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【別視点】連れてこられた奴隷達1

 王都の外れにまとめられた奴隷市。


 ここでは、新しく奴隷になった者と、店先で売れ残った者の二種類が同時に売られる。


 新しく奴隷になった者は最低限の教育は受けているが、元は奴隷ではなかったというのが売りだ。


 つまり、誰の奴隷になったこともなく、良い意味でスレていない。


 逆に、奴隷市や店先でも売れ残った者は技能を売りに市に並ぶ。店先では店員が客に一人一人売り込むようなことは無いため、こういった特技があるなどの利点を武器に売り出すのだ。


 かくいう私もその一人だった。技能は狩猟だ。小型の魔獣なら一人で狩ることも出来る。


 だが、そんな技能は奴隷には求められていないらしい。


 女の私に求められる技能は家事、歌、踊り、出来れば有用な魔術適性といったところだろうか。


 そういったものを持っている女の奴隷は、見た目さえそこそこならばすぐに売れていた。


 もちろん、奴隷の扱いが酷い者に買われてしまえば奴隷商人の下にいた方がマシだったと思うことだろう。


 しかし、私にはもう時間が無かった。見た目はごく普通だと思うが、筋張った筋肉質な体は女らしくなく、さらに愛想も悪い。


 たまに魅力なんて無い私を好奇の目で見てくる男がいたが、思わず睨み返してしまい結局買われることは無かった。


 同じ店の奴隷で、買われたのにまた売られる者もいた。決まってそういう奴隷は、生きる気力を失ったような顔つきの者が多い。


 そうなると次の買い手がつかない。私同様、売れ残りの仲間入りというわけだ。


 いや、一度買われた奴隷は何かしらの理由で売られたとして、私以上に売れない。だからこそ、奴隷人生に絶望して生きる気力も失ってしまうのだ。


 そんな奴隷達が並ぶ市で、私は今日も端の方の檻の中にいた。


 もしこれで一ヶ月か二ヶ月売れ残れば、恐らくワケありとして最安値の奴隷として売られてしまう。そうなれば、怪我人や病人と同じで、どんな扱いを受けるかも分からない。


 そう思って朝から慣れない笑顔を貼り付けて大人しく座っていると、市場の真ん中あたりから大きなどよめきが起きた。


 興奮する商人や客の声が聞こえ、その熱気は瞬く間にこちらにまで伝わってくる。


 見れば通りの奥に野次馬の列が出来ていた。その野次馬の列は生き物のようにこちらへ進んでくる。


 その熱気の中心を歩くのは、どうやらあの青年のようだ。


 そして、その青年はついに私のいる奴隷商人の店にまで来た。


「この店にいる健康な奴隷を見せてください」


 その一言に、うちの商人は愛想笑いをしながら大慌てで店の前に売れ残りを並べていく。私達が並び終わったのを確認してから、一押しの初顔達を前面に並べていった。


「こ、こちらが当店自慢の奴隷達でございます! 皆五体満足で病気もないのは勿論、それぞれが出自も確かな……」


 と、商人は一人一人を紹介していく。


 敵国だったとはいえ、元騎士の青年。没落した貴族の娘。他にも有名な冒険者だった者や有能な魔術適性の者などまでいる。


 私から見ても、嫉妬の気持ちすら芽生えない魅力的な奴隷達だ。しかし、どう考えても高額だ。恐らく、一押しの奴隷を買えば一人、私達のような安い奴隷ならば二人か三人程度だろう。


 そう思っていたが、青年は顔色も変えずに近くに立つ初老の男に声を掛けた。


「こちらの魔術適性を持つ奴隷も、手数料は……」


「無料で良い。良いが、本来ならあの奴隷一人に金貨一枚から三枚の手数料がかかるのだ。きちんと、ヴァン・ネイ・フェルティオ新男爵に伝えておくのだぞ」


「ありがとうございます。では、ここにいる奴隷全員で、大金貨二枚でどうですか?」


 青年は笑いながら振り返り、そんなことを言った。


 その言葉には商人だけでなく、私達も唖然として固まる。大金貨など、私のような小さな村の者は見たこともない。私が金貨一枚の値段になることは無いだろうから、手数料とやらが無くなったにもかかわらず、高い値を提示したのではないだろうか。


 うちの商人も若干動揺しながら、すぐに気持ちを切り替えて人の良さそうな笑みを作った。


「あ、そ、そうですねぇ。どうやら、商会にかなり優遇されているご様子で……羨ましいですねぇ。しかし、こちらの奴隷達ですが、最高級の五人の奴隷だけならば確かに大金貨二枚で良いのですが……後ろに並ぶ十人の奴隷に関しては別に大金貨一枚いただけませんと……実は、後ろの十人も中々の逸材ばかりでしてね? 年も若い者が多ございます。やはり、それなりの値段にしてもらわねば……いや、本来ならメアリ商会の手数料を払って倍の値段となります故、それでも大変お買い得となっておりますねぇ」


 ぺらぺらと饒舌に語り出す商人の言葉に、青年は笑顔で頷く。


「それは申し訳ありません。私もメアリ商会の関わる商人の方の奴隷を買い叩くような真似はしたくありませんから」


 そう告げられ、商人はホッとしたような顔で胸を撫で下ろした。大した演技力だ。周りからは本当に困っていたように見えただろう。


 だが、あの青年も本来かかる手数料がかからないのならば、通常よりかなり安く買えたことになる。損ではないだろう。


 そう思って見ていると、青年はくるりと踵を返した。


「いや、残念です。しかし、もう百人以上奴隷を購入させていただきましたからね。十分ではあるでしょう。メアリ商会にこれ以上借りを作るのも怖いですし」


 困ったように笑いながら、青年は商人に一礼する。


「また、機会がありましたらこちらに寄らせていただきます。恐らく、またドラゴンの素材も手に入りそうですしね」


「……は? え、あ、あの、ちょっとお待ちください! しょ、少々勉強させていただきます! だ、大金貨二枚と金貨五枚でいかがでしょうか!?」


 慌てて金貨五枚もの値下げをする商人に、初老の男がつまらないモノを見るような目を向け、溜め息を吐いた。


「欲をかき過ぎだ、馬鹿者。利益を上げれば良いというものではなかろう。商会長にこの事、しかと伝えておくぞ」


「そ、そんな……!」


 初老の男の言葉に、商人は血の気が引いたような顔で息を呑んだ。大儲けの話が一転し、自身の進退に関わることになってしまったのだ。


 往来の中で泣きそうな顔をして頭を抱える商人の後ろ姿に、内心ざまあみろという気持ちになって口の端を上げていた。


 あの商人は、売れ残る度に奴隷の食事を抜き、傷が残らないように暴力を振るってきた。私と同じ気持ちの者は多いことだろう。


 だが、同時にまた売れ残ってしまったことに対する焦燥もある。自暴自棄になった商人に酷い扱いをされるのも確定だ。


 暗い気持ちになっていると、青年がくるりとこちらに向き直る姿が目に入る。


「大金貨二枚と金貨五枚ですか? しかし、私ももう大金貨四枚を使ってしまい、奴隷購入の予算は少ないのです。大金貨二枚で買えるだけ買わせていただくということにしましょうか」


 そんな提案に、商人は勢いよく顔を上げ、口を開いた。


「い、いえ! どうやら、メアリ商会に多大な貢献をされた御方のようで……だ、大金貨二枚で全員お売り致します! メアリ商会の恩人ならば、他の物を買う際にも一割引にてお売り致しましょう!」


 そういう商人に、青年は無邪気な笑顔で両手を胸の前で合わせた。


「なんと! それはありがたい! 商会の為に、私に安く売っていただけたこと、決して忘れません。いやぁ、ありがとうございます」


 青年はそう言って大金貨二枚を払い、まんまと私達奴隷十五人を買い取った。


 相場が分からないが、これがかなり安い額になったのは間違いない。なにせ、周りの盛り上がりが尋常ではないからだ。


 商人と契約書を交わして私達は青年の下へ集まる。


「これから、宜しくお願い致します。ご主人様」


 元騎士という青年が堂に入った仕草で一礼すると、青年は浅く頷いて応えた。


「こちらこそ宜しく。まぁ、殆どの人はすぐに新しいご主人様に買われると思うけど、良い環境になると思う。安心してね」


 青年にそう言われて、私は急に不安になる。


「……どこに売られるんでしょうか」


 誰かがそう聞くと、青年は苦笑して口を開く。


「辺境の村だよ。王都からみたら、国内では一番遠い僻地かな」


 その答えに、私は絶望する。皆もそうだろう。


 恐らく、鉱山や石切場で生涯を終えるに違いない。


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