城塞都市カイエンに向けて出発
更新の順番を間違えてしまいました……!!
大変申し訳ありませんが、1話分の記憶を消していただけると幸いです(ノД`)・゜・。
あっという間に一ヶ月が過ぎて、ついに城塞都市グローサーに行くことになった。いや、城塞都市カイエンだったか。
ちなみに新領主のパナメラは二週間しか我慢出来ず、先に城塞都市カイエンを目指して旅立ってしまった。よほど報奨金を貰えたのだろうか。冒険者を五十名も雇って向かったので、迅速かつ余裕で到着していることだろう。距離を考えると二週間から三週間ほどか。
そろそろパナメラは自領に着いて、色々と管理について話をしていたり、もしくは反抗的な勢力を弾圧したりしているに違いない。
「さて、そろそろ出発しようかな。街づくりは良いけど、また往復で一ヶ月以上の馬車生活がねぇ……」
本気で自動車を開発しなくてはならないのだろうか。そんなことを思いながら呟く。その言葉を聞き、随行する騎士団の最終確認をしているディーが振り向いた。
「ヴァン様! 一ヶ月や二ヶ月など大したことではありませんぞ! 今後は遠征や夜営を楽しめるように特別訓練を実施しましょう! ちょうど一ヶ月もその期間がありますからな!」
そう言って、ディーは楽しそうに笑った。背後にはなんとも言えない顔をしているアーブとロウがいる。どう考えても楽しい訓練ではなさそうである。
「……と、とりあえず、準備はもう出来たかな?」
そう尋ねると、ディーは騎士団の様子を確認した。
「そうですな。精鋭五十人と新人五十人。機械弓部隊二十人。冒険者は十名ですが、オルト殿を含め確かな実力を持つ冒険者達です。問題ないでしょうな。物資に関してはパナメラ殿の移動時と同じく、ベルランゴ商会とメアリ商会の合同隊商が随行しますが、そちらも準備は出来ておりますぞ」
ディーがそう言うと、久しぶりに村の外へ出るベルが馬車の御者席から片手を振った。
「ヴァン様! 早く城塞都市カイエンに向かいましょう! 新しい販路、楽しみですね!」
嬉しそうにそう言って笑うベルだが、ただでさえ人手が足りていないベルランゴ商会が更に忙しくなると理解しているのだろうか。いや、あまり考えていないに違いない。その証拠に、隣の馬車に乗るロザリーが物凄い顔でベルの浮かれた顔を睨んでいる。
「……ベル。もちろん、定期的に隊商を行き来させるだけの人材と資材の確保は出来ているんでしょうね?」
「え? いや、これから募集をしようかと……あ、でも暫くは私が向かいますので」
「今でもメアリ商会から何人も応援を貸し出しているのに、新しい販路……? へぇ、そんな商売の仕方を教えたかしら?」
ロザリーが笑顔でそう尋ねると、ベルはびしりと背筋を伸ばして冷や汗を拭った。
「と、とんでもないです! 今でも各商店で店長をしている者の下に副店長をしている者がおります! 毎月新たな人材を雇用しているので、もう少しで人手も足りてくるかと……」
「商店で一年を過ごしただけの者と、行商を経験した者では知識も能力も全く異なる……一人前の商人を育成しようと思ったら商店で三年。行商三年。店長として二年……そう教えたはずだけど?」
「……申し訳ありません」
厳しい口調ではなかったが、ロザリーが少し低めの声で指摘していくだけでベルの頭がどんどん沈んでいく。しかし、ロザリーはやがてフッと息を漏らすように笑った。
「……まぁ、仕方ないわね。ディアーヌ商会長からは出来る限りの援助をお願いされていたし、今回は助言をしてあげるわ。城塞都市カイエンみたいな特殊な状況の街は、仕事を失った人で溢れているわ。それに、イェリネッタ王国との繋がりが切れてしまった小さな商会なんてのもあるものよ」
ロザリーがそう口にすると、ベルはパッと晴れやかな笑顔になって答える。
「なるほど! 城塞都市カイエンの商会を吸収してベルランゴ商会の一部にしてしまえば……! 城塞都市カイエン内の商売も楽に出来る上に、城塞都市ムルシアと販路を繋ぐこともできる! おお、なんという妙案……!」
ベルは感動して喜びの声をあげるが、ロザリーは困ったように笑っていた。どうやら、ロザリーから見たらベルもまだまだのようだ。
「わっはっは! 今や飛ぶ鳥も落とす勢いのベルランゴ商会の商会長もロザリー殿には頭が上がらぬか!」
ディーが声を出して笑うと、ベルは肩身狭そうに身を縮こまらせた。代わりに、僕がロザリーへ感謝の言葉を口にする。
「ありがとう、ロザリーさん。メアリ商会も城塞都市カイエンで商売しやすいようにパナメラさんにお願いするから、代わりにベルランゴ商会の商店作りをお手伝いしてもらえないかな?」
「もちろん、ヴァン様のお願いですから全力でお手伝いしましょう。少々厳しく、ですが」
「ひぇ」
ロザリーの回答にベルが首を竦めて悲鳴を漏らす。とはいえ、ロザリーの教育は弟子に対する愛ある指導だと思われる為、それを止めることもしない。むしろ、良い関係だと微笑ましい限りだ。HAHAHA。
「それじゃ、出発するかい?」
自分と似たような境遇になったベルを見て笑っていると、隣の馬車の窓からムルシアが顔を出してそう言った。ムルシアも途中まで同行し、城塞都市ムルシアに戻る予定だ。ちなみに、ムルシアの部下となるエスパーダの弟子たちも馬車に乗っている。
「……そうですね。それじゃあ、そろそろ行きましょうか。よーし! 皆、出発するよー! 急がないとパナメラさんに怒られるから、少し急ぎで向かいまーす!」
出発の号令を掛ける。すると、地面に座ってダラダラしていたオルト達も立ち上がった。ダンジョン攻略の途中だが、快く依頼を引き受けてくれた。
「お、行きますか?」
オルトがそう呟くと、パーティーメンバーであるプルリエル、クサラ達も馬車の中から顔を出した。
「ヴァン様、出発ですか?」
「そろそろ、あっしの出番ですかい」
わちゃわちゃと声が聞こえてくる。賑やかな皆の雰囲気に微笑みつつ、頷いた。
「お願いしまーす!」
「へい!」
案内人兼斥候のクサラが御者をするオルトパーティーの馬車が先を進み、ディー達が後に続く。僕と機械弓部隊、ベルランゴ商会やメアリ商会の馬車が順番に並び、最後にムルシア一行の馬車と冒険者パーティーが最後尾となって出発した。
途中での夜営では気合が入ったディーのサバイバル訓練も導入されたが、ティルやカムシンのお陰で乗り越えることができた。何故か一緒にアルテもティルと野営用の調理を学んだりしていたが、まさかアルテも遠征について前向きなのだろうか。あの頃の超インドア派のアルテは見る影もない。
そんなこんなで楽しく夜営を繰り返している内に城塞都市ムルシアに着いた。今回で二回目だが、街道を敷いたお陰で物凄く楽だった。途中に休憩所が幾つもある為、夜営も簡易的になることが多かったという点も無視できない要因である。
「それじゃあ、ヴァン。気を付けてね」
「はーい! 行ってきまーす!」
軽い挨拶を交わして城塞都市ムルシアでムルシアと別れ、今度は城塞都市カイエンを目指す。いや、本当は城塞都市ムルシアで少しゆっくりしてから出たかったのだが、パナメラがそわそわして待っている姿が容易に想像できたのだ。色々と世話になっているし、仕方がないだろう。
城塞都市ムルシアから城塞都市カイエンまではウルフスブルグ山脈の後だと冗談みたいに平和かつ楽な道中である。いや、街道を敷いた後のウルフスブルグ山脈内の行軍は十分過ぎるくらい快適にはなっていたが、それでも道中で多くの魔獣に襲われる。対して、城塞都市カイエンまでの道のりは平坦かつ平和だ。
イェリネッタ王国からスクーデリア王国の領土に変わったばかりということであり、街道には往来する人の姿も殆どないが、魔獣なども一切出ない。早めにパナメラかムルシアに話をして街道を行き来する騎士団の編成をしてもらえば、今後も魔獣は出にくいだろう。
さて、流通の安全確保の後は、やはり移民の管理だろうか。いや、今後はイェリネッタ王国との貿易は城塞都市カイエンがメインとなる。そちらの整備もしっかりしておいた方が良いだろう。
そんなことを考えている内に、気が付けば城塞都市カイエンの姿が見えてきた。
「ヴァン様! 城塞都市カイエンが見えましたぞ!」
「はーい! おお、思ったより大きい!」
呼ばれて馬車の窓から顔を出し、遠くに見える城壁を見てテンションが上がる。元が要塞としての役割しかなかった城塞都市ムルシアよりも倍近く大きそうだ。城壁の高さはそこまででもないが、横一直線に伸びた城壁はかなり幅が広い。
「さぁ、どんな風に改造するのかな?」
城塞都市カイエンの城壁を眺めながら、そう呟いたのだった。




