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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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サービスサービス

「全体止まれ! 休憩だ!」


「はっ!」


 十数分ほど遅れて、セスト達が到着した。フェルティオ侯爵家の騎士団は流石に精鋭ということもあり、一糸乱れぬ動きで素早く休憩の準備に入る。すると、馬車の一つからセストも顔を出した。不機嫌そうな顔つきで周りを見て、こちらが食事をしている最中なのを発見する。


「……兵士長。何故、これだけ差がつくんだ」


 寝起きなのか、少しだけ掠れた声でセストが尋ねる。すると、兵士長は休憩準備の手を止めて立ち上がり、背筋を伸ばす。


「はっ! 我が侯爵家の騎士団が保有する馬車よりも、ヴァン様がご使用されている馬車の方が高性能だからかと!」


「……分かっているなら、何故セアト村にいる時に改善しなかった? 丸一日時間があったんだぞ?」


「申し訳ありません! 思い至りませんでした!」


 セストが問い詰めるように尋ねると、兵士長は謝罪の言葉を口にした。とはいえ、中々そこまで気が回るものではない。センテナに参加はしていたようだが、その時に僕の馬車の性能まで記憶することは出来なかっただろう。あまり責めるのは可哀想だ。そう思ったその時、セストが手を上げた。


 殴るでもなく、手のひらで兵士長の頬をはたくセスト。大きくは無かったが、その音に思わず騎士達が視線を向ける。


 セストは皆の注目を浴びたことを感じて、目を鋭く尖らせて舌打ちをして背を向けた。無言で川の方へ移動するセストを見送り、一人残された兵士長の下へ向かう。


「……大丈夫? 今後の行軍速度にも影響しそうだし、サービスで馬車を作ってあげるよ」


 そう告げると、兵士長は驚いて振り返った。


「そ、そんな……ヴァン様にそこまでしていただくわけには……!」


 遠慮する兵士長。今は二十代後半になって兵士長にもなった騎士だが、この人は僕が子供の時に剣を教えてくれた人たちの一人でもある。そんな過去を思い出しながら、笑いながら片手を振った。


「まだヴァン子爵じゃなくて、ヴァン様って呼んでくれるシルエトの為だからね。剣を教えてくれたお礼だと思ってよ」


 冗談交じりそう言って、カムシンに木材を準備して欲しいとお願いをする。カムシンがディー達に伝令をしてくれている中、兵士長であるシルエトは目を潤ませて顎を引いた。


「あ、ありがとう、ございます……! ヴァン様の、お優しいお心遣いに最大限の感謝を……!」


「大袈裟だよ、馬車くらいで」


 感極まった様子のシルエトに苦笑しながらそれだけ言っておく。


 休憩中だったというのに、ディー達は物凄い勢いで木材を持ってきた。正直、午後は全て伐採の時間になるのかと思っていたから、指示をした本人も驚愕である。


「これくらいでよろしいですかな?」


「ありがとー! 助かったよ! それじゃあ、もう少し休憩していてね」


「分かりました!」


 ディーは十本もの木を伐採した後とは思えない元気さでそれだけ言うと、休憩を再開した皆の下へ戻って行った。


「……一撃で木を切り倒すディーがおかしいんだよね? 僕は常識人の筈だから」


 そう呟くと、アルテが困ったように笑う。何故、何も答えないんだい?


 そんなことを思いつつ、さっさと作ってしまおうと運び込まれた木材に手を触れる。魔力を集中し、頭の中で設計図を展開した。もう何度も作っている分、馬車を作るのはあっという間だ。


 ただし、唯一の問題はサスペンションである。車輪のゴム部分は無くても乗り心地が死ぬだけだが、サスペンションは無いと流石にまずい。


 ということで、まずは車輪とシャフト、ボディの下部を簡単に作っていく。そして、軸受けの上にサスペンションを設置してボディが少し浮いたような状態になる。ここまで出来たら後はコテコテ付けていくだけである。


 御者席を少し広くして、馬は困ったら四頭までつなげるようにしようかなー、みたいなノリである。これが一番楽しい。


「あ、あの、ヴァン様……?」


 ふと、アルテに名を呼ばれて手を止める。


「ん? どうしたの?」


 馬車に背を向けて振り返ると、アルテが困ったように作りかけの馬車を指差した。


「えっと、どこまで作られるのでしょう?」


「え?」


 言われて振り返ると、既に馬車の大半は完成しており、何故か物凄く凝った装飾を設置している最中だった。馬車の壁面には豪華な仏壇みたいな装飾が施されているではないか。


「……き、気が付いたらこんなことに?」


 自分でも何故か分からずに疑問符を付けて答えてしまった。それにアルテは困ったように微笑む。その微笑みが傷を抉ってくるようだ。


「よ、よし。皆を待たせてるし、すぐにもう一台作るよ!」


「は、はい! 頑張ってください!」


 可愛い女の子に応援されながらバリバリと馬車を一台作り上げる。声援を受けて能力が向上したのか、馬車一台を三十分ほどで作り上げてしまった。装飾はゼロだが、十分過ぎる性能の筈である。


「やっと終わったー」


 ホッとしてそう言った直後、食事を終えたハベルが歩いてきた。


「おお? もう出来たのか! 流石はヴァン様だ……って、装飾が中途半端じゃねぇか!」


 折角終わったと思ったのに、ハベルが中途半端な状態の馬車を発見してしまう。ヤバいと思ったが、もう遅い。


「こりゃいかんな! わしがちょっと手伝ってやろう!」


「えー!?」


 こうして、凝り性のハベルに火が点き、出発はさらに一時間遅れることとなったのだった。


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