謎の技術
今後についてのあれこれは終わり、再び船の話に戻る。
「……それにしても、その銀の外装とやらが気になるな。どうやって大型の魔獣から船を守っているのか」
陛下からそんな言葉をポツリと言われて、溜め息と共に首を左右に振る。
「それが、まだ色々と推測をしている段階で……正直、銀の装甲と外洋を渡る運航技術さえ手に入れることが出来たら、この船はすぐにでも航海することが可能です。それこそ、フィエスタ王国を目指すことも、ソルスティス帝国にこちらから接触することも……」
そう告げると、アペルタが肩を竦めて短く息を吐いた。
「つまり、今はまだ実用段階ではないということですか。しかし、それらの技術は一から研究したところで何十年と掛かりそうなものでしょう。理想としては、フィエスタ王国から専門家をこちらに引き抜きたいところですな」
と、あっさりとアペルタはこちらの考えを言い当てるように意見を口にする。アペルタ、恐ろしい子。
そんなことを思いながら、僕は軽く咳払いをして答える。
「ごほん……まぁ、そうなんですよね。結局、独自に研究すればそれだけ予算と人員、そして時間を掛ける必要が出てきます。しかし、既に求める知識や技術を備えている場所から、それらについて勉強した人物を雇うことが出来ればお得ですよね。ただ、今回はそれが難しいと思っています」
アペルタの意見に同意すると首肯が返ってきた。
「そうでしょうとも。地続きの隣国の情報を探るだけでも大変だというのに、広大な海にある海洋国家など接触することすら出来ません。逆に、その海洋国家はこちらといつでも接触することが出来、尚且つ優位に同盟や交易の話をすることが出来ます。この関係性は良くありません。そのトランという船長はとても扱いやすい人物のようですが、国の中枢を管理している者はそう簡単にはいきません。出来ることならソルスティス帝国よりも早く五分の同盟関係を結んでおきたいですな」
「同盟関係になったからと言って最も重要な機密を漏らすようなことはあるまい。出来ることと言えばフィエスタの船長を傭兵のように雇って船を借りて運用する程度か。しかし、それではあまり旨味はないな」
アペルタの台詞に陛下が少し含みのある言い方をする。単純にアペルタの台詞に同意したわけでも反対したわけでもなく、何か他に言いたいことがあるようなニュアンスだ。そして、気のせいでなければその矛先はこちらに向いている気がする。
同じことを感じたのか、陛下の話を聞いてアペルタもこちらをチラリと見てきた。嫌な予感を感じつつ、二人の顔を順番に見る。
「……何か?」
こちらから確認してみると、二人は揃ってニッコリと微笑んだ。
「頼むぞ、ヴァン子爵」
「我が国の未来を十歳前後の子に託すことになるとは思いませんでしたな、陛下」
「うむ、全くだ。はっはっは」
と、そんな会話をして二人は声を出して笑う。清々しいまでに丸投げである。いやいや、スクーデリア王国は世界屈指の大国の筈だ。様々な分野での研究者がいる筈ではないか。なんとなく、新しい物作りなら天才少年ヴァン君でいっか、みたいなノリが垣間見えたぞ。
そんなことを思いながら、半眼で二人を見上げる。
「えー、僕だって無理ですよー。どっちかというと船の改良をしてフィエスタ王国より速い船を作ったりしたいですけどね。バリスタなら大砲みたいな反動が無いから全方向に向けて設置することが出来るし、取り回しも断然良い筈だから、本当に移動する要塞みたいな戦い方が出来ると思うんですよねぇ」
頭の中で考えていた構想をちらりと二人に教えてみると、陛下が真剣な顔で顎を引いた。
「……本当に、恐ろしい少年だ。どんな頭をしているのか」
陛下がそう口にすると、アペルタも軽く首肯する。
「まだフィエスタ王国はソルスティス帝国の大砲を手に入れてはいない筈です。しかしヴァン卿はこのような船に大砲を積むならどのように設置するか。そういったことを既に考えていたということですね。その長所と短所を分析したところ、バリスタを設置した方が強力だ、と……」
二人はそんな感想を口にすると、顔を見合わせて打ち合わせを始めた。
「確かに、ヴァン卿は防衛設備や武装兵器を作ることに長けております。それなら、銀の装甲とやらを研究するのは別の者に任せた方が良いかもしれませんな」
「うぅむ……ヴァン子爵が二人おれば良いのだが、そうもいかんか。無理を言い過ぎてヴァン子爵が逃げ出してしまっても国が揺らぐ……残念だが、研究者を総動員して銀の装甲の解明に当たらせるとしよう」
「そういえば、陛下。王都に商業ギルドが関係する新しい菓子店が出来たようですぞ。せっかく王都にヴァン子爵が来たのですから、歓待の準備をしては?」
「おお、それは良いな」
こそこそ打ち合わせをしているようだが、ばっちり聞こえている。そうそう、働き過ぎのヴァン君を労うのだよ。残業代はスイーツで勘弁してやろうじゃないか。出来たらフルーツケーキをください。
二人の会話を盗み聞いてすっかり機嫌を取り戻していたヴァン君だったが、その後の陛下の言葉で愕然としてしまった。
「以前からヴァン子爵の背が低いことが気になっておったのだ。身体も細過ぎる。贅を凝らした食事を用意させるとしよう」
そう言って、陛下は口の端を上げる。誰がチビで貧弱だ。これでもディーに鍛えられて細マッチョなんだぞ。アスリート体型だと言ってもらいたい。逃げる速さは誰にも負けないと自負しているのだ。
前々から書きたかった新作を掲載しました!(*'ω'*)
タイトルは『僕の職業適性には人権が無かったらしい』です!(*'▽')
是非読んでみてください!




