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アルテとの関係

「……まさか、本当に宿を建てるとは思わなかったぞ」


 呆然とした様子でパナメラにそう言われ、肩を竦めた。そして、目の前に建つ二階建てのビルっぽい建物を見上げ、解説する。


「材料が少々心許無かったので、申し訳ありませんが兵の方々は四人一部屋で建てました。後はパナメラ様、アルテ嬢、その他三部屋個室を用意しています。トイレは個室には一つ付きますが、他は共同のものとなります」


「十分過ぎる設備だ。夜営のつもりで来たのだから、兵達は大いに喜ぶだろう」


 パナメラはそう言ってから、兵達に宿に入り、宿泊準備をするよう伝えた。荷物を置くロッカーは作ったが、バカでかいリュックが置けるかは不明である。


 パナメラとアルテが確認の為に宿に向かう背中を見送り、僕は腕を組んで考える。


 各部屋は小さく作ってあるので、思ったよりスペースはとらないが、それでも村の防壁側で空いていた土地をかなり使ってしまった。


 人口の増加があろうがなかろうが、城壁の建設は進めなければならないだろう。


 今後の村の改造について考えていると、ティルが口を開いた。


「あの、皆様のお食事はどうされますか?」


「そうだね……とりあえず、この前来た魔獣の肉は?」


 そう聞くと、ティルは難しい顔をした。


 アプカルル達が住み着いてから直ぐ、村の東側に魔獣が現れたのだ。


 群れで狩りをする森の魔獣、鱗狼(スケイルウルフ)である。大きなモノは体長三メートルにもなる狼で、頭や背中、足の表面が硬い鱗で覆われているのが特徴だ。牙や爪は破壊力抜群であり、更に鱗は硬く動きも素早い。それが数十体もの群れで行動するため、大変危険な魔獣であるとされている。


 今回現れたのは十五体と比較的少数の群れだったが、何故か全て大型の三メートル級だった。


 商人のベルが狂喜乱舞したのは言うまでも無い。


「鱗狼の鱗鎧、鱗狼の鱗盾、鱗狼の鱗兜……!」


 一頭で大体一人分の装備しか造れないらしく、その分値段は高い。僕が試しに装備を作ってみたのだが、甚く気に入ったベルが防具一揃えで金貨三十枚出すと言い出した。


 ただし、そんな金はもう持っていないので、後日払う予定で店に保管である。


 その戦いの後にスケイルウルフの肉が残ったのだが、まぁ中々に美味だった。


 その肉ならパナメラやアルテであっても喜ぶと思うが、ティルはなんとも言えない顔をしている。


「どうしたの?」


 そう聞くと、ティルは真剣な顔で僕に一歩近付いた。


「ヴァン様。私としては、あの可憐なアルテ様との婚姻は是非とも成功させたいです。なのに、初対面で最初に共に食べる料理が肉のみでは悲しすぎます……!」


「え? ティルは賛成なの?」


 聞き返すと、ティルは何度も頷く。


「可愛らしいですし、控えめな方なので、ヴァン様が行う突拍子も無いことにも異論は挟まず、付いてきてくれそうです」


「突拍子も無いこと……」


「はい。それに、優しい方がヴァン様の奥様になられたら、私もお側に居やすいですし」


「職場環境の問題か……いや、大事だけどね?」


 そう答えると、カムシンは同意するように頷いた。


「僕も、アルテ様なら良いと思います。ただ、出来たらもっと力強い方のほうが……パナメラ様みたいな」


 おぉ、カムシンは気の強い女性が好みか。ふむ。カムシンの奥さん探しの参考にしよう。


 と、そんなことを考えていると、エスパーダが口を開いた。


「私の考えですが、パナメラ子爵の言は真でしょう。申し訳ありませんが、伯爵家から見ればヴァン様とアルテ様を婚約させる意義はあまりありません。ただ、最初から婚姻もありきで送り出すところを見ると、アルテ様の魔術適性は四元素魔術ではなかったのでしょうが……」


 エスパーダの言葉が珍しく歯切れが悪い。まぁ、アルテも僕と同じく、家から追い出される運命にある、というのは言いづらいか。


 僕が苦笑していると、エスパーダは咳払いを一つして、言葉を続けた。


「……純粋に、パナメラ子爵がヴァン様の力を認めた可能性は高いです。故にあの言葉も嘘ではないでしょう。ただし、アルテ様と婚姻することにより生じる状況の変化は無視出来ません」


「伯爵家やパナメラ子爵が訪れた際は、無条件で村の中に入れるようになるね。後は、バリスタや砦の建設、武器や防具についても色々と聞かれるだろうね。あ、今はアプカルルとの繋がりも、か」


 そう答えると、エスパーダは頷く。


「お父上とも話をしておかねばなりません。これまで決して良好な関係ではなかった伯爵家との縁談です。恐らく、今後を考えるなら破談となるでしょうが、もしかしたらという事もあります」


「破談……あぁ、父が伯爵領を狙う可能性もあるってことか。でも、今のご時世じゃあ無理じゃないかな?」


 我がスクーデリア王国は十数年もの間領土を広げ続けた。つまり、それだけ近隣の国からは怖がられているし、恨まれている。


 それ故に、身内同士で争うことを国王であるディーノ・エン・ツォーラ・ベルリネートはなによりも嫌った。


 しかし、エスパーダは首を左右に振る。


「様々な手法があります。戦で活躍して領土を増やしたり、経済的に困窮させて領土の維持を難しくさせたり、足を引っ張って降格させたりと、やり方はいくらでもあるでしょう」


「怖いね。領地なんてそこまでして広げなくても良いだろうけど」


 僕はそう言って短く息を吐き、目を細めた。






 その日の夕方、パナメラとアルテを領主の館に招待し、歓待する。


 パナメラとはよく会話をしたが、アルテとはあまり話せていなかった。だから、夕食の間はそれなりに会話を試みた。


 楽しんでくれたかは分からないが、料理は満足してもらえたらしい。


 美味しいという感想が聞かれ、後方でティルが小さく握り拳を突き上げていた。


 食事が終わって、僕は二人を宿に送る。まぁ、僕が送るという形だが、実際はティルとカムシンも一緒である。


 村の中の移動の為か、パナメラ側の護衛の兵士は誰もいない。これはパナメラから信用されたとみるべきか。


「村の中は安全であり、平和だな。料理も驚くほど美味く、食材や調味料などが豊富ということでもある。そして、この村の住民は誰もがヴァン殿を認めているようだ」


 村の中を見回しながら、パナメラが言った。


 少し慣れてきたのか、アルテがチラチラとこちらを見てくる。


「そうですか。ティルは料理が上手ですからね。食料事情を改善したので、村の者からの評判も良いのでしょう」


 そう返答すると、パナメラは口の端を上げた。


「ほほう。謙虚だな。私ならば自らの功績を高らかに自慢する。それが外への宣伝にもなるからな」


「村を囲う壁も家の資材も部下や村人達が用意してくれましたからね。僕はそれを加工しただけですよ。今後村の規模が千人を超えたら自慢を書き連ねて書状にしましょう」


「はっはっは! 楽しみにしていよう! では、また明日会おう!」


 そんなやり取りをして、パナメラは宿に消えた。


 と、何故かアルテがその場に一人で残っている。


「どうしました、アルテ嬢?」


 そう聞くと、アルテは言いづらそうにモジモジしていたが、やがて伏し目がちに口を開いた。


「……きょ、今日はありがとう、ございました。婚約するかもしれない方と思い、緊張しておりましたが……その、ヴァン様がお優しい方で、あ、安心しました。あ、えっと、これからも、よろしくお願い致します……! おやすみなさい!」


 途中から早口になり、就寝の挨拶を叫びながら走り去るアルテ。


「……まぁ、悪い評価ではなかった、のかな?」


 僕は首を傾げて呟き、館に戻ったのだった。


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