のB装備。遠距離専用の長槍とタワーシールド、機械弓のC装備を用意している。
本当は機動力のある騎馬隊も欲しかったが、まだまだそこまでは難しい。
「よし。それじゃあ、使者を出迎えるとしようか」
そう言って踵を返し、正門へと向かった。
正門を開放すると、もうすぐ近くに馬車は来ている。馬車と四人の騎兵を先頭に、後方には同一の鎧姿の兵達も見えた。
かなり物々しい。
「ドラゴンが出るような辺境ってことで、多めの戦力を派遣したのかな?」
首を傾げながらそんなことを口にしていると、先頭の騎兵が馬を走らせて先行してきた。
アポイントをとろうとしているのかね。仕方ない、このヴァン男爵の時間を空けてやろうか。
胸を張って待つ僕のすぐ前にきた騎兵は、その場で馬から降り、兜を脱いだ。
すると、美しく長い金髪がふわりと現れる。
「やぁ、ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵殿」
そう言って現れたのは、パナメラ・カレラ・カイエン子爵だった。
パナメラは不敵に笑うと、僕を見下ろした。
「あ、パナメラさん。お久しぶりです」
驚いた僕は逆にあまり大きな反応もできず、素っ気ない挨拶を返した。それが不服だったのか、パナメラは眉間に皺を寄せる。
「なんだ、少年。随分と寂しい反応じゃないか。他に女でも出来たか?」
ウィットに富んだジョークである。だが、僕はそれよりもパナメラのダイナマイトボディーが鎧に入りきったことが不思議だ。
「アルテとは前より仲良くなりましたよ」
そう答えると、パナメラは僕の後方に目を向けた。
すると、アルテが笑顔で頭を下げる。
「お久しぶりです、パナメラ様。ご機嫌はいかがでしょう」
その屈託の無い微笑みに、パナメラは珍しく目を瞬かせ、次に僕を見た。
「……少年。どんな手品だ? それとも、まさか洗脳の魔術か? たった二ヶ月か三ヶ月で、どうやってあんな変化が起きる?」
パナメラは驚嘆しながら質問してきたが、そんなことを聞かれても困る。
「さて……何故でしょうね。まぁ、アルテが魔術に自信を持てずにいたようなので、僕なりに魔術の使い方を教え、アルテの魔術がどれだけ素敵なものなのか話したくらいですが」
「それだろう、どう考えても」
僕の回答にパナメラは珍妙な顔でそう言った。そして、息を漏らすように笑う。
「ふ、ふふ……なかなかの色男ぶりだな。これは今後が楽しみだ」
そう口にして肩を小刻みに揺らして笑ったパナメラに、馬車の方からわざとらしい咳払いが聞こえた。
「おっと、話し込み過ぎたか」
その咳払いにパナメラは呟き、すぐ後ろで止まった馬車を振り返って跪いた。
「さぁ、頭を下げろ、男爵。陛下の御前だ」
その言葉に反射的に僕は跪いて頭を下げる。
え? 陛下?
僕が驚いていると、厳かに響く低い声がした。
「……お主がヴァン・ネイ・フェルティオか。我はディーノ・エン・ツォーラ・ベルリネート。スクーデリア王国国王である。お主は新たに男爵として貴族の末席に加わることになった。精進し、国に利益となる働きを見せよ。貴殿らの力と知恵により、我が国は更に強大なものとなる。期待しておるぞ」
と、突然現れた陛下の口上を聴きながら、僕は絶賛混乱の中にあった。
いや、国王が王都を離れるなよ。しかも新しく叙爵したばかりの男爵のところになんて、ありえないだろう。
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