人魚との出会い
「化け物鯨、食べれるかなぁ……」
そう言ってロースト中の化け物鯨に視線を向ける。
「とりあえず、今は難しいな」
「塩焼き、ですか」
「え?」
僕の発言に三人がそれぞれ反応を示した。ティルはそろそろ空腹になってきたのか、調理方法を考え始めている。それにアルテが驚くリアクションをしていて面白かった。
さて、どうしようか。警戒を解く為の黄金パターンが封じられてしまった。そう思っていたのだが、再び人魚が近づいてきてくれた。
「あ、こんにちは。僕はヴァンです。よろしくお願いします」
手を振りながら声を掛けてみた。丁寧な挨拶もしているので、これがご近所だったら評判の良い子として認知されるはずである。
しかし、中々人魚の警戒は解けなかった。眉根を寄せてじわじわと近づいてくる人魚さん。見た目は十代後半くらいだろうか。ティルと同級生と言われても違和感はない。
「……アプカルルさんで間違いないですか?」
もう一度声を掛けてみる。すると、人魚は首を小さく横に振った。
「……ウアンナ」
「ウアンナ?」
言われた言葉を繰り返してみる。人魚は小さく首を縦に振った。どうやら、ウアンナらしい。
いや、ウアンナってなんぞや。
「アプカルルじゃなくて、ウアンナ?」
「ウアンナ」
「へぇ……」
そんなやり取りをして、後ろに顔を向ける。アルテ達を見て、確認した。
「ウアンナって知ってる?」
「知らんな」
「分かりません」
「美味いな?」
とりあえず、ティルが相当空腹らしいことは分かった。下手をしたら目の前のウアンナさんの塩焼きとか想像しているかもしれない。
冗談はさておき、ウアンナが種族名だとしたら、これは新発見では?
「……ウアンナさんって呼んでいいかな?」
もう一度ウアンナに振り向いて尋ねてみる。それにウアンナは首を左右に振った。
「リルダ。リルダ・ウアンナ」
「あ、リルダさんね。了解しました」
最低限の会話をして名前を知ることが出来た。しかし、ウアンナはファーストネームということか? いや、リルダがファーストネーム? どちらにせよ、種族名ではなさそうだった。
「リルダさん。大きな船見なかった? 僕たち、その船を探してるんだけど」
難しいだろうと思いつつ、ダメ元で尋ねてみた。しかし、それにリルダは浅く頷いた。
「……分かる」
「え!? 分かる!?」
「……っ」
驚いて大きな声を出してしまい、リルダが海の中に消える。
「あ、ああ! ごめん! なにもしないから!」
慌てて海に向かって両手を振って謝罪した。すると、また五メートル以上向こう側に生首が現れる。リルダだ。眉根を寄せて警戒心を見せている。
「ど、どこにいたかな? もし可能なら、船のいた場所を教えてくれる?」
できるだけ優しく聞いてみた。すると、リルダが森の方を指差して口を開いた。
「……向こう側」
「え? 島の反対側?」
リルダの言葉に、目を瞬かせる。
「砂浜に流れ着いたから、てっきり正面の方から流されてきたのかと思ってたよ」
そう呟くと、パナメラも腕を組んで唸った。
「流されて島の反対側に辿り着いていたということか?」
海のことはよくわからない。パナメラが怪訝な表情で呟いた疑問に答えることは出来なかった。とはいえ、どんな急流でも島の反対側の砂浜に流れ着くのは違和感があった。それに、そんなに長時間流されたのなら流石に溺死しているだろう。
困惑しながら色々考えていると、リルダが遠慮がちに口を開いた。
「……反対側は深い。危ないから、こっちに連れてきた」
「え? リルダが助けてくれたの?」
衝撃の発言である。リルダの台詞を聞き、目を丸くして聞き返した。すると、リルダが困ったように眉を八の字にして顎を引く。
「……反対側は、こんなのがいっぱい……だから、連れてきた」
そう口にして、リルダは化け物鯨を指差した。そうか。つまり、外洋に面している方が海が深く、大型の魔獣が多数生息しているから、島の反対側まで引っ張ってきてくれたのか。
そこまで考えて、船から投げ出された時の記憶が蘇る。
「……もしかして、船から落ちた時に助けてくれた?」
質問してみると、リルダは予想通り静かに頷いた。
「うわぁ、ありがとう! 命の恩人だったんだね!」
「……っ」
思わず立ち上がって感謝したのだが、リルダは驚いて再び姿を消してしまった。
「あぁ、ごめーん! もう大きな声出さないから」
海に向かって謝っていると、アルテが感動したように口を開く。
「あの海の中で人魚さんに助けられていたなんて……」
まるで神話の世界みたい。そんな雰囲気で感動するアルテ。そして、パナメラは真剣な顔で唸った。
「……大恩だな。何か、返せるものがあると良いが」
根っこは騎士のままのパナメラは律儀だった。
「……とりあえず、美味しいお肉と果物をあげようかな?」
「はい! 準備しますね!」
そう声を掛けると、ティルは片腕を折り曲げて力こぶを作ってみせるのだった。
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