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貴族と新商会

 商会を設立する際に、広い領地を持つ貴族に推薦を貰えば様々な優遇を受けることが出来る。


 複数の街で条件の良い場所に出店出来たり、騎士団の討伐した魔獣の素材を優先的に買い取れたり、各街の領主自体が得意先になったりするのだ。


 そして、上級貴族の推薦を受けた店はブランドイメージを持つことが出来て、更には貴族の後ろ盾を得る側面もある。


 つまり、上位貴族であればあるほど、商会は強く、大きくなる。


「でも、王家御用達は反則だよねー」


 そう口にすると、ベルとランゴは溜め息を吐いた。まぁ、御用達は意味が違うが、二人にはなんとなく伝わったらしい。


「実質、メアリ商会は王国内のどの街にも出店でき、出店場所もかなり良い場所を選ぶことが出来ます。挙句、王都騎士団の討伐した大型の魔獣や、戦争後に捕虜になった捕虜奴隷や犯罪奴隷なども優先的に売買が出来ます」


「ちなみに、メアリ商会の初代商会長のメアリ・トリオンフは先々代国王陛下の囲い花であったとの噂もあります」


 囲い花、愛人の隠語だったか。


「ますますヤバイじゃないの」


 僕は眉根を寄せる。全ての街に睨みを利かせられる商会に目をつけられたら、そんな出来たばかりの商会が一体何処に出店することが出来るというのか。


 いや、そもそも、王家御用達の商会となにかあった者が商会を設立するとバレたら、誰も推薦してくれない可能性もある。


 だが、ふと重要なことに気がつく。


「あ、でも、商人ギルドの本部は他国で、うちも含めた多くの国に根差す巨大な組織だよね。だから、ギルド側は条件さえ大丈夫なら商会設立を認めてくれると思う」


「そ、それはそうです。おかげさまで実店舗も頂きましたし、お金も問題ありません。しかし、貴族の方の推薦は……」


 答えながら、チラチラとこちらの顔を見る。


 いや、パパンはダメだからね。マジ絶交だから。ブラザーは大好きだけど、爵位は持ってない。


 本当なら僕が爵位を持ってたらベストだけど、余程じゃないと爵位は貰えないのだ。


 溜め息を吐き、口を開く。


「僕の家関連はダメだからね。だから、パナメラ子爵の推薦を貰うとしよう。僕の唯一の同盟貴族だからね。何とか頼み込んでみるよ」


 そう告げると、二人は顔を見合わせて両手を広げ、抱き合って喜んだ。


「いや、まだ頼むよって段階の話だからね? ちょっと? おーい」


 何を言っても彼らは大喜びのままだった。いや、中々分の悪いお願いだと思うんだけど……。








「ふむ。商会設立の推薦か。構わんぞ」


 懸念していた案件だったが、パナメラは商会の設立の話を聞き、まさかの二つ返事で了承した。


「え? 良いの?」


 思わず素で聞き返すと、パナメラは吹き出すように笑い、自らの腰に手を当てる。


「よく考えてみろ。元々吹けば飛ぶような新興貴族の私が、たった二人しか商人がいない弱小商会の立ち上げを承認したところで害などない。むしろ、それに圧力を掛けたら王家の威信が揺らぐぞ」


「なるほど」


 王家には王家のメンツがあるか。とはいえ、見えない形で嫌がらせとかされそうなものだが、それは僕の根が庶民だからか。


「それに、領地も騎士団も持たない私が更に上を目指すには、庶民の噂になるような派手な行動が重要だ。だから、今回の申し出は私にとっても良い内容となる」


 そう言うと、パナメラは楽しそうに笑った。


「なにせ、私兵を百人連れた程度の成り上がり者が、ドラゴンを討伐して王都入場だ。話題にならないわけがない」


 肩を揺すって笑うパナメラ。ふむ。確かに辺境の村にドラゴンを退治する設備があるなどとは誰も思わないだろう。


「それは良いですね。全てパナメラ子爵がやってくれたことにすれば、僕が実家から意識されずに済みそうですし」


 これでドラゴンなんて目立つ代物を売っても実家にバレないぞ。


 そう思い喜んでいたのだが、パナメラは呆れたような顔で鼻を鳴らした。


「変なところで抜けている奴だな。滅多にないドラゴン討伐だ。根掘り葉掘り聞かれるし、憶測も交えた情報が上級貴族の耳に入るのは間違いない。ドラゴンを倒したのが私だと宣言しても、色々調べられたら必ず少年に辿り着く」


 と、パナメラは説明する。


 素材と照らし合わせながら討伐方法を聞かれ、戦闘に参加した人数や場所、被害についても聞かれる。


 ついでに、もしパナメラが最強の武神だったり軍略の天才である軍神だったりなどだとしたら王家の騎士団や軍事顧問など、様々な勧誘に遭うとのこと。


 ちなみに武神や軍神は過去、そういった二つ名がついた英雄がいたため、飛び抜けた存在が現れたらそう評されるらしい。


「困ったなぁ。実家から無能だと追い出されたのに、呼び戻されたらどうしよう。村づくり楽しいのに」


 一人呟いていると、地獄耳のパナメラが口の端を上げ、悪い顔をした。


「そんな家出をした子供みたいな心配をしているのか。いや、実際に子供だったな。まぁ、もし私を頼るなら、絶対に連れ戻されない手法を教えてやろう」


「え? そんなのあるかな?」


 驚いて首を傾げると、パナメラは不敵に笑った。


「爵位を貰え。簡単だろう? 貴族の爵位を貰い、独立すれば良いんだ。新しい家を興せ」


 と、パナメラはこともなげに口にしたのだった。


 いや、あなた、新しいアパート借りるみたいなノリで何言ってんの。


 僕は思わず口に出してツッコミそうになった。だが、パナメラは本気らしい。


「ドラゴンは全て少年が倒したことにしたら良い。実際、私のやったことは足止め程度だからな」


「いやいや、それだとまた話が変わってきますから。それに、すごく目立つじゃないですか」


 文句を言うと、パナメラは腕を組んで豊かな胸を強調した。


「何が不満だ?」


 いや、その胸には一切不満はありません。


 だが、叙爵は不安で一杯である。パパンがどうでるか分からないし、あの意地悪な次男と三男が嫌がらせをしてきそうだし、優しい長男より早く貴族になるのも気が引ける。


 そんなモヤモヤした気持ちでいると、パナメラは不思議そうに顎を指で撫でた。


「わずか八歳にしてドラゴン討伐の異名を貰い、その手柄で爵位も叙爵されるだろう。さらには大金を得て子飼いの商会も手に入る。良いことばかりだと思うがな。とはいえ、不安になるのも分かる。私も叙爵したばかりの頃は敵も増えたし、利用しようなんて輩も出てきたものだ」


 そこで言葉を区切り、目を細めて邪悪な笑いを作り、再度口を開く。


「だが、全て灰にしてやった」


「灰に!?」


「うむ。だから、少年も敵となる者がきたら遠慮なくバリスタを射て。屍が十も超えたら誰も逆らわなくなる」


 恐ろしい世渡りのコツを聞いた。


 僕は曖昧に頷きながら、ふと疑問が浮かぶ。


「でも、全て僕の手柄にしたら、パナメラさんの出世の足掛かりが無くなります」


 そう口にすると、パナメラは息を吐くように笑った。


「少年。この私、パナメラ・カレラ・カイエンの心配をしたか? まさかな。たかが八歳児に心配されるような生き方はしていない筈だが、聞き間違いか?」


 どう猛な獣のような笑い方をするパナメラ。


「いや、全然。まったく心配してないです。むしろ、自分の身が心配になったくらいです。食べないでくださいね」


「はっはっは! 少年はいつも愉快な切り返しをする。安心しろ。後五年は食べないでやろう。少年を大きくするためにも、今回のドラゴン討伐の功は譲ってやる!」


 そう言って、パナメラは声を出して笑った。


 どうやら、ヴァン君は後五年の命らしい。なんてこった。


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