冒険者の町が出来るより早く冒険者達が来た
クサラの英雄詐称疑惑は置いておき、問題はクサラの背後から向かってくるキャラバン以上の集団だ。
武器を携えた厳ついハゲだったり毛皮を着たモヒカンだったり鎧に斧を担いだ若者だったりと、怪しい奴らが大挙してくる。馬車も何台もあり、馬に乗って「うおぉ!」だの「ぬぉお!」だのと叫ぶ輩もいる。
世紀末だ。世紀末が来たぞ。
「すいやせん。ギルドに報告したら一攫千金狙いの馬鹿がいっぱい来やしてね。まぁ、辺境の村ってのは知ってるんで、奴らも夜営の覚悟くらいしてまさぁ。村の人が怖がると悪いんで、村の外で寝泊まりさせてくだせぇや」
クサラがそう言うが、そうもいくまい。今後、冒険者達はお得意様になる予定だ。ここで村の良い話を広めてもらわねばならない。
「ちょっと待ってて。とりあえず、今は六十人なら寝泊まり出来るからね。周りに最低限の城壁だけでも作ろう。クサラさんは村に帰ってて良いよ。お疲れ様」
そう告げると、クサラの後ろでフラミリアが優雅に頭を下げた。絶対にお嬢様だな、あの人。
と、そこでクサラが思い出したように周りを見る。
「旦那達はどこへ行ったんで?」
「オルトさん達はダンジョンの周辺の探索をしてるよ。ただ、立地が悪いみたいでね。ダンジョン探索の拠点作りは出来てないみたい」
「へぇ。こりゃあっしの出番ですねぇ。まぁ、今日はゆっくり休んで、明日からあっしが手本を見せてやりやしょうか」
オルト達が苦戦してると聞き、クサラは上機嫌にそう言って村へと向かった。
その後ろ姿を見ながら、アルテが呟く。
「あの方は、ストラトス男爵家のご令嬢だったのですね」
「知ってるの?」
聞くと、アルテは悲しそうな顔で顎を引く。
「……はい。男爵が亡くなってしまってからは衰退してしまったと聞きます。恐らく、家は取り潰しになってしまったのでは……」
「そんな……私と同じくらいの年齢に見えるのに、そんなご苦労を……」
ティルが口元を押さえながらそう言うと、アルテは首を傾げる。
「あ、いえ、ストラトス男爵家のご令嬢はたったお一人で、年齢も三十前後ではないか、と……」
「え?」
アルテの言葉に全員の目が村に向いた。
「……世の中、不思議なことばかりですね」
カムシンがしみじみと呟くが、ノーコメントだ。女性の年齢について余計な一言は避けるべし。
「さて、それじゃ町づくり再開だね。店はまだどうせ営業しないし、応急処置として仮の防壁作りかな。中型の魔獣を足止め出来る程度の壁で良いと思うんだ。やばい奴が来たら村まで逃げてもらうとしよう」
「はい」
「馬車を置く場所は壁で囲ってあげたほうが良いかもしれません」
そんな会話をしていると、僕達の場所まで辿り着いた冒険者が僕達を見て口を開く。
「おいおい、随分とヒャッハーな場所で遊んでんな」
「ガキどもぉ! 村が近くても外は危ねぇぞ!?」
「へっへっへ。美人な姉ちゃん。アンタみてぇなのは変態に狙われるぜぇ? 俺らだって抱きつきてぇくらいだ。さっさと家に帰れや」
と、世紀末に蔓延る悪党のような輩が口汚く罵ってきた。
あれ? 罵ってはないのか?
「……心配されてる?」
「そうみたいです」
「不器用だけど優しい方達のようですね」
「でも、顔が少し怖いです……」
アルテには少し不評だったが、個人的には良い意味で驚いた。世紀末的冒険者の前方の三人が阿吽の金剛力士像のような顔で黙ると、その後ろで笑っていた冒険者達が前に出てきた。
「怖がらせてしまったか」
「悪いな。白き誓いの奴らは見た目が悪いからな」
「あれで凄腕なんだからな」
と、他の冒険者からフォローが入る。世紀末の輩冒険者は白き誓いなんて名前のパーティーなのか。なんでそんな名前にしたんだ。
そんなことを考えながら世紀末冒険者達を見ていると、銀色に輝く鎧を着た細い男が口を開く。
「しかし、本当にこんなところで何をしてるんだ? 魔獣が来たら危ないぞ」
そう言われ、頷く。
「ありがとう。でも、何か見つけたらすぐ村に戻るから大丈夫だよ」
村を振り返って答えると、男は眉根を寄せる。
「……やはり、あれが例の辺境の村か。ギルドで聞いた話では相当若い男爵が領主だとか。相当な金と人員を割いてるが、それだけこの村が侯爵家にとって重要な拠点となるということだろう」
したり顏でそんなことを言う男に、僕は首を傾げる。
誰だ、その男爵。侯爵家の派閥にそんな若くて有能な男爵がいただろうか。
まぁ、噂は噂だ。侯爵領から王都に着くまでに噂は大きく変容したに違いない。
「それで、何の遊びだい?」
と、考え事をしている僕に男はそんなことを聞いてきた。
「木材待ち?」
「木材待ち、とは?」
疑問を疑問で返すと、さらに疑問が返ってきた。まぁ、百聞は一見にしかずである。
「カムシン、ウッドブロック頂戴」
そう言うと、カムシンは残り三つしかないウッドブロックを持ってこちらにきた。
それを受け取り、僕は頭の中でイメージを固め、簡単な柵をサクッと左右十メートル程作り上げた。
少しでも材料を使わずに済むように格子状の柵にしたが、まるで広いドッグランみたいな感じになってしまった。
「ちょっと見た目悪いけど、まぁ仮の柵なんで今日はこんな感じで良いかな。一応、最終的には町全体を高さ五メートルくらいの防壁で囲む予定だよ」
そう言って振り返ると、ポカンと目と口を丸にした冒険者達が柵を見ていた。
「な、なん、なん、なな……」
冒険者達はよく分からない言葉を発しながら柵を指差しているが、不満があるのは僕も同じである。
「分かるよ? そりゃ頼りなく見えるよね。まぁ、見た目よりは遥かに頑丈なんだけど、一週間後くらいにはちゃんとした防壁作るから」
腰に手を当てて溜め息混じりにそう呟くと、冒険者の一部が首を小刻みに左右に振る。
「いやいやいや」
「そういうことじゃないぞ」
「なんだってんだ、そのヒャッハーな魔術は!?」
誰かが口火を切ると、ダムが決壊するように騒ぎ出す冒険者達。
どうしようかと思っていると、ちょうどディー達が丸太を運んできた。
「ヴァン様! 丸太、一先ず三十本を持って参りましたぞ!」
そう言って僕の前に丸太を積み上げていくディー達に、冒険者達は唖然とした顏で口を開く。
「……ま、まさか、このガキが……ヴァン・ネイ・フェルティオ……?」
誰かがそう呟いた瞬間、ディーが剣を抜いて怒鳴る。
「今の言葉を吐いたのは誰か!? 前に出よ! このフェルティオ侯爵家……いや、セアト騎士団団長のディーが成敗する!」
怒りに震えるディーに、冒険者達がウッと呻いて後ずさった。いやぁー、マジ切れだもんね。恐ろしい。
僕なら目の前にしたら失禁する迫力なのだが、流石は荒くれ者の冒険者一同。
何人かがディーの物言いに反感を抱き、前に出てきた。
「ジジィ! テメェが俺たちを斬るだと!? やってみろよ、こら!」
一人が文句を言いつつ、長く分厚い鉄剣を抜き、ディーの顔に切っ先を向ける。
その剣を睨み、ディーが腰を落とすと同時に剣を振った。
次の瞬間、甲高い金属音が鳴り、冒険者の鉄剣が半ばほどで断ち切られた。切断された剣が宙を舞い、地面に突き刺さる。
その光景に、興奮気味だった冒険者達も顔色を変えて一歩二歩と後退り、押し黙ったのだった。
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