完成した船とトランの決断
トランの助言のお陰で、ヴァン君特製の大型船第二号は第一号に比べて圧倒的なまでの安定性を確保した。まぁ、船を運用しているのはトラン達熟練の船員達なので自分達が同じように動かせるかというと自信は無い。
「おお、これは凄い!」
「少年! これほどとは思わなかったな! なんという速度だ!」
ロッソとパナメラが船橋の屋上部分でキャッキャッと喜んでいる。童心に帰ったのか、二人とも心から楽しんでいるようだ。
「速いですね! クルーズ船みたいですよ! ヒャッホー!」
もちろん、製作者である僕は誰よりも楽しんだ。いくら世紀の天才少年ヴァン君といえど十歳の美少年である。こんな面白いオモチャをゲットしたら楽しまなければ損である。
ちなみに船の速度は本当に想像以上だった。帆船と聞いて自転車くらいの速度を想像していたが、これは時速四十キロは出ていそうだ。もしかしたら時速五十キロオーバーで航行可能かもしれない。それに、船が想像以上に揺れなかった。
「うわぁ、風が気持ち良いです!」
「船ってすごい……!」
ティルとアルテも屋上に設置した手すりに両手で掴まって歓声を上げている。カムシンも黙っているが目を輝かせて景色を眺めているので楽しんでいると分かる。
「ヴァン子爵! そろそろトリブートまで戻ります! 少し離れ過ぎました!」
「あ、はーい! お願いしまーす!」
自ら舵をとって船を操縦するトランに返事をすると、船が大きく弧を描いてトリブートの町へと向かっていく。
「……安定性を求めて横翼を付けたので小回りは少し利き難いですが、直進する航行速度はフリートウードと同等以上です。大型船の造船技術が成熟していない国を相手にするなら圧倒的に有利になるでしょう」
部下に舵輪を預けてきたのか、トランが僕の方へ来てそんな感想をくれた。確かに、これは驚異的なまでの技術だ。考えていた物資の運搬についても革新的だが、戦力としてもとんでもない。ヴァン君のバリスタがあれば、時速四十キロ以上で移動する要塞状態だ。
ここまで出来上がれば、後は大型水棲魔獣対策の例の外装についてだけだ。今の状態でもこれだけ速度が出せるなら、もしかしたら大型の水棲魔獣から逃げきれるかもしれない。だが、十分な危機回避とは言えないだろう。
トリブートに戻って桟橋に係船する途中、船員に指示を出すトランにその旨を伝える。
「トランさん。あの金属の壁面について教えてくれませんか?」
そう告げると、トランは難しい顔で黙り込んでしまった。やはり、これに関してばかりは言えないのだろうか。
物凄く残念だが、仕方がない。眉を八の字にして泣きそうな顔を作り、トランに謝る。
「……すみません。教えてもらえませんよね。余計なことを聞いてしまいました……」
「あ、いや……」
トランの罪悪感を刺激しまくって自白させようとしてみたが、それも無理そうだった。このヴァン君の泣き落としが効かないとは、恐ろしい男である。
「今日はありがとうございました。出来たら今日も夕食をご一緒できたらと思いますが」
「あ、は、はい。それは、勿論です」
何かについて悩んでいるような素振りを見せながら答えるトラン。もしかしたら泣き落としが効いたのかもしれない。やはり、いたいけな天才美少年であるヴァン君の悲しみに暮れた顔は罪悪感をジャンジャン刺激したのだろう。
冗談はさておき、もしかしたら上手く知識を伝授してもらえるかもしれない。そう思いながらトリブートの町へと戻った。今回はロッソから是非ともと言われ、皆でロッソの館にて晩餐会となった。町でわいわい食事をするのも楽しいが、貴族の館で最高のサービスを受けての食事も良い。ロッソ自慢の料理人が最高の料理を振る舞ってくれるから美味しい料理も楽しみである。
ただ、館の食堂では大人数の食事は出来ない為、晩餐会に参加するのはロッソやトラン、パナメラ、タルガ、僕とアルテの六人である。僕の従者としてティルとカムシンも食堂に残っているが、ディーやエスパーダを含め、その他のメンバーは町の飲食店での食事となった。
晩餐会は厳かながら和やかな空気で進み、皆で美味しい食事を堪能する。なにこの表面パリパリの柔らかい魚。めっちゃ美味しい。
そんなことを思っていると、トランが神妙な顔で口を開いた。
「……ロッソ侯爵。少々良いですか」
「ふむ、何かな?」
ロッソが聞き返すと、トランは皆の注目を受けながら静かに答える。
「……ヴァン子爵より頼まれたのだが、船の外装についてお話をしておこうかと」
「おお、あの見事な金属の壁面ですか。あれはまだヴァン卿も作成していなかったか」
ロッソがトランの言葉に頷いてそう告げる。まぁ、普通に形だけ真似して作っても意味無さそうだったからね。仕方がないよね。
そう思って聞いていると、トランはこちらを申し訳なさそうに見た後、ロッソに向き直った。
「……我が国の法により、あの外装について語ることは出来ないのです。本来なら造船技術についても他国に流出することは避けなければなりませんが、ヴァン子爵の魔術を知る為に最低限の知識を伝えたと言い逃れることが出来ると判断しました。しかし、外装については違います」
「むむ……それは、とても残念なことだね」
ロッソが溜め息交じりにそう告げると、トランは真剣な表情で顔を上げた。
「……正直な話をすると、私はロッソ侯爵をはじめ皆さんのことを信用して良いと思っています。同盟を結ぶことも前向きです。なので、この話をフィエスタ王国に持ち帰り、国王や評議会へ提案したいと考えています」
前々から書きたかった新作を掲載しました!(*'ω'*)
タイトルは『僕の職業適性には人権が無かったらしい』です!(*'▽')
是非読んでみてください!




