環境整備(発展途上)
「城壁造りは防壁造りと一緒で、エスパーダ主導の下行う。まぁ、二回目だからね。迷わずに作業出来るかな。規模が大きくなるから、ゆっくり怪我をしないように。ディー達は資材調達。力のある人はお手伝い宜しくね。オルトさん達は何するの?」
皆に超アバウトな指示を出した後、何故か朝礼に参加していたオルトを見る。
オルトは面白そうに列を作って並ぶ村人達を眺め、口を開く。
「いや、面白い光景だなと……最近、村人も兵士みたいに綺麗に並び出しましたよね。あ、俺達はまた魔獣狩りに行ってきます。もらった剣のお陰で楽しくて楽しくて」
そんな感想をもらい、なるほどと頷く。
「また状態の悪い魔獣の素材が出たら貰うからね。状態の良いのはベルさんに売ると良いよ」
「了解です」
ビシッと一礼し、オルト達が村人達の列の隣に立つ。
それに苦笑しつつ、僕は皆を見回した。
「それじゃあ、今日も怪我なく、安全作業でお願いします。ちなみに今日は金曜日です。今日と明日は貯まった肉を使って大バーベキュー大会を開催します。頑張ろう!」
片手を突き上げて告げると、皆が異様なほどテンションを上げて両手を突き上げ、歓声を上げた。
「ぃよっしゃあ!」
「頑張るぞー!」
「バーベキュー!」
どちらかというと物静かな人が多かった村人達がパーティーピーポーになってしまった。
ウキウキした様子で各作業場に向かう村人達と、それを先導するエスパーダ、ディーの二人。
そして、皆がいなくなった後で、残されたパナメラ達がこちらに来た。パナメラのすぐ後ろにはアルテがおり、更に後ろには兵士達が見事な整列を見せている。
「……おはよう。なかなか面白い激励だった。戦とは違うが、士気の上げ方は見事だ」
「おはようございます。まぁ、軍じゃないですからね。これくらいの緩さでちょうど良いんですよ。ちなみに一週間で最も頑張ってくれた人、上位十名まではお酒が倍になります。コップ小がジョッキになりますからね。酒好きは特に張り切ってますよ」
エサで釣る作戦である。
パナメラはその返答に大笑いして首肯する。
「確かにな。それなら私も誰よりも働くことだろう」
そう言って笑うパナメラ。その横から小走りに今度はアルテが出てきた。
何故か怒ったような顔で、アルテが頭を下げる。
「お、おはようございます、ヴァン様。今日は、その、天気も良く、良い一日になりそうですね?」
「ん? あ、あぁ、おはようございます。アルテ嬢は今日はとても元気そうですね。やはり、昨日は旅の疲れが出てました?」
勢いに押されつつ挨拶を返して、そう聞き返す。すると、アルテはこちらを見ながら頷いた。
「は、はい。今日はとても元気です。なので、ヴァン様のお仕事を、拝見してもよろしいでしょうか?」
「うん、どうぞどうぞ。それじゃ、今日は水まわりを増強しますよ」
そう言って笑いながら、僕は後ろを振り返った。後ろに控えていたティルとカムシンがこちらを見て、表情を曇らせる。
「まさか、また下水ですか……?」
不安そうな顔でティルとカムシンがそう聞いてきたので、無言のまま笑顔で頷く。
途端に項垂れる二人。
それに苦笑しつつ、口を開く。
「汚れ仕事も誰かがやらないといけないからね。嫌なら僕だけでも大丈夫だよ?」
そう言うと、二人は慌てて背筋を伸ばし、首を左右に振る。
「だ、大丈夫です!」
「ヴァン様お一人にさせるわけには……むしろ、僕が一人でやります!」
「カムシンの魔術適性はこういうのに向いてないでしょ」
笑いながら、村の出入り口側の防壁裏にある現場に向かった。後ろからは兵士を連れたパナメラとアルテが付いてきている。
見られて困ることではないが、汚れ仕事だからな。
まぁ、これでエスパーダが危惧していた結婚による影響は無くなるかな。
自嘲気味に笑いながら門を抜けて、堀の前を歩く。堀と城壁の間は板を渡したような仮設橋が一箇所あり、そこを僕とティル、カムシンで渡った。
「なんだ? 何をする?」
後ろから声を掛けられるが、とりあえず作業優先である。パナメラなら文句は言うまい。
「気を付けて横を持って」
僕が指示をすると、カムシンとティルがうなずき、配置についた。
防壁に隣接するような形で、目立たない場所に上下にスライドする蓋が設置してある。そこを左側に僕とティル、右側にカムシンで掴んだような格好となっている。
と、そこへ堀の中を進んできたアプカルル達が顔を出した。
「む、水を送るのか」
「手伝おうか」
大人のアプカルルが二人現れると、堀の向こう側にいたパナメラ達が騒ついた。
「な……アプカルルだと? なぜ、こんなところに……」
「凄い。初めて見た……」
パナメラとアルテの言葉に、子供のアプカルルが三人、すいすいと泳いできて答える。
「僕たちはこの裏に住んでるんだ」
「ヴァン様が美味しいご飯をくれるよ」
「私はヴァンの嫁。ヴァンは私の婿」
子供達は口々に余計なことを言った。何気にラダプリオラが混じってるじゃないか。
「ま、まさかアプカルルを嫁に?」
「そんな……」
誤解が生じた。
僕はラダプリオラを半眼で見つつ、否定する。
「婚約はしてないでしょ。お父さんのラダヴェスタに言ったからね?」
そう告げると、ラダプリオラは睨み返しつつ水の中に潜って姿を消した。
「いじめたー」
「ラダプリオラちゃんをいじめたー」
子供のアプカルル達から責められるが、そこはきちんと言い返す。
「文句言うなら今日はお肉あげないからね」
「っ!!」
「わるかったー!」
「ヴァン大好き。お肉ちょうだい」
伝家の宝刀を抜いた瞬間、アプカルルの子達は態度を一変させる。と、何故か最後にまたラダプリオラが混じっていたな。
そっちを見ようとすると姿を隠したが、間違いなくラダプリオラの声だった。
子供はどこの子も無邪気だな。そんなことを8歳児の僕が考えつつ、大人のアプカルル達を見る。
「じゃ、悪いけど力を貸して。水中から引き抜くのは大変でさ」
そう言うと、アプカルル達は頷いてカムシン、ティルと入れ替わった。
僕達が橋を渡ってパナメラ達のもとへ行くと、パナメラ達は驚愕の眼差しで僕を見ていた。
「……アプカルルを従えているのか。幻の種族とまで言われているのだが……」
「あの子達、可愛かったです……」
そんな声に曖昧に笑いながら、僕はアプカルル達に指示を出した。すると、アプカルル達はいとも容易く蓋を引き抜く。
直後、蓋の下の方から水が抜けていく音が聞こえた。
「よし、閉めてー!」
「わかった」
合図に合わせ、アプカルル達が蓋を閉じる。しばらくして音が止むと、そわそわしていたパナメラがこちらを向いた。
「なんだ、今のは? 何がどうなった」
相当気になっていたようである。むしろ、パナメラはよく我慢したと言える。
「あれは下水の代わりですよ。各建物に設置されたトイレは地下五メートルほどまで穴が続いていて、トイレの上部にあるタンクから水を流すと最下部まで排泄物が流れます。ただ、最下部は各トイレを大きな配管で繋いでいるだけなので、そのままだと段々と臭くなり、不衛生のままだと疫病も発生したりします」
「ほ、ほう……病気は困るな」
パナメラが難しい顔になった。
「まぁ、とりあえず排泄物は処理したいわけです。なので、傾斜をつけて配管を設置し、この堀の水を定期的に流し込みます。すると、傾斜で勢いのついた水が配管内を洗浄します」
「この水をか……ん? その流れた先は何処だ? まさか、堀の中に返しているのか?」
「いえ、今は村の斜め前方に向かわせて地下空洞を設置してますよ。ちなみに、その空洞の下部からはまた配管を繋いでいる最中です。最終的には川に戻す方向で考えていますがね。実は、まだ配管が川まで到達してないんですよ。多分、後一日か二日で完成するとは思いますが」
「ぬ、ぬぬぬ……」
パナメラの顔が歪められた。まぁ、軍人に言葉だけで説明しても難しいよな。
そもそも説明の内容がダメだったかもしれない。しかし、仔細まで説明するのも面倒だ。後で図にして説明するとしよう。
そう決めて、僕は次の作業に向かう。
辺境の領主は忙しいのである。
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