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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】派手にいこうか

 一ヶ月半もの旅を終え、私は久し振りに王都に足を運んだ。


 代々騎士の家系だから元は王都の生まれだ。しかし、四元素魔術の適性が分かってすぐに招待を受け、私は最も条件の良かったフェルディナット伯爵領へと引き渡された。


 家を出て八年。死にたくなるほどの扱きを受け、睡眠時間を削りながら勉強し、私は小隊長になった。


 最初の戦は盗賊団の撃退である。私はそこで殆どの盗賊を焼き払った。


 その戦果が認められて、僅か十六歳で部隊長になった。フェルディナット伯爵領では各代官や子爵以下の領地持ちは騎士団を組織し、いざという時は伯爵家騎士団の下、敵対するものを粉砕しなければならない。


 私はその伯爵家騎士団に所属していた。


 その後、二、三の戦を切り抜けて軍功を挙げた後、あのイェリネッタ王国との戦いに参戦し、私の率いた小隊は最高の活躍をした。


 結果、私は貴族となったのだ。


 その六年後にはまた陞爵して子爵となったため、これまで二回ほど王城で陛下に御目通りがかなっている。


 その際、陛下は私の活躍を大いに喜び、王国最大最強の近衛騎士団に入団するなら口添えをすると言ってくれた。


 その時の感覚としては、陛下の好みは武力に重きを置いていると思えたのだ。


 だから、まずはドラゴンの素材という名の武の象徴を片手に、私は陛下への謁見を願い出ることにした。


 最短で翌日となると言われたが、緑森竜を討伐したと伝えると、僅か二時間後の謁見が叶った。誰かが翌日に回されたわけだが、こればかりは仕方がない。


「こちらへ」


 騎士がそう言って前を歩く。外に部下やランゴを待たせているが、もう街は騒ぎになっているだろうな。


 そんなことを思って一人笑いながら、騎士の案内のもと無駄に広く、豪華な廊下を歩いて謁見の間へと移動した。


 触れることすら躊躇うようなミスリルと金銀の両開き扉だ。装飾の美しさもさることながら、天井が高い為扉自体も大きく、迫力がある。


「謁見の作法は問題ありませんか」


「ない。三度目だからな」


 そう答えると、騎士は浅く顎を引いて扉に手を当てた。


「失礼致しました。それでは、謁見の間へ」


 騎士がそう言うと共に、軽く拳で扉を叩く。すると、扉は内側から重々しい音を立てて開かれていった。


 高い天井、規則正しく並んだ柱と騎士。巨大なシャンデリアと魔鉱石ランプ。床には分厚い朱魔虎(レッドエビルタイガー)の毛皮が敷き詰められている。


 小国の王侯貴族くらいならば、この謁見の間に足を踏み入れただけで萎縮することだろう。


 竜にも匹敵すると言われる巨大な虎の毛皮を踏みしめて、私は謁見の間の中を進む。騎士たちの視線を一身に集めて歩くのは気分が良いが、陛下まで五十メートルは離れた距離で跪かされるのは面白くない。


 竜の骨と牙、そしてミスリルと朱魔虎を用いた大きな椅子に踏ん反り返る壮年の王、ディーノ・エン・ツォーラ・ベルリネート。十六で王になったこの男は、僅か二十年で大きな軍事改革を成し遂げ、先代の頃より遥かに強大な武力を手にした。


 それは、実力に重点を置いた士官の採用だ。指揮官は裏切りの防止や指揮系統の正常化の為に、どうしても貴族達の血族を使うしかない。


 ならば、副官以下の士官達を全て歴戦の猛者とする。それが陛下の考えた軍事改革だった。


 この改革は時間と労力を使い、そして多くの血を流すこととなった。


 なにせ、これまでは貴族の家に生まれれば騎士団の副官、士官は当たり前だった。だからこそ、ボンクラは無能なまま兵を率いてしまっていた。


 だが、この改革のお陰で、多くの貴族の息子らが職を失うこととなる。それだけ無能が多かったということでもあるが、貴族達の反発は強かった。


 その際、陛下は秘密裏に今後重用する家と縮小させる家の選別を行い、協力的であり武に特化した家は一気に躍進した。


 その時陞爵したのがフェルティオ侯爵家である。表向きは大きな戦での武功だが、本音は今後を考えての陞爵だった。


 逆に、実子二人が士官から降ろされると知り、何もしなかったフェルディナット伯爵家は降格されなかったものの、領地を削られる形となった。


 そこで、伯爵は少しでも自らの地位を確保するため、ただの騎士であった私を重用し、爵位を与えてほしいと陳情した。


 この陳情を大いに陛下は気に入り、私は異例の早さで子爵にまで陞爵することになる。


 これを考えるに、陛下は自らが爵位を与えた実力者を可愛がる傾向にあると言えるだろう。


 故に、私は陛下に進言した。


「この度は謁見を賜り、誠に有難うございます。早速ですが、今回はある者に爵位を与えてほしいと思い、お伺い致しました」


 本来ならば一言二言の挨拶と、陛下のお言葉を頂き、その後に謁見の内容について語る。だが、私は敢えて率直に本題へと入った。


 それには近衛騎士や宮廷魔術師が険しい顔をし、陛下の側に立つ初老の宰相が面白そうに片方の眉を上げる。


 そして、陛下は不思議そうに首を傾げた。


「……てっきり、新たな武功を立て、自らの陞爵を陳情にきたかと思ったが、他の者に爵位を与えてほしい、と?」


 陛下が低い声でそう聞き返す。明らかにこれまでで最も乗り気ではない。恐らく、私が権力や地位に興味を持って動き出したかと警戒しているのだろう。


 私が答える前に、宰相が口を挟んだ。本来なら陛下の質問に答える前に口を挟むなどありえないが、陛下と旧知である宰相は型破りな性格で有名だった。


「……その与えるべき者の顔が見えぬが?」


 宰相がそんなことを言った。それに笑みを浮かべ、私は口を開く。


「その者は王国の端の辺境を守る一領主です。代官すら派遣出来ない辺境の村を守っておりますので、この王都まで来ることは叶いませんでした」


 そう告げると、陛下が眉根を寄せた。


「……辺境の、村? そんな地の領主を、何故に貴族に推す」


「多大なる功績と、それすら霞むような将来性の為です」


 即答すると、近衛騎士が僅かに騒ついた。宰相は顎に手を当てて陛下を見る。


 陛下はただ静かに頷き、口を開いた。


「……ほう。武で鳴らした貴様が推挙するならば、期待出来る話だろうな。だが、騎士も衛兵すらも満足に配備出来ない辺境の村で、その者はどうやって武功を立てたというのか。興味は湧いたが、それ以上に疑問が残る」


 陛下の疑問に、私は笑みを消して真っ直ぐに陛下の目を見返し、答える。


「ドラゴンの討伐です」


 そう告げた瞬間、場は謁見中とは思えない騒然としたものになった。いや、他の場所ならばもっと大きな動揺が広がったことだろう。


 宰相も僅かに目を見開き、口を開く。


「なんと、ドラゴンの討伐か……それが本当ならば、確かに見事。まさか、辺境の村の領主とやらはその村で育った四元素魔術師か?」


 その言葉に、首を左右に振る。


「いいえ。その者は使えぬとされる生産系の魔術適性で、家から冷遇されて追い出された者です。しかし、目を見張るような働きを見せ続けています」


「そのような者が、ドラゴンを……?」


 宰相が首を傾げると、焦れてきた様子の陛下が背もたれから身を起こし口を開いた。


「誰だ、そいつは」


「フェルティオ侯爵家子息、ヴァン・ネイ・フェルティオ。まだ十歳にも満たぬ、ドラゴン討伐の英雄です」


 私の言葉に、謁見の間にいる者全てが息を飲んだ。


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