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ダンジョン前ー、ダンジョン前ー

 ゆっさゆっさと揺られながら、僕は深い森と木々の隙間から溢れる陽の光に目を細め、深呼吸をした。


「良い景色だなぁ」


「はい、空気も濃くて気持ちが良いですね」


「揺れが、気になります……うっぷ……」


 三者三様に森林浴を満喫しながら、僕たちは崖のすぐ側を進む。


 森なのか渓谷なのか崖なのかブライデリバーキャニオンなのかハッキリしてほしい。映画の一シーンのような壮大なスケールの景色だ。


 いや、森に入って一時間で景色が変わり過ぎだろう。


 そんな中、周りはヒャッハーヒャッハー五月蝿いし、数分もしたら血の臭いと魔獣の死体が景色の一部に加わったりもする。


「……まさか、こんなことになるとは……」


 そう呟くが、誰も同情はしてくれない。ティルですら「なにを今更」といった感じの苦笑である。


「だ、だって、ヴァン様が言ったんじゃ、ないですか……だ、ダンジョンなんかに、行くって……」


「大丈夫ですか、ヴァン様……」


 乗り物酔いのせいか、いつになくカムシンが手厳しい。悪かったよ。だからそんな目で見るなよ。


 とはいえ、屈強な冒険者六人に神輿のように担がれながらの移動はかなりキツい。


 いや、運ぶ冒険者達の方が大変なんだけどさ。悪路ということもあり、かなり揺れる。


 カムシンが何度か降りて歩くと提案したが、たいして重さも無いし足手纏いになるから乗っとけと怒られた。


 結果、沈痛な表情で窓辺に佇む青きカムシンの誕生である。


 ちなみに、僕が作った小さめの馬車の箱部分のような神輿もどきはかなり軽い。だが、四人も乗るとそれなりだ。その状態で、冒険者達は三十分交代で六人が入れ替わり、運んでくれている。


 縦揺れも激しいが、横揺れも激しい。窓から外を眺めていると、気を抜いた瞬間外に投げ出されそうだ。


 しかし、その環境下の中、女性陣は強かった。旅行感覚で外の景色を楽しんでいる。


「アルテ様、凄い崖ですね」


「深いですね。でも、凄く雄大な景色です。遠くに見える山も美しいですね」


「雲より大きいですものね。あ、空を飛ぶ魔獣が……ほら」


「まぁ、凄い」


 怖いわ。


 襲われたらどうすんだ。僕らなんて神輿から生贄に早変わりだよ。まぁ、急遽作成したボーガンがあるから大丈夫だとは思うけど、不意を突かれたら分からないし。


 窓から周りを見て確認すると、冒険者達の一部は魔獣警戒で辺りをぐるぐると確認に回っている。


 なんと、今回の僕達の護衛はオルト達が話をしたためか、勝手に五十人集まった。どうせダンジョンを見に行きたかったからという理由もあるが、流石に大所帯過ぎるだろう。


 その内の十人が村で僕の作った武器を買っているので、戦力的にはかなりのものだ。


「ヒャッハー! 森の巨人(ジャイアントトロール)だー!」


「俺が狩る!」


「マジかよ、トロールが真っ二つだぞ!? なんだ、その剣!?」


 かなり騒がしいが、お陰で女性陣はあまり怖さを感じていないようだ。


 そうして、カムシンの顔色が青から白に変わった頃、僕達はダンジョンに辿り着いた。


 途中、どう考えても一人分の道しかない部分を通ったが、どうやってか神輿状態のまま通過出来た。


 窓から顔を出しても地面が見えず、崖の上を浮いているかのような感じだった。帰り道は絶対に道を拡大してからじゃないと進ませないと決めた。


「ヴァン様ー! 着きましたよー!」


 呼ぶ声が聞こえ、窓から顔を出す。


 進む先は崖だった。


「ストップ! 止まって! ここで止まって!」


 思わず叫ぶ。


「え? もうすぐそこですぜ?」


 神輿担ぎの男が不思議そうな顔でそう言った。


 馬鹿。この馬鹿。


「ちょっと広いとこで下ろして! 早く!」


 ぎゃあぎゃあ文句を言うと、冒険者達は怪訝な顔をしながらも指示に従う。


「なんかありやしたかーい?」


「どうした!?」


 と、最前列にいたオルト達も慌てて戻ってくる。


 右手は森、左手は切り立った崖。そして、前方も切り立った崖だ。その崖の先に頼りない二本の丸太が掛けられており、対岸への橋の役目を果たしている。


 いや、馬鹿か。安全基準守れよ。こんなもん鳶職人もクーデター起こすわ。


 僕は神輿から降りてからも怒りが収まらない。


 幅十メートル以上はゆうにある対岸から、丸太の上を大道芸人のように渡って戻ってくる冒険者達。クサラにいたっては丸太の上で飛び跳ねている。


「……こういう、ちょっと失敗したら死ぬような場所は是正しましょう。危険予知。リスク管理。分かった?」


 そう告げると、冒険者達は顔を見合わせて首を傾げる。


「あったか、そんな場所」


「はい、正座。そこ座って反省」


 スキンヘッドの二十歳くらいのがありえない発言をしたので、その場に座らせる。文句を言っているが、周りから無理矢理正座させられていた。


 それを確認してから、僕は丸太を指差す。


「クサラさん、渡ってみて」


 そう言うと、クサラは不思議そうにしながらも頷き、丸太を渡り出した。


「カムシン、丸太を蹴って」


「はい!」


「ちょっと、ヴァン様!?」


 カムシンが丸太を蹴りに走ると、クサラは必死に対岸へと渡っていった。


「殺す気ですかい!?」


 対岸で飛び跳ねながら怒りを表現するクサラを指差して、冒険者達に振り返る。


「身軽なクサラさんでも、丸太が転がったり折れたりしたら、落下してしまう恐れがある。分かった人!」


「はい!」


 皆が良い返事をした。


「じゃあ、丸太はしっかり固定するか、もっと安全な道を探せば良いよね? 分かった人!」


「はい!」


 また良い返事がした。


 うむ、学習したか。


「それで、この丸太はどうしたら良いと思う?」


「たくさん並べます!」


「はい、正座」


「はい!」


 正座する冒険者がまた増えた。


「頑丈な橋を作る! 木を持ってきて!」


 そうして、僕はダンジョンに着く前に橋を作ることになったのだった。






 十分後、僕は近場で仕入れてもらった木材を使って橋を作った。幅十メートル。荷物を満載にした馬車も通れる頑丈な橋だ。一応、動かないように工夫もしている。


「こうやって安全を確保してから渡るように」


 そう言うと、冒険者一同から突っ込まれた。


「無理だろ!」


「こんな橋作ってたら何日掛かるか……」


「そんな暇はねぇ」


 と、文句ばかりである。


「文句言うなら拠点作ってあげないよ」


 そう言うと、謝罪の言葉が雨のように降り注ぐ。


「すみませんでした!」


「橋、作ります!」


「許してください!」


 謝る冒険者達。仕方ない。ヴァン君は寛大である。


「じゃ、拠点だけど……」


 そう言って、ダンジョンの入り口を見る。


 穴の大きさは縦横三メートルくらいだ。斜め下方に下っていく形の洞窟で、奥の方は薄っすら明るく見える。


 洞窟の周囲は岩壁で、入り口前にあまり広い空間はない。帰る方向に少し歩けば崖があり、対岸に続く立派で格好いい橋が架かっている。


 その僅かな空間に拠点を作るとなると、少し悩む。


「……どうされました?」


 ティルに尋ねられ、僕は「ああ」と生返事をしつつ顔を上げる。


「よし。まずは必要な設備の提案だ。皆は何が欲しい?」


「娼館」


「却下。正座」


 拠点作りは難航した。


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