任務を完了してムルシアの状況を見に行く
イェリネッタ王国の王都へ赴き、予定通りスクーデリア王国に内緒で隠し持っていた財宝を発見、目録の作成を完了した。後は陛下に報告をすればご褒美が貰えるという算段だ。やったね。
コスワースやエアハルトに目録の内容について確認してもらい、特に抵抗もなく署名をしてもらえた。難しい顔をするイェリネッタ王国の王家の面々に笑顔で別れを告げ、パナメラと共に王都を後にする。
「少年。中々皮肉が利いていて良かったぞ」
「え、皮肉?」
「あのイェリネッタ王達の顔を見ただろう? これで格付けは済んだ。伯爵である私どころか、子爵である少年にも何も言えなかったのだからな。最早、精神的にも完全に我が国の属国となったことだろう」
「そうなんですか。なんか、悪いことしちゃったみたいですね」
「……少年。多方面に驚くべき知識を持っておきながら、そういった貴族としての対応は勉強していないのか? 優しいだけの貴族など、すぐに身を滅ぼすぞ? エスパーダ殿には私から伝えておこう」
「……それだけは勘弁してください」
そんな会話をしながら、僕たちは来た道を戻っていった。帰路の途中城塞都市ムルシアに辿り着き、明らかに人口が増えていることに気が付く。
「おお、住民がついに……!」
そう言って街の中を見て回っていると、城主であるムルシア本人に見つかった。
「おお、ヴァン!」
名を呼ばれて、思わず立ち止まって片手を挙げる。
「ムルシア兄さん! お元気ですか?」
「元気じゃないよ、もう!」
珍しくムルシアの口から弱音が吐かれた。それには流石に罪悪感に苛まれてしまう。
「あ、ははは……住民が増えてきたし、これから街の運営が本格的に始まりますね」
「笑えない……笑えないよ、ヴァン……」
ムルシアはそう言って首を左右に振る。おお、弱っているぞ。可哀そうな兄上。しかし、イケメンの優男ということもあり、ムルシアは憂いている顔がとても似合う。貴族の子女たちも放っておかないことだろう。
と、そんなアホなことを考えている時ではなかった。
今、城塞都市ムルシアにはセアト村から送り込んだ移民や冒険者たちだけでなく、イェリネッタ王国領土内からの移民も多く集まっている。本来なら城塞都市カイエンに集まりそうなものだが、何かしらの理由で城塞都市ムルシアを選んだ者も多いのかもしれない。
そんなこんなで、城塞都市ムルシアの人口は一気に七百人ほどに増えた。敷地面積から考えたら過疎にもほどがある。百人にも満たない状態からだと考えたら恐ろしいまでの人口増加である。
本来なら城塞都市維持の為にも人口が増えることは良いことである。しかし、それは受け入れる基盤が出来上がっている場合に限る。この城塞都市ムルシアにあるのは防衛の為の設備ばかりで、つい先日ようやくベルランゴ商会によって店が出来たくらいなのだ。今はまだ数人送り込んだ大工を皆で手伝って店や家を建てている最中のようである。
ここで大変なのが移民の名前や性別、年齢の把握、台帳作りである。また、立場も出身も違う移民達同士の場合、揉め事も絶えない。それらの解決も大変な労力だろう。
ムルシアに連れられるまま、本丸へと移動した。ちなみにパナメラも面白そうなものを見つけたという顔で付いてきたが、ムルシアはそれに構う余裕もなさそうだった。
本丸の中にある居城内の執務室に行くと、そこには必死な顔で作業を行う三名の姿があった。エスパーダが育てた三名の管理者候補たちだ。一人は城塞都市ムルシアを設立してすぐからムルシアの補佐として送り込んでいたエミーラである。
三人はこちらに気が付き、揃って顔を上げて目を見開いた。特にエミーラに関してはムルシアと同じく泣きそうな顔である。
「ヴァン様!」
「お、お待ちしておりました!」
「しょ、少々お時間をいただきたく……!」
三人は書類をその場に置き、こちらに向かって走ってきた。
「う、うん、皆久しぶりだね。それじゃあ、ちょっと話を聞こうかな」
苦笑しつつ返事をして椅子に座ると、三人はムルシアに目を向ける。それに頷き返し、ムルシアが代表して僕の前に座って口を開いた。
「まず、移民の確認だけど、全員の名前や年齢、種族、性別、職業、魔術適性、世帯の確認が終わったところで、台帳も作成完了。住居は一先ず騎士団用だけど兵士宿舎に全員宿泊中。あとは、僕の騎士団も全員がバリスタの操作に習熟してきたから、今は三部隊に分けて見回りと訓練を交代制で実施している。それと、食料や消耗品、日用品に関してはベルランゴ商会とメアリ商会が協力してくれているので、何とかなっている状態、かな」
「おお、バッチリですよ。流石はムルシア兄さん!」
現在の城塞都市ムルシアの状況を聞いて手放しで称賛する。しかし、ムルシアの表情は曇ったままだった。
「……困ったことに、移民の多くがセアト村にいたことがある住民だったんだよ。本来なら普通だけど、この町はセアト村みたいに下水が整っていないし、それぞれのちゃんとした住居もないから不満が溜まっているんだ。それに、大工の数も少ないから中々建物が建たない……中には大浴場に入りたいって言って泣く女性もいるんだよ」
ムルシアは困ったようにそう言った。
ホームシックか何かか。それともただの我が儘か。
ムルシアの話を聞いてそうは思ったが、無視できないことも理解していた。確かに、セアト村に比べるとこの城塞都市ムルシアは設備が大いに劣っている。というか、セアト村が他の町や村に比べて恵まれ過ぎているという見方もあるが。
とりあえず、このままではせっかく城塞都市ムルシアに住もうとしてくれた者たちもセアト村に戻ってしまう。それは非常にまずい。城塞都市ムルシアは城塞都市カイエンと同じく、今後はイェリネッタ王国との中継地点となる拠点である。この二つの町が発展していないと言うのは問題だろう。
まぁ、セアト村に関してはダンジョンがあるおかげで勝手に人は来るのであまり気にしていないが。
そんなことを考えつつ、ムルシアとエミーラ達を順番に見て、深く頷いた。
「……分かりました。それでは、大工の皆にはこれまで通り住居を建ててもらいましょう。僕はインフラと住民が入れる浴場施設をまとめて作ります」
そう告げると、ムルシア達はホッとした表情で首肯する。対して、それまで静かにしていたパナメラが半眼で口を開いた。
「……予定より早く目的が済んでいるから良いが、その工事はどれだけ時間がかかる?」
「い、一か月あれば……」
「三週間だ。それが限界だ」
「……御意」
こうしてパナメラからも許可をもらい、急遽城塞都市ムルシアの改造計画がスタートしたのだった。




