叙爵と面接
「ヴァン様は正式に男爵位を叙爵されました」
「マジでか」
「はい。正式な書状と告知は一ヶ月後までに使者が届けるとのことです」
僕は男爵となった。
これで、ダディが何か言ってきても無理やり領地を取り上げたり、僕を領主から解任したりは出来なくなったのだ。
「やったね」
「おめでとうございます!」
勝利のVサインをすると、ティルが大喜びしてくれた。
「パナメラ様は村には来ないんですか?」
カムシンがどこか寂しそうにそう尋ねると、ランゴは頷いて答える。
「子爵は今回の件を伯爵に報告し、その後ある程度の形を整えてからまた赴く予定だと言っておりました。はっきり言ってしまえば、伯爵家の派閥に属しているよりも、ヴァン様と組んで領地を育てる方が面白くなると考えているようで……」
「え? この村に住むの?」
領主は僕だけど、爵位が上のパナメラがいるとやり辛い。当人は好きだが、上司はあまり嬉しくない。そんな気分で聞き返すと、ランゴは首を左右に振る。
「いえ、隣に領地を貰うつもりのようです。どう交渉するのかは分かりませんが、この村に隣接する場所に町を作ると言っておりましたが……」
「そんな簡単に領地なんて貰えるの?」
僕が言って良いのか分からないが、思わずそんな言葉が口から出た。
だが、パナメラなら何とでもしそうではある。
「パナメラ様ならきっとすぐに領地を与えられますよ!」
と、カムシンも太鼓判を押す。
そうだろうね。なんか、気付いたら女王とかなってそうだもの、あの人。
「あ、それと、ヴァン様が言っていたアーマードリザードの素材と討伐に関してですが、お兄様のムルシア様の助力により、達成したと伝えております。なので、最初の盗賊団撃退ではヴァン様お一人の、アーマードリザード討伐ではムルシア様との、ドラゴン討伐ではパナメラ様との共同戦ということになっています。素材は出来たら王家で買い取りたいとのことです」
「あ、そういえば兄上の手柄にするって言ったね。他にも何か……あ、猪とか狼も兄上が助言したお陰で狩れたとかにしようか。そうすれば、兄上の当主への道も……」
そう答えると、静かに話を聞いていたエスパーダが首を左右に振る。
「いえ、それはやめた方が良いでしょう。叙爵やドラゴン討伐という大事が無ければ問題はありませんでしたが、今回のことで王都より調査隊が参ります。調査隊は戦地や領地の状況、戦った者の情報を仔細に渡り調べるのが仕事です。あまり、離れた地にいるムルシア様の話題は出さない方がよろしいかと……」
「余計な疑惑を生む?」
「はい」
「それは面倒だなぁ。よし、やめとこう」
まぁ、兄上は真面目で努力家だから、放っておいても当主になるだろう。
そんなことを思いながら、僕はランゴ達とバーベキュー大会を楽しんだのだった。
ランゴと奴隷の歓迎会の翌日、僕はベルとランゴを呼び、奴隷達の面接を実施することにした。
ちなみに、元からそのつもりだったらしく、ランゴは嬉しそうに奴隷達を呼びに行く。
「百五十人となると、王都の奴隷市の何割か買い占めたということでしょうね。また派手にやりましたね……」
ベルが苦笑しながらそう言い、僕は「ふむ」と唸る。
「メアリ商会が手数料を無料にしてくれたっていうのが気になるね」
「ヴァン様の御気分を害したと思って、機嫌取りをしたのでは?」
「無害なのに? 王都にいて国内に絶大な力を持つメアリ商会と、辺境の外れの新男爵だよ。僕の機嫌なんて影響はないでしょ?」
疑問に思ってそう聞くが、ベルは困ってしまった。
「それは……おそらく、メアリ商会がヴァン様を高く評価している、ということかと」
言っていて、ベルも自分で首を捻る。そりゃ、辺境で地位と権力を得ていくと思われるのは恐縮だが、国王の後ろ盾を得ているメアリ商会にはやはり大した影響はない。
まぁ、忖度してくれるならありがたい。次回、何かあった時は優先してメアリ商会と取引すれば良いだろう。
そんなやりとりをしている内に、ランゴはまず十人の奴隷達を連れてきた。
朝から湖を開放して、奴隷達はそれぞれ体を拭いたり水浴びをしたりして身を清めた。アプカルル達に驚いていたが、すっかり人間に慣れたアプカルルの子供達が、女性用水浴び場を作成したりして手伝いなどもしていた。
服や靴も提供したため、今目の前に並んだ男女もとても奴隷には見えない。
「こちらは、本来であれば金貨三枚から十枚を超える価値が付けられる奴隷達です。ヴァン様が必要でしたらご購入をお願いします」
ベルがそう言って奴隷を紹介していく。
元男爵の娘。元騎士の男。騎士の娘。風の魔術適性の男。土の魔術適性の女。元Bランク冒険者の男。潰れた大手商会長の娘。敵国の士官だった元騎士の男などなど。
本来であれば、平民よりも立場が上だったり金持ちだったりする者達だ。
「風と土の魔術適性の二人は、どれほどの魔術が使えるかな?」
「ウルフ、オークを一撃で討伐できます」
「土の壁を作り出すことができます」
「採用」
特に、土の魔術適性を持つ二十歳前後の女の人。エスパーダの助手にどうだろうか。
「では、商会出身の女性の方。会計や商売に携わったことはある?」
「は、はい。子供の頃から、店舗の運営をやって……」
「おぉ。これはベルランゴ商会の方が欲しい人材じゃない?」
「勿論、ヴァン様が良いと言うなら我々の方で店舗を任せたいと思いますが……良いのですか?」
と、僕の提案にベルが女性を見て聞き返す。あぁ、すっごい美人だからかな?
「良いよ? 綺麗な人だから、エスパ町かセアト村の入り口に武器防具の店とか開いたら凄い売り上げ良さそう」
「ありがとうございます! では、エスパ町の武器屋を任せたいと思います」
そんなやりとりを聞き、元商会長の娘は混乱しながらもベルの方へ移動する。
「戦える人は騎士団を作ってる最中だから、そこで雇おうかな。ただ、強いからって偉そうにしちゃダメだよ? うちではただの村人だった人も立派な騎士団員だからね。同僚として仲良くしようね」
そう告げると、騎士や冒険者だった男達は嬉しそうに笑う。まぁ、奴隷から騎士になるなんてまず無いからな。安心するよね。
「後は、元貴族の子か」
そう呟き、元男爵の娘とやらを見る。年齢は十五ほどで、最初から一番不安そうにしていた美少女である。
今も、長いスカートの裾を両手で握り、肩を小さく震わせている。
「……そうだなぁ。宿屋の女主人と騎士団、もしくは領主の館のお手伝いさん。その中だとどれが良い? お手伝いさんの場合は、ティルっていう優しくて可愛いメイドさんが仕事を教えてくれるけど」
「も、もう。ヴァン様ったら」
僕の言葉に、後ろでティルが照れた。間違いではないからね。可愛いし。
「そ、それでしたら、お手伝いさんが……」
娘さんはホッとしたのか何なのか、とりあえず顔を上げて初めて口を開いた。
むむ、可愛い。やっぱり僕の秘書にしようかな。いや、ティル一人で秘書は足りてるしなぁ。
あ、エスパーダの秘書に……いや、ダメだ。絶対にスパルタで教育されて泣く。号泣する。
まぁ、あんなに可愛いメイドさんいたら楽しいかもしれないし、良しとしようか。
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