表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/354

【別視点】伝説の冒険者

 あっしはウキウキしながら馬に乗り、村をでた。


 旦那がたがあっしの腰に下げられた短剣を親の仇を見るような目で見てたので、おもいきり鼻で笑ってやった。


 やっぱ、日頃の行いでさぁ。


 街道を進みながら短剣を抜いてみる。鞘からすらっとでた刀身は、坊ちゃんのお手製らしい凝った装飾が施されている。


 あの坊ちゃん、中々分かってるんですよねぇ。この短剣も、装飾こそ何処ぞの王家の宝剣かってくらいだが、使いやすく作られている。


 短剣なのだから、軽くて振りやすく、突いても良いような形状だ。鍔が殆ど無いのも良い。冒険者にとって短剣なんてのは極論で言えば予備か隠し武器って使い方が殆どだ。


 長剣との間くらいのサイズならあっしみたいなのは主要武器に使うが、魔獣と戦うのに小さめの短剣やナイフなんてのは主では使えない。


 だから、逆にいざという時は重要であり、そんな時は小回りが利いて軽い短剣というのは有難い。鍔がなければ引っかかることも無く、隙間に差し込むといった使い方も出来る。


 短剣を手にニヤニヤしていると、王都までの旅なんてあっという間だった。


 さぁ、後数キロ行けば王都が見えてくるぞ。


 そう思いながら緩々と馬を進めていると、ふと、変な馬車が目に留まる。


 街道の外にあるその馬車は、車輪が横を向き、馬車の扉が空に向かって開いていた。


 まぁ、つまり横転してるってやつだ。


 近くには街道では滅多に見ない、黒ずんだ緑色っぽい肌の大男達が群がっていた。


 デコボコと黒いシミが目立つ肌、そして見事なハゲ頭。鼻はデカく、目は皺で半ばまで潰れており、黄ばんだ目玉がおぞましい。


 醜男代表の魔獣、オークだ。


 オークは三体おり、二体が馬車を引いていた馬の脚を片手に持ち、腹に顔を埋めて肉を喰らっている。


 はらわたを口に咥えたままこちらを一瞥したが、すぐにまた馬の腹に顔を戻した。


 どうやら今は食欲らしい。オークは常に欲に忠実だ。食欲、睡眠欲、性欲。そして殺戮欲求だ。


 オークはどの個体もその時の欲に従う。あの二体が食欲ならば、馬車の中に入ろうとよじ登るあの一体は何をする気か。


 決まっている。中にいる者に対しての性欲か殺戮欲求だ。


「普段ならちょいと厳しい相手ですがねぇ……今のあっしにはむしろ物足りないくらいでさぁ」


 そう呟き、ミスリルの短剣を抜く。


 こちらに身構える前に接近し、馬車によじ登ったオークの腕を切り落とした。


 耳に突き刺さる絶叫に顔を顰めながら、返す刀で首を切り裂く。驚くほどの鋭さで、オークの首は半ばまで切断された。


 バランスを崩して馬車から落ちていく仲間の姿に気付き、二体のオークが咆哮を上げて向き直る。


「このあっしに向かってくるつもりですかい? やめといた方が身の為と思いやすがねぇ」


 短剣を構えてそう忠告するが、二体のオークは地面を蹴って突撃してきた。


「しっ」


 息を細く小さく吐き、斜め前方に走る。オークの前に出ている手の方向だ。


 横並びになりながら突き出してきた手を切り裂き、そのままの勢いで反対側に出る。


 二体まとめて背後をとった。


「連携がなってませんぜ」


 そう言って短剣を振るい、ささっと二体の延髄を切り裂く。


 やばい。クセになりそう。


 自分が英雄級の冒険者になったような気持ちになって笑っていると、倒れた馬車の中から何者かが這い出してきた。華奢なその姿に、最初は子供かと勘違いしてしまう。


 現れたのは小柄で細身の女だった。深い茶色の長い髪と、少し眠たそうな目の可愛らしい女である。


 こんな女が一人で馬車の旅?


 そう思って見ていると、馬車から出てきて地面に降りた女がこちらを見た。


「お助けいただき、本当にありがとうございました。私はフラミリア・ストラトスと申します。さぞかし名のある方と思いますが、お名前をお聞かせ願えませんか?」


 そう言われて、あっしは短剣の汚れを布で綺麗に拭き取りながら答える。


「あっしはクサラってんでさぁ。しがない冒険者でね。別に大した名じゃありやせんぜ」


 笑いながら正直にそう言うと、フラミリアは首を左右に振って微笑んだ。


「いいえ。その眼を見張るほど見事な宝剣を見れば、やんごとなき御方であると知れます。世を忍んで何か大事をなさるのでしょう? ご安心ください。私は何も詮索は致しません」


「え? いや、あっしは本当に……」


「ふふ。分かっております。それでは、私はここから王都まで歩きますので、御礼は後日させていただきたいと思います。ただ、一年前ならともかく、今は私に何か出来るようなことはありませんが……」


 一礼してから悲しそうに呟いて立ち去ろうとするフラミリアに、思わず声を掛ける。


「あっしも王都にいくところでさぁ。馬に乗ってくんな。早い方が良い」


「あ、でも、これ以上迷惑を掛けるわけには……」


「ほら、馬もあっしなんかよりお嬢さんみたいなご婦人の方が喜ぶってもんですぜ」


 と、無理矢理乗せて歩き出す。フラミリアは何処か手慣れた様子で馬を操り、照れ笑いを浮かべた。


「お嬢さんなんて、久し振りに呼ばれてしまいました。私、もう三十なんですよ?」


「あっはっはっは。またまたご冗談を。二十歳にも見えやしませんぜ」


「まぁ、お上手ですね」


 こうして、残りわずかだが、男一人旅が男女二人旅になった。笑い合いながら、意気揚々の王都入りである。


「フラミリアさんはどちらに行かれるんで?」


「私は……どうしましょうか。案内の御者には逃げられてしまいましたし……」


 不思議なことを言うフラミリアに首を傾げる。


「……王都まで何の用事で来たんですかい?」


「私は……家が没落してしまいましたので、メイドを募集している貴族の家などは無いかと訪ねに……困りました。こんなこと、言うつもりは無かったのに……お恥ずかしいです」


 肩を落とすフラミリア。


 それを見て、あっしは思わず自分らしくないことを言ってしまった。


「なんだ、フラミリアさんも自由人ですかい? あっしと同じだ。何も恥ずかしいことなんざありやせんぜ。良かったら、あっしに付いてきてくだせぇ。あっしが守りやすからね。後悔はさせませんぜ」


 そう言って励ますと、フラミリアは数秒キョトンとしていたが、すぐに頬を染めて口元に手を当てた。そして、花が咲いたような笑顔で返事をされる。


「はい。何卒、宜しくお願い致します」






 美女を連れて冒険者ギルドに行き、受付嬢に「ダンジョンを発見しやしたぜ」と告げると、ギルド内でどよめきが起こる。


 すぐにギルドマスターに呼ばれて二階に上がり、ダンジョンの場所やどんな魔獣がいそうか聞かれた。


 そして、ついでということでドラゴンとアーマードリザードの討伐も報告し、つい最近オークションに出品されたことを知る。


 ここで、ギルドマスターが冒険者を集うべくギルドの受付前で声をあげた。


「フェルティオ侯爵領の辺境でダンジョンが発見された。辺境とはいえ、この前報告されたドラゴンとアーマードリザードの討伐もされている村だ。領主は今話題のヴァン・ネイ・フェルティオ新男爵殿。これからギルドはそこに支部を建てる準備に入る。いつものことだが、支部が出来て暫くは全ての素材を二割増しで買い取る。また、ダンジョン内のマッピングをして成果が認められた者には特別報酬が出るぞ」


 そう告げると、冒険者達が騒ぎ出す。まぁ、一攫千金を狙う者なら真っ先に向かうだろう。


 さぁ、報告をしたからにはあっしらもダンジョン解禁だ。急いで帰らないと!


 そんなことを思っていると、ギルド内の冒険者達が一斉にあっしに群がってきた。


「緑森竜が出て倒したって聞いたが、誰が討伐したんだ!?」


「本当にヴァン男爵が斬り倒したのか!?」


「ダンジョンは村から遠いのか!?」


 迫ってくる厳つい男どもに、怒鳴り返す。


「落ち着きなせぇ! こっちゃ忙しいんでさぁ! そんじゃ、ダンジョン発見の報告はしたんであっしは帰りますぜ!?」


 そう言い残してフラミリアの手を引き、逃げるようにギルドから出た。


 すると、背後から男どもが走ってくる。


「待て! 一番にダンジョンに潜るつもりだな!?」


「させねぇぞ! このまま付いていくからな!」


 そんな野郎共の声に、振り向きながら文句を言った。


「あっしらぁ宿に泊まってから帰るんでね! 来たって何もありやせんぜ!」


 あ、思わずフラミリアと一緒に行動すると宣言しちまった。そう思い、隣を見たが、フラミリアは優しく微笑んでくれたので、まぁ大丈夫だろう。


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ページ下部の☆を押して評価をお願い致します!

作者の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ