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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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ムルシアの悲運

 住民の増加に悩むムルシア兄さん。そんな兄さんの為に何かできればと、俊秀でインテリジェンスの塊でありながら純真無垢な兄弟想いの美少年、ヴァン君は頑張っていた。


 そう。急激な人口増加を見据えて住居や設備を新たに設置する必要がある。通常であれば既に出来上がっている城塞都市の地上だけでなく地下まで改築するのだから、ものすごい年月と労力、予算が必要だろう。


 しかし、大賢者や麒麟児と呼ばれたい天才少年ヴァン君ならばそれが可能である。まさに、早い・安い・上手いだけでなく凄いまで加わった四点セットのヴァン建設株式会社。


 そんなことを考えて鼻歌を歌いながら、僕は三日で排水設備や大浴場などの一部公共設備、五棟の集合住宅を完成させた。これにはムルシアも大喜びである。エミーラ達もようやくエスパーダに教わった街の運営に集中できると喜んでいる。


 よしよし、それじゃあ残りの日数ですぐにでも人が受け入れられるように仕上げようかな。


 そう思っていたのだが、翌日の朝になって予想外の来客があり、事態は変わった。


「ヴァン様! お客様です!」


 ティルがバタバタと走ってきて僕を呼ぶ。


「城塞都市ムルシアに僕のお客さま? 誰だろう?」


「商業ギルドの方です!」


「アポロさん? あれ? この前会って、今度は王都に行くって言ってたような……」


 そんなことを言いつつ、ティルに着替えさせてもらって急いで城門の方へ向かう。そちらには既にパナメラもムルシアの姿もあった。


「おお、遅かったな」


「ヴァン、起きたのか」


 パナメラとムルシアはそれぞれ違った雰囲気でそう口にした。パナメラは何か面白いことでも期待しているような顔で、ムルシアは若干不安そうな表情である。


「おはようございます。商業ギルドの人が来たって聞いたんですけど……」


 そう言って二人の傍に行くと、パナメラが城門のすぐ前に視線を向けて頷いた。


「用事を聞きたかったが、少年をご指名だったのでな。仕方なくここで待っていたのだ」


 パナメラのその言葉に苦笑しながら、視線の先に目を向ける。そこにはローブを羽織った女の姿があった。後ろには冒険者らしき男たちの姿がある。女は二十代中ほどだろうか。淡い水色の髪の少し背の高い女性だ。どこかアスリートのような雰囲気である。


「ヴァン・ネイ・フェルティオ卿でしょうか」


 女にそう尋ねられて、頷いて応えた。


「はい。ヴァン・ネイ・フェルティオです。商業ギルドの方と聞いてアポロさんかと思っていたのですが……」


 聞き返すと、女は眉を八の字にして顎を引いた。


「あ、申し訳ありません。アポロは事情がありすぐには来れそうもなく……代理として私、アローが参りました。アポロと同じく商業ギルドのグラント大陸中部担当者です。よろしくお願いいたします」


「あ、これはご丁寧に……って、アポロさんってこの大陸の中部担当なんですか。物凄い範囲広くないですか?」


「そうですね。一応中部担当者は十名おりますので何とか……むしろ、南部と西部担当者の方が大変ですから……」


 商業ギルドの驚異のエリア範囲を聞き、実はブラック企業なのではないかと疑いを持つ。対してそれが普通になっているアローは苦笑交じりにそんなフォローをしていた。これは、商業ギルドの責任者と話をしなくてはならないかもしれない。


 そんなことを思っていると、アローはハッとした顔になって口を開いた。


「あ、そうです! アポロから手紙を預かっております! 内容については詳しく聞けておりませんが、火急の用事とのことでした!」


 そう言って、アローは封蝋付きの書状を取り出し、こちらに差し出してきた。おお、これがアポロの印か。そんなことを思いながら赤い封蝋を壊して書状を開く。


「えっと……」


 書状の文章を読んでいると、パナメラがうずうずした様子で口を開いた。


「なんだ? 何が書いてある?」


 本当、子供のような人である。パナメラの様子に苦笑しながら、手早く書状の内容を確認した。そして、その内容に驚愕する。


「……パナメラさん。海を渡る船ってスクーデリア王国にありますか?」


 そう尋ねると、パナメラは眉根を寄せて唸った。


「なに? 海を渡る、だと? 川や湖なら分かるが……いや、南側に小さな島へ渡る為の船があると聞いたことが……」


 と、パナメラは斜め上を見上げて自らの記憶の引き出しから船について持ち出した。それに頷いて、書状の文面を見る。


「そうですね。小さな島へ渡る為の船も、距離で言えば僅か一キロも無いほど……何故なら、深い海には巨大な魔獣がいますから」


 運が良ければ魔獣に遭遇せずに海を渡ることも出来るだろうが、一か八かである。毎回そんな危険を冒して船を出すメリットは薄い。


 パナメラとの会話を聞いていたムルシアが、難しい顔で口を開く。


「……ヴァン。もしかして、海を渡る船が現れたのかい?」


 ムルシアがそう口にすると、パナメラも目を瞬かせてこちらに顔を向けた。二人の視線を受けて、強く頷く。


「中央大陸の南部地方から、スクーデリア王国の沿岸部に船が到着したみたいです」


 答えながら、僕は笑みを隠すことが出来なかった。


 ごめん、ムルシア兄さん。もう今すぐにでも船を見に行きたいんだ。

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