原因究明
翌日、恐る恐る執務室に顔を出してみると、そっと書類の山が増えていた。まさか、ディー達は一日であれだけの書類を用意したのか。
恐怖に打ち震えながら書類の確認に向かうと、背後から何者かが現れた。
「ふむ……おはようございます。今日は随分と早くに執務に来られましたな」
現れたのは恐怖の大魔王……いや、執事長だった。
「エスパーダ。何故だろう? あんなに大量の書類を処理したはずなのに、また大量の書類が積まれているように見えるんだ……これは、もしかして夢なのかな?」
「現実ですな」
「あ、はい」
茶目っ気ゼロのエスパーダの一言に現実に戻されつつ、改めて書類を確認した。すると、そこには箇条書きになった様々な要望の数々が並んで……って、どういうことだ。
「え? 昨日話した、セアト村に住む人の要望や意見? なんでもうあるの? まだ意見を集めても無いよね?」
混乱しながら尋ねると、エスパーダはなんでもないことのように口を開く。
「昨日の話を聞き、過去にあった意見などをまとめてみました。すでに対応したものに関しては意見や要望に合わせて対処した内容などを記載してまとめております。これまでは意見や要望がある度に対応しておりましたが、まとめることで事前に対処が可能になるものもあると思われます。まず、生活に関する意見、要望ですが……」
気が付けば、エスパーダはさらっと執務に移ってしまった。おかしい。ちょっと様子を見ようと思って立ち寄ったのに、何故かそのまま仕事をすることになっている。
「エスパーダ。朝のルーティンであるティルの紅茶とお菓子で朝休憩が……」
「あと、こちらの意見や要望に対しての対処ですが、こちらでも人材不足の弊害が起きております。人手が足りないことで対処が遅れており……ん? 何ですかな?」
「ナンデモナイデス」
完全に仕事モードになっているエスパーダを見て、僕は諦めた。聡明かつ天才少年であるヴァン君は状況を見て柔軟に判断し、早急に仕事を終わらせて遊びに行こうと決めたのだ。
「人材不足って困ったねぇ。でも、これを見たら求人に人が来ない理由が分かるかな。結局、昨日から立て看板の募集に誰も来てないみたいだし」
「ふむ、それに関しては一つ原因と思わしきものが分かりました。まだ仮説程度ですが……」
「え!? 原因ってなに!?」
原因が分かるとは有り難い。しかし、昨日からエスパーダの姿を見ないと思っていたが、この書類の山以外にも色々していたのか。どれだけ働くのか、この執事長。
そんな複雑な感情のもと、すぐに答えを求めた。それにエスパーダは軽く咳払いをして応じる。
「これはムルシア様の下で集めた情報からになりますが、原因としては妥当かと思い報告をさせていただきます」
「ムルシア兄さんの? まぁ、あそこも年中人手不足だよね。可哀そうに」
自ら派遣しておきながら同情してしまう悪いヴァン君。いや、もうすぐ楽になるはずである。過労死などという意味ではなく、人材が補充されて仕事が楽になるはずなのだ。ごめんて、兄さん。
そんなことを思いながらコメントしていると、エスパーダは軽く顎を引いて報告を続ける。
「そこで文官として送り込んだ者たちに、それぞれ一人から二人の部下を付けているのですが、そこから意見が出ているようです。内容としては、やはり一人で様々な業務をする必要があることが辛い、というようなものでした。人材が足りない状況で増員されているので仕方がないことですが、慣れない業務も多く、中々習熟しないようです」
「なるほど。じゃあ、そういう噂を聞いて、誰も文官になりたがらないという……」
「そのようですな。セアト村や冒険者の町では領地を支える者たちが働く姿をいつも見ております。その姿がとても過酷かつ重労働のように見えているのでしょう」
エスパーダは淡々とそんな仮説を述べた。それに、思わず心の中で激しく突っ込みを入れる。
つまり、ヴァン君がめちゃめちゃ大変そうに見えているのではないのか。皆の前でエスパーダに連行される姿を何度も見せてしまっている。あれ? そう思うと原因ってエスパーダが怖そうってことにならない?
そんなことを瞬時に考え、慎重にエスパーダに物申す。
「……それは、つまりエスパーダに無理やり働かされている僕が可哀想、ということだったり……」
「いえ、それは無いでしょう」
無いんかい!
瞬時に心の中で突っ込んだ。エスパーダの謎の断言に思わず「目を背けてはいけないよ」と言いたくなる。だって、どう考えてもヴァン君働き過ぎ問題がセアト村では囁かれているはずである。
「とりあえず、他に原因が見つからない間は立て看板の内容を少し変更する方が良いと思われます。業務内容を明確にし、暫くはその業務に集中してもらうと伝える内容が良いかと」
「なるほど! 一つの業務の担当者を募集するってことだね。それなら、確かに不安にならなくて良いかも!」
納得して同意の言葉を口にすると、エスパーダも静かに頷いた。




