拠点完成
必要なものは休憩所、食堂、トイレ、倉庫、ダンジョン入り口の門。後は水を得るための滑車を崖に設置した。
ちなみに要望の多かった娼館と賭博場は却下した。
今の段階で最大で六十から七十人だ。もし、満員になったりした場合を考慮して、それなりにゆとりのある建物にした方が良いだろう。
前に作った兵士たちの宿舎みたいな感じだ。
ここは崖なのだからそれを上手く活用するとしようか。
「ヴァン様……こんな形で、大丈夫なのでしょうか……」
アルテが不安そうにそんな感想を漏らす。
「大丈夫、大丈夫」
軽く答えながら、柱と柱の間に床と階段を作っていく。形が特殊なので、外壁を最後にして建造中である。
大きくて頑丈な柱を幾つも立てながら、床と階段を作る。窓は小さめである。
ダンジョン入り口横の岩壁がちょうど良い傾斜だったので、そこに隣接して建てているのだが、徐々に形が難しくなってきた。
岩壁は角度も形も一定ではない。まぁ、少し斜めなので建物をもたれ掛けさせるには良いが、思ったようにはいかない。
それでも、イメージしていた山肌に沿って建つレトロな形の和風ホテルは完成した。まぁ、どちらかというと台湾の九份に近いか。
一階を休憩所と倉庫にし、二階に食堂と四人が利用できる仮眠室を三つ。三階と四階も似た感じの仮眠室を六部屋ずつ。合計仮眠室は十五部屋だ。
トイレは各階に四ヶ所ずつ作った。屋上には雨水を貯める貯水槽を作ったので、フィルターさえしっかり整備してくれたら一応水洗トイレとして使える。
窓には鉄格子と戸板を取り付けた。これで魔獣が来ても大丈夫だろう。
外側から斜めに立ち上がる建物を見て僕は頷いた。
「作る時に中は見ただろうから説明は省略するけど、一応簡単に全体的な部分だけ言うよ?」
そう言って振り向くと、冒険者達は揃いも揃って間の抜けた顔で建物を見上げていた。ティルやカムシン、オルト達は何故か苦笑していたが、アルテも目を瞬かせている。
「まず、斜めなのはより頑丈にするために、岩壁と地面の二方向に深い杭を打ち込んだから。重心を考えて少し階段状になってるけど、そこはテラスか何かとして活用してね。後はトイレだけど、屋上にある貯水槽の網を一週間に一回くらい綺麗にしたら、ずっと水洗が使えると思う。飲み水には出来ないからね? 気をつけるように」
簡単な解説をしてから、冒険者達の顔を眺める。
「……分かった人?」
「は、はい!」
冒険者達は条件反射で返事をしたが、かなり怪しい。むしろ、ちゃんと話を聞いていたか不安である。
仕方なく、オルトに向きなおる。
「拠点の管理はオルトさんに任せるよ。皆をしっかり教育してね」
「ははは……了解です」
困ったように笑うオルトに、追加で説明を加える。
「後、ダンジョンの入り口には門を設置したけど、普段は閉めておいた方が良いんじゃない? 昼間の何時から何時までとか決めておいたら、開けっ放しになることもなさそうだけど」
「あー、そこは他の奴らとも話してみないと分からんかもしれんですね。夜に潜る奴もいるから……ただ、誰もいない時は門は閉めておいた方が良いのは確かですね。やばい奴が出てきたら、門で少しでも時間稼ぎしないと」
「門は中心にミスリルの板も入れた合板だから、かなり粘りは強いと思うよ。前回見た緑森竜なら一日くらいは足止め出来るんじゃないかな?」
「……マジっすか」
愕然とするオルトに、笑いながら頷く。
「あ、皆ももう建物の中、入って良いからね?」
思い出したようにそう言うと、冒険者達は我先にと駆け出した。
そして、中に入ってから歓声が次々に上がる。
「ちょ、何だこれ!?」
「おい、食堂で寝られるぞ!」
「バカか。泊まる部屋があるんだからそっちで寝ろ!」
ぎゃあぎゃあ声が聞こえると思っていたら、もう四階のテラスから誰か顔を出した。
「うぉ、スゲェ景色だ! この辺りの様子がすぐ分かるぞ!」
「ヒャッハー! テラスは俺のものだー!」
壁面の小さな窓からもポツポツ冒険者の顔が出てくる。
チンアナゴみたいだな。
小さめの窓は採光の為に多目に設置しているので、戸締りはちゃんとするように言っておかないといけないな。
そんなことを思っていると、もう帰る時間であることに気がつく。
「あ! 皆ー! そろそろ帰るよ! 護衛をお願いー!」
両手を挙げて声を張り上げる。
すると、チンアナゴが一斉に顔を出した。
「もうですかい?」
「まだ明るいっすよ!」
「ちょっと仮眠して帰りたいです!」
苦情が相次ぐ。
「陽が落ちるまでが門限なの! 帰るよ! 僕がエスパーダに怒られるんだからね!」
そう怒鳴ると、一瞬間が空き、拠点のいたる所から押し殺したような笑い声が漏れてくる。
出来たばかりの拠点を壊してやろうか。
腕を組み、冒険者達が出てくるのを待つ。
一、二分して、冒険者達はようやく目の前に並んだ。
「ほら、帰るよ! 急がないと夕食抜き!」
そう言うと、皆は楽しそうに笑う。
「うははは!」
「了解っす!」
「走って帰りますぜ!」
わいわい盛り上がる冒険者達。こいつら完全に舐めてるな。
腹は立つが、悪気がないのは分かるので口には出さない。
僕がティル達に苦笑されながら神輿に乗せられ、ムッツリ怒っていると、外から声がした。
「ヴァン様ー! また崖がありますぜー!?」
その声に窓から顔を出すと、先程見た記憶のある崖があった。
遠目から見たらあんなに大きな崖だったのか……。
僕は衝撃を受けると同時にヒヤリとする。
「こんな危険な場所、即改善だ!」
僕は橋を作った。先程より簡易的だが、それでも馬車で渡ることは出来るだろう。
そうして、僕は森を抜けるまでに更に二つの橋を作ることになる。
結果、村に帰り着くのは日没と同時くらいとなった。
城壁の巨大な正門は開かれており、その門の奥にはエスパーダとディーの姿がある。
ディーは仁王様のような顔で腕を組んでいたが、それよりもエスパーダの方が怖かった。
常に無表情、仏頂面のエスパーダが、微笑んでいたのだ。
柔和な顔で待つエスパーダに、震えが止まらない。暗くなったため、エスパーダはランプを持っていた。下からランプの灯りで照らされたエスパーダの笑顔は狂気に染まっている。
「ヴァン様」
「ひぇ」
思わず口から悲鳴が出た。
「お話があります。さぁ、こちらへ」
「だ、誰か! 今から夕食だって言って!」
僕が助けを求めるが、皆が一斉に目を逸らした。
「ティル!」
「……わ、私もご一緒しますから」
そういうんじゃないんだ!
「カムシン!」
「無理です」
無理ってなんだ!
「アルテ!」
「え、わ、私ですか!?」
君は違うか!
「オルトさん! 皆のお願いでこうなったんだよ!?」
文句を言うと、責任を感じたのか、オルトが前に出てきた。
「あー……エスパーダ殿。その、今回のことは全て我々が原因でして……」
良いぞ、オルト。そうだ、ヴァン君は悪くないのだ。
「黙りなさい」
「……へい」
が、エスパーダがピシャリと一言言った瞬間、オルトは引き下がった。
結局、僕はエスパーダから夜中までクドクドとお説教を受ける羽目となったのだった。
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