【別視点】 領主パナメラの到着(ヴァンが出発する少し前)
前回間違えて更新してしまった話がありますので、
土日の連続更新で誤魔化させていただきます・・・(ノД`)・゜・。
混乱させてしまい、大変申し訳ありません・・・( ;∀;)
【パナメラ】
「おお! あれが城塞都市カイエンか!」
馬の上に乗ったままそう言うと、パナメラ騎士団の騎士団長であるマカンが口を開いた。
「見事な城壁……パナメラ様に相応しい荘厳な城塞都市です」
「はっはっは! うむ、良い街だ! なにしろ、私の街だからな!」
そう答えると、マカンはまるで父親のような顔で笑った。我が騎士団で唯一四十代の騎士であり、背もさほど高くはないが、それでも騎士団で屈指の実力者だ。騎士団長に登用した理由としては水の魔術適性を持つのもその一つだが、なによりも歴戦を潜り抜けてきた指揮官としての経験が一番大きいだろう。
城門に近づくと、門番らしき衛兵達がこちらに向かって歩いてきた。人数は十名程度。交戦するつもりではないのは間違いない。
「失礼! 貴女方は……?」
髭を生やした衛兵の男が大きな声でそう口にする。
「私はパナメラ・カレラ・カイエン伯爵である! すでに達しはあっただろうが、スクーデリア王国国王陛下の命により、この城塞都市はこれよりパナメラ・カレラ・カイエン伯爵領となる! 中へ通してもらおう!」
馬に乗ったままだが、胸を張って大声でそう宣言した。それに、衛兵たちは僅かに表情を歪めつつも一礼する。
「……はっ! 開門いたします!」
男が号令を発し、城門は音を立てて開かれた。かなりの年数が経っているのだろう。城壁の上部は欠けているし、門は軋みながら開閉している。
「ふむ。まずは城門や城壁の補修をしてもらいたいな。いや、まだ中を確認しておらん。先に私の居城となる城を見ておくべきか」
そんなことを呟きながら門を潜ると、歴史ある煉瓦造りの街並みが目の前に広がった。通りは幅が広く通行しやすそうである。また、古い町並みながらも清掃や手入れが行き届いている雰囲気だ。
「……パナメラ様。少々警戒されておるようです」
マカンにそう言われて鼻を鳴らす。
「それはそうだろう。少し前まで戦っていた敵国の貴族だ。どのような扱いを受けるのか不安なのだろうさ」
陛下は属国となったイェリネッタ王国に生かさず殺さずに近い重税をかけた。とはいえ、温情もある。一般市民の財産は奪わず、生活も変わらないようにしてある。これにより、不要な恨みは買わないようにしているのだ。
しかし、色々と金稼ぎの手段を持つ領地持ちの貴族は、管理者が来るまでに稼げるだけ稼ごうとする者もいるだろう。陛下が課した重税以上に税を掛け、懐に入れるなんて貴族もいる。そのせいでイェリネッタ王国の各地で混乱が生じているらしい。
まぁ、愚行としか言えない下らない行動だが、それに付き合わせられる一般市民はたまったものではない。
人が極端に少ない通りを進んでいき、この地をどう治めるか考える。
「パナメラ様、こちらが居城となります」
案内をしてくれた衛兵がそう言って街の奥に建つ城の前で立ち止まった。
「ほう? 城も気になるが、それよりも先に城の前に並ぶ騎士達も気になるな?」
そう言って、城の門を前に整列した騎士達を眺める。帯剣をした騎士達が数百名。出迎えというには少々殺気立った様子で並んでいた。これにはマカンも剣の柄に手を置いて警戒心をみせる。
それを片手で制して、中心に立つ男を見やった。精悍な顔の男だ。年齢は三十代半ばだろうか。男は真っすぐに私の目を見返し、口を開いた。
「……お久しぶりです。パナメラ閣下」
「む? 私を知っているか」
予想外の言葉に聞き返すと、男は首を左右に振る。
「先のヴェルナー奪還作戦……いえ、ヴェルナー要塞を巡る戦いに、私も参戦しておりました。その際に、ベンチュリー伯爵と双璧を為すパナメラ子爵の名は本営を守っていた我々の耳にも入っております。その若さで底知れぬ武と魔術の才をお持ちとのこと……」
「なんだ、あの戦いに出ていたのか。それで、スクーデリアの英雄が来ると知り、皆で出迎えにきてくれたのか?」
男の言葉を聞き、両手を広げてそう尋ねた。それに男は一瞬沈黙したが、すぐに首を左右に振る。
「いえ、違います……我々の剣はこの城塞都市グローサーを守る為にあります。たとえ、スクーデリア王国の一部となろうと、我々はこの街と共にあるのです。我らが閣下をお待ちしていた理由は、閣下がどのようにこの街を管理しようとされているか確認をする為です」
覚悟を決めた表情で、男はそう言った。これには思わず笑みが浮かんでしまう。良い騎士だ。身も心も騎士という者には中々出会えないが、この私を前にしてそれを貫けるのは素晴らしい。
だが、男の覚悟を嘲笑うようで申し訳ないが、さっそく癇に障ることを言わなくてはならない。残念に思いながら、腕を組んで答える。
「まずは、この街の名を城塞都市カイエンに変える」
「……今、なんと?」
眉間に皺を寄せて男が低い声を出す。それに笑みを深めつつ、片方の眉を上げた。
「言った通りだ。今後、この街及びその先十キロはスクーデリア王国の領土であり、我が領土となる。国が代わり、管理者も代わったのだ。名前くらいは変わるのが当たり前だ。そして、法律もスクーデリア王国の法律へと変わる」
「それは、どのように変わるのでしょうか」
「その話をこれからしに行くのだ。まさか、貴様がこの街の管理者というわけではあるまい。現在の管理者を呼べ」
「……承知いたしました」
はっきりと告げると、男は不服そうな顔をしつつも了承した。その顔を見る限り、イェリネッタ王国の他の街と最低限の交流はあるのだろう。やはり、他の町がどれだけの重税を課せられているか知っているのだ。
「どうぞ、こちらへ」
「うむ」
考えても仕方が無い。まずは、我が騎士団の精鋭を連れて乗り込むとしようか。
マカンを含めて十名を引き連れて城の中へと入った。三階建てほどだろうか。そこそこの大きさの城だ。入口のホールは二十人程度並べばいっぱいになるほどだが、調度品は気に入った。階段は正面に一つだけで、一階と二階はそこで分かれているようだ。まずは二階にあがり、正面の通路を奥へと進む。奥には折り返して三階へ上がる階段があった。三階に着くと、そこには大きな扉が目の前に現れる。黒く無骨な扉だ。
「こちらが代官の応接室となります」
「うむ、開けろ」
案内人の衛兵にそう告げると、二人の衛兵が外から扉をノックして開放する。
「……失礼します。スクーデリア王国より領主としてパナメラ伯爵がお見えです」
衛兵の朴訥とした紹介に不満を持ちつつも、開放された扉の前に立つ。
扉の向こうは広間になっていた。奥には大きな窓があり、陽光が差し込んできている。窓の前に誰かが立ってこちらを見ているが、窓の開口部が広いせいで逆光となって影のようになって顔が確認できない。
「私はパナメラ・カレラ・カイエン伯爵だ。貴様の名と身分を名乗れ」
そう告げると、窓の前に立つ者はこちらまで歩いてきて、従者の一礼をとった。胸に手を当てて、軽く頭を下げている。敵意は無いということを態度で示しているということでもある。
銀髪に近いアッシュグレイの髪色の男だ。年齢は三十歳前後だろうか。私よりも少々年上に見える。細身だが背は高く、目には銀縁の眼鏡を掛けていた。眼鏡はまだスクーデリア王国でも高価な代物で、かけている者も少ない。特に、貴族でもない者がかけているのは違和感を覚える。濃い灰色の髪の男は倒していた上体を起こし、こちらを見上げてきた。
「……私の名はゼトロスと申します。この地を治めておられたエコニック・アト・シタン公爵のご子息、アクトロ様の下で執事長をしておりました」




