まさかの完成
あれから一時間程度だろうか。ハベルと二人で唸りながら素材を変化させていると、海面からラダヴェスタの顔がにゅっと現れた。
「どうだったかな?」
約二十回目の確認。今度こそという気持ちで尋ねてみる。すると、ラダヴェスタは真面目な顔で深く頷いた。
「うむ。今回は良いと思う。しっかりと水中に音と振動が響いていた」
「おお!」
ラダヴェスタの発言に、思わず歓声を上げてハベルに顔を向ける。それに、ハベルは呆れたような顔で鼻を鳴らした。
「……思いのほかあっさり見つかって良かったが、完全に反則だぞ。俺もヴァン様の魔術が欲しいくらいだ」
と、喜びの声というよりは文句を言って短く息を吐くハベル。
それもそのはずである。通常なら毎回鉱石から純度の高い金属の塊にして、次に分量を確認しながら再び溶かす。そして混ぜ合わせながら冷やすという工程を経て、ようやく合金が完成するはずである。細かな工程は知らないが、恐らくそんな感じ。
しかし、ヴァン君の魔術なら形さえイメージ出来ればどんどん素材を変えて作り直すことができるのだ。
そんなこんなでざっくり一割ずつくらいの勢いでミスリルに銀を混ぜ込んでみた。結果、二割と三割の間くらいではないかという話になり、それからは一パーセントずつ分量を変化させてみたのだ。
そこまでいけば後は微調整のみである。ほぼ間違いないが、少し違う気がするというラダヴェスタの意見を聞いて何度も素材を変化させてみたことで、あっという間に合金の再現に成功したのだ。
「やったね!」
再度、喜びを分かち合おうとハベルに拳を向けると、ため息交じりに自分の拳を押し当ててきた。
「……本当、とんでもない魔術だな。まぁ、完成したってところは素直に喜ぶとしよう」
ハベルは何故か釈然としない様子で苦笑し、そんなことを言う。それに笑っていると、船の上からパナメラ達が下りてきた。アルテやカムシンも一緒だ。
「もう完成したのか?」
少し驚いた様子でパナメラがそう尋ねてくる。それに笑顔で頷き、答えた。
「その通りです! なんとか今日中に完成して良かったです!」
そう言うと、後ろからハベルがしつこく文句を言ってくる。
「いや、反則だからな? 本当に反則だ。ずるいぞ」
「もう、ハベルさん。しつこいですよ」
「いや、だってな……?」
最終的には口を尖らせて拗ねてしまうハベル。今まで見たことがないハベルの顔に思わず笑っていると、パナメラが歯を見せて笑った。
「いつものことだな。それでは、閣下にも完成を伝えてくるとしよう」
「あ、はーい」
そう言って、パナメラは再び甲板へ移動していった。ほどなくして、ロッソが部下たちを連れて船から降りてくる。
「もう完成したのか?」
ロッソはいつもの調子でそう聞いてきたが、それにハベルが不満そうな顔をする。どれだけとんでもないことをしたのか分かってほしいのかもしれないが、流石に侯爵相手に勝手に発言することはしないようだ。
「出来ましたよー! まずは近いところで試験航海をしてみようと思います!」
そう告げると、ロッソは深く頷いて桟橋から船を見上げた。
「この船は何人で動かすことができるのだ?」
「そうですね……多分、最少人数は十人くらいかなと思います。風の魔術師と操舵士、帆を張ったり畳む人とかですね。とはいえ、現実的には二十人は必要になると思います。船大工や料理人も必要ですし、いざという時の為に交代で作業できるだけの人員が必要ですね」
「なるほど……それでも二十人か。こんな大きな船がそれだけの人員で動かせるというのは驚きだな。確か、トラン殿はフリートウードを動かすのに三十名以上と言っていたな。海を越えて遠くの地を目指すなら、それだけの人数は必要ということか」
「恐らく、方角と航行時間をもとに海図で現在地を割り出せる航海士や戦闘員、あとは他国で交渉するための外交員なども乗っている可能性はありますね」
質問に推測で答えると、ロッソは顎に手を当てて唸る。
「ふむ……それらを考えると中々簡単なことではないな。まずは、近海で様子を見るしかあるまい」
「はい。なので、半年から一年くらいかけて船の運用技術を学ぶべきだと思っています。まずは、前回実験的に船を動かした経験があるディー達と、後はかなり強い風の魔術師がいれば大丈夫かと思いますが……」
四元素魔術の適性を持つ者は貴重である。少し遠慮がちに意見を口にすると、ロッソは軽く頷いて答えてくれた。
「ならば、私の手元にいる風の魔術適性を持つ者に手伝わせよう。いつから行う予定だね?」
なんと、あっさりと了承してもらえた。ありがたい限りである。
「明日からです」
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