そんなこんなで一旦帰宅
王都では陛下とアペルタにすっかりやられてしまった気がする。間違いなく、ヴァン君はスクーデリア王国で一番働く貴族家当主だろう。ちなみに、また面倒な仕事を押し付けてしまったからゴメンねということなのか、通常ではあり得ないくらいのお土産をもらって帰った。それにはパナメラも驚き、王家の紋章が入った大型馬車三台を見て目を丸くしていたくらいだ。
ちなみに、既に前回のイェリネッタ王国との戦いでの活躍により誰よりも多くの領地や褒賞を貰った為、今回は金銀財宝その他ヴァン君が喜びそうな調味料、素材などを貰って帰っている。
はっきり言って、今やヴァン君の領地がスクーデリア王国内で最も経済的に恵まれていると断言して良いはずだ。
ただし、セアト村も含めて領地を支える文官や騎士達の忙しさもスクーデリア王国内随一である。豆知識として、一番働いているのがエスパーダとムルシアで、その次にヴァン君がランクインすると個人的には思っている。
まぁ、働いた分の給料をもらっていると思って我慢すべきだろうか。
色々と文句はありつつも、充実した毎日を送れているので楽しいことは間違いない。
そんなことを思っている内に、ヴァン君はセアト村に帰ってきた。
「あ、セアト村が見えましたよ!」
「正確には手前の冒険者の町ですが……」
「そういえば、もう少し冒険者の町も改良しなくちゃいけないんだった……」
ティルとカムシンの声を聞き、別件の仕事も思い出して苦笑する。とはいえ、久しぶりに家に帰ってきた感覚で嬉しい。
「ヴァン様!」
冒険者の町を通過した時に連絡を受けたのか、タルガやエスパーダ達がセアト村の城門で待っていた。大きな声で僕の名を呼ぶタルガと、その横で静かに立つエスパーダ。
「ただいまー!」
馬車から顔を出して手を振りながら声を掛ける。すると、城門や城壁の上からも歓声が聞こえてきた。おお、こんなに喜ばれるのは戦争から帰ってきた時以来ではなかろうか。ふふふ、人気者は辛いなぁ。
そんなことを思いながら皆に向かって手を振りまくっていると、予定とは違う声が聞こえてきた。
「ヴァン様! 久しぶりに帰宅なのでバーベキュー大会ですよね!?」
「今準備中なので、少々お待ちください!」
「我々はヴァン様のご帰還をお待ちしておりました!」
涎でも垂らしていそうな声でワーワーとそんなことを言われる。それが目的か、貴様ら。肉の代わりに野菜を食べさせるぞ、おい。
「もー! 僕が帰ってきたから喜んでくれたのかと思ったのに!」
両手を振り上げてクレームを発するが、何故か笑い声が返ってくるのみである。何かがおかしい。ヴァン君は現在、子爵家当主である。え? 子爵って偉い人じゃなかったっけ?
貴族という地位に疑問を感じながらも、馬車の椅子に座り直す。すると、アルテとティルが微笑みながらこちらを見ていた。
「……ヴァン様は皆さんから愛されていますね」
「皆、ヴァン様の凄さに一割くらいは気が付いていますから! あ、全て知っているのは私くらいですよ? なにせ、ヴァン様が赤ちゃんの頃から見てますからね!」
アルテがしみじみといった感じで予想外の感想を口にすると、ティルが鼻息荒くそんなことを言った。
「いやいや、どう考えても近所の子供に接するみたいになってるからね? むしろ、バーベキューを愛してるとしか思えない……あ、バーベキュー大会の時は無料でお酒も出るから、目的はそっちかも」
腕を組んで鼻から息を吐き、現実を語る。それに対して、カムシンが不満そうに深く頷いた。
「流石にヴァン様に対して失礼かと……通りの端に並んで立ち、静かにヴァン様の帰還を見守るのが一番理想で……」
「え? 皆が一直線に並んで僕を見てるの? なにそれ、めっちゃ怖い。却下!」
カムシンのとんでもない意見を即座に却下する。地味にカムシンがハッとした顔でショックを受けていたが、それは知らぬ。
「……まぁ、どうせすぐに出かけないといけなくなるんだから、バーベキュー大会も良いかもね」
一ヶ月後か二ヶ月後かは分からないが、ロッソ侯爵領か王都にトランが現れたらお呼びが掛かるだろう。移動距離を考えると、報せが届いたら即座に出発しなくてはならない。早めにやる事をやっておいた方が良いだろう。
その一つ目がバーベキュー大会というわけだ。
ん? 何かがおかしい。
そんなことを思いながらタルガ達の下へ行き、第一声から「疲れたー」とコメントする。嫌な予感がしたので、初手から少し休ませてねという意思を込めて伝えてみたのだ。
しかし、鬼には響かなかった。鬼は軽く頷いて無表情で口を開く。
「それでは、溜まっていた勉強は二時間後にしましょう。お食事と湯浴みがお済みになったら教えてください」
「嘘でしょ……?」
愕然として聞き返したが、無言で首を傾げられてしまった。
おらが村に鬼が出たぞー! 皆の者、逃げるんじゃー!




