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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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海の町、トリブート

 通常、スクーデリア王国からイェリネッタ王国へ向かう場合は、必ずこのトリブートを通る。商人達の中ではそれは当たり前のことらしい。


 まぁ、ウルフスブルク山脈の影響が大きいのは間違いないが、山越えの通れる箇所全てに両国の重要拠点があるというのも理由の一つだ。今はその重要拠点全てがスクーデリア王国の管轄となった為、今後は多くの行商人が行き来するようになることだろう。


 つまり、セアト村はもちろん城塞都市ムルシアと城塞都市カイエンはこれからとんでもなく忙しくなることだろう。防衛拠点としてだけでなく、二つの大国の重要な交易都市としても栄えることになる。


 逆に、今後はこの海岸線にある複数の町は徐々に衰退する恐れがあった。主な交易ルートが変わったのだから仕方がないが、その地を統治する領主からすると簡単に割り切れるものではない。産業がしっかりと発達していれば良いが、往来する者を頼りにした商売の仕方をしていれば経済的に困窮するのは目に見えていた。下手をすれば領地の破産である。


 その心配はエスパーダからもされていた。


「杞憂で済めば良いのですが……」


 そう切り出して、エスパーダは領主について語る。


「トリブートを含む海岸線を領有するのはポルト・フィーノ・ロッソ侯爵です。王都周辺に領地を持つ中央貴族の間でも、ロッソ侯爵は大侯や辺境侯とも呼ばれており、これまで対イェリネッタ王国において絶対の防衛線を築いてこられました。現在の領地を預かって、およそ二百年。その防衛を抜かれたことはありません」


 その言葉を引き継ぐように、パナメラが肩を竦めて皮肉げに笑った。


「まぁ、はっきり言ってしまえば、今回の戦いでイェリネッタ王国が攻撃する場所をスクデットに決めたのも、奇襲という面もありつつロッソ侯爵の領地を回避したかったという本音が見えるな。爵位を上げたばかりのフェルティオ侯爵とは違う、生粋の上級貴族だ。王家、公爵家を除く最上位の貴族でもある」


 歴史ある大貴族。それをパナメラが軽く解説する。それを聞き、エスパーダが深く頷いて言葉を続けた。


「その通りです。それだけの貴族を怒らせてはなりません。出来ることなら、協力関係を築けるように動きたいところですな」


 と、自身の考えを述べる。


「うわぁ、面倒くさい」


 二人の説明を聞いて、心からそんな言葉が口を突いて出た。


「今回は陛下の指示でもなんでもなく立ち入るからね……挨拶に行くのは仕方がないけど、そんな他の貴族の領地の経済状況まで考えられないよ」


 そう呟いてから、ふと良いことを思いついた。


「あ、それなら、バリスタとか提供してみる?」


「む」


 防衛拠点なら最新兵器の提供は喜ばれるのではないか。そう思っての発言だったが、パナメラが曖昧な笑みを浮かべた。


「……さて、どうだろうな」


 パナメラらしからぬハッキリとしない物言い。それに聞き返そうとした時、ディーが馬車の外から声を掛けてきた。


「ヴァン様! 城へ到着いたしますぞ!」


「あ、はーい!」


 返事をして、エスパーダやパナメラとの会話は中断となってしまう。聞きそびれたなと思いつつ、ロッソ侯爵とのお目通りに向けて準備をした。


「ヴァン様、後で街を散策してみましょうね!」


「海に入ってみたいですね」


「あ、そうですね! 私もです!」


 ティル、カムシン、アルテは楽しそうにそんな会話をしている。三人の会話を羨ましく思いながら、パナメラと共に馬車から降りる。


 目の前に聳え立つ巨大な石造りの城を見上げて、溜め息を吐く。本当なら歴史の感じられる大きな城を見学してみたいところだが、そんな気持ちにもならない。エスパーダは先に降りて門番と話をしてくれている。


「ヴァン様。ロッソ侯爵様が謁見をしてくださるとのことです」


「え、もう?」


 門番と話をしただけで、どうして謁見が可能となるのか。これがエスパーダマジックか。


 そんなことを思いながら驚いていると、パナメラがフッと息を漏らすように笑った。


「前日にエスパーダ殿が伝令を出していたぞ。恐らく、今朝には話が付いていたはずだ」


「おお、流石はエスパーダ。ありがとう」


 パナメラの言葉を聞き、エスパーダに感謝の言葉を告げる。それにエスパーダは無言で一礼を返していた。ナイスミドルだ。お手本にしよう。


「……エスパーダ殿は確かに卓越した手際だが、少年もそういったことを学んでおいた方が良いぞ。スマートな男はモテるからな」


 パナメラにそう言われて、首を傾げる。


「え? でも、僕はアルテと結婚するかもしれないですし」


 反射的にそう答えると、パナメラは物凄く嬉しそうな顔になった。


「おお? なんだ、そんなにアルテ嬢のことが好きだったのか? いやいや、相思相愛じゃないか。これはおもしろ……いや、喜ばしいことだ」


 面白い玩具を見つけたような顔をして揶揄ってくるパナメラ。振り向くと、アルテが顔を真っ赤にして俯いている姿があった。


「よ、よし。ロッソ侯爵が会ってくれるみたいだし、そろそろ行きましょう!」


 状況が悪化する前に、僕は戦地からの撤退を選択したのだった。

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