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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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アイディア

 咄嗟のアイディアで、僕は領主の館前に看板を設置することにした。その看板にはこう書いてある。


 タイトルは『来たれ、未来の領主候補達よ! 今こそ成り上がりの好機なり!』で、

 詳細は『領地運営補助者募集。見習いは日当銅貨五枚。担当者は日当銅貨八枚。主任は日当銀貨一枚以上。主な業務内容は書類作成、各種計算業務、軽作業など。頑張れば頑張る分だけ評価される働き甲斐のある職場です!』といった感じだ。


 うむ、これはホワイト企業っぽさが滲みだしている。この世界で休日という概念はあまり浸透しておらず、一般市民は毎日朝から夕方まで働いている者が殆どだ。そうなると、一日に銅貨五枚だと少し賃金が安い気がするが、担当者、主任とランクアップする度に生活は豊かになる。そもそも、僕の領内では住居に費用が掛からず、生活に必要な日用品なども格安である。十分な給料だと思うのだが、どうだろうか。


 そう思っていたのだが、どうやら村人たちの反応はあまり芳しくなかった。


 領主の館の窓に張り付いてジッと様子を見ていたのだが、注目は十分にされている。立ち止まって近くの人と看板の内容について話す村人たち。何なら通りがかった騎士団の団員や商人の人まで看板を興味深そうに眺めていた。


 しかし、揃って微妙な顔をしながら通り過ぎている。何故だ。やはり、アットホームな職場ですと書いた方が良かったのか。


 誰か領主の館を訪ねて来ないものかとジッと観察を続ける。すると、後ろからティルに声を掛けられた。


「中々応募してくる人がいませんねぇ」


「そうなんだよ。やっぱり、給料が安かったかなぁ……」


 そう呟くと、ティルが怒ったように眉根を寄せ、腰に手を当てた。


「そんなことはありません! ヴァン様にお仕えなら無料でも良いくらいです!」


「……それは、多分ティルだけかな」


 ティルのとんでも理論に苦笑していると、アルテが小さく「あっ」と声を出した。


「どうしたの?」


 振り返って尋ねると、アルテが手に持っていた書類を机の上に置いて口を開く。


「その、もしかしたら、冒険者の方々の方がとても多くのお金を稼いでらっしゃるので、そのせいではないでしょうか……?」


「な、なるほど……!」


 アルテの言葉に大いに納得する。なにせ、オルト達を筆頭に彼らは考えられないほどの稼ぎを得ている。その理由の一つは何か月でも籠ることが出来るダンジョンとウルフスブルグ山脈だ。通常ならばダンジョンは数日滞在し、十日もすれば野営に耐えかねて町に戻りたくなるだろう。しかし、我がセアト村近郊のダンジョンにはゆったり休める拠点がある。魔獣の襲撃に怯える必要もなく休養が取れる素敵宿泊施設だ。


 そして、ダンジョンや山脈の強大な魔獣を相手にしても、ヴァン君特製の武具を身にまとった冒険者達ならば余力をもって討伐出来る。結果として、冒険者達は大人数で討伐するような希少な魔獣の素材や鉱石などを毎回持って帰っており、中にはセアト村に別荘を買おうかなどと話している人もいるらしい。


 そう考えたら、困ったら冒険者になれば良いと思う人も多いかもしれない。しかし、いくらなんでも、そんな冒険者達に見劣りしないような給料は払えない。いや、払えることは払えるが、それを長年維持することは難しいだろう。


「……あ、それだと、騎士団の皆ももっと給料上げないとまずいんじゃ……」


 ふと、重要なことに気が付いた。村人たちですら冒険者達の稼ぎを羨ましいと思っているなら、騎士団の団員達もそうなのではないか。


「ディーの地獄のような訓練を毎日……よく考えなくても騎士団を辞めて冒険者になろうって人がいっぱい出てくるんじゃ……」


 急激に不安になり、居ても立っても居られなくなってくる。ディーのしごきは物凄い。ただ、その訓練を企画している本人が倍以上に厳しい訓練を隣でしている為、誰も文句を言えないというだけである。


「……よし! すぐに騎士団の皆に聞き込み調査を開始しよう!」


「え? 今からですか?」


「今はエスパーダが用事で出てるからね! そっと行って戻れば大丈夫だよ!」


「そ、そうでしょうか……?」


 勢いよく振り返って皆に声を掛けると、ティルとアルテが驚いた。カムシンは一瞬書類の山を確認し、すぐにこちらに顔を向ける。


「……一時間で戻れば、大丈夫だと思います」


「よし、一時間だね!」


 カムシンの根拠の薄い助言をしっかりと受け取り、頷いて答えた。


 決して、書類の山から逃げ出したいわけではない。未来に起こるかもしれない騎士団崩壊を防ぐ為に、涙を呑んで仕事を放り出していくのだ。決して、書類作業に飽きたわけではない。


「さぁ、皆で行こう! 作戦名は『赤信号、皆で渡れば怖くない!』だよ!」


「え? あかしんごう?」


「なんでしょう?」


 戸惑う皆を引き連れて、僕は執務室から飛び出したのだった。



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