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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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新体制の発表

 ムルシアに書状を出し、久しぶりにセアト村に戻ってくるように要請した。


 セアト村騎士団とエスパ騎士団から半数を送り込んでいる為、城塞都市ムルシアの防衛には十分な人数である。今ではセアト村から城塞都市ムルシアまでしっかりとした道が出来た上に、行き来を手伝ってくれる冒険者達も山ほどいる。恐らく、二週間程度で戻ってくるだろう。


 しばらく忙しくなる。それは領主の館で山積みになった書類を見て、ひしひしと感じていた。


「さて、まず重要なのは体制の変更についてです。フレイトライナ様を代官にするならば、二ヶ月ほど引継ぎの期間をいただきたく思います。また、私が教育中でした管理者と文官を連れて参りましたので、それぞれに任を与えましょう」


「管理者と文官?」


 大量の書類が積まれた机を恨めしそうに見ていると、エスパーダが気になる言葉を発した。思わず聞き返すと、エスパーダの目が鋭く細められた。


「お忘れですかな?」


「も、元奴隷の人達、だったと……」


 慌てて記憶を辿り答える。それにエスパーダは自らの髭を指で撫でながら頷いた。


「……まぁ、良しとしましょう。ヴァン様のご記憶通り、奴隷の中から五名の才人を選んで教育を行いました。また、後からセアト村へ移民してきた者の中からも優秀な者を二名選び、同様の教育をしております。特に、最初に教育をしていた五人は小さな町なら代官を出来るほどでしょう」


 そう言って、エスパーダはメイドに声を掛けて執務室に人を案内させた。現れたのは二十代から三十代の男女である。教育期間は一年から二年程度の筈だが、その七人は揃って軍人のような雰囲気で背筋を伸ばして立っていた。約一年ぶりだが、最初の五人はしっかり覚えている。


「ジウさんと、ジュリエッタさん……あれ? エミーラさんは今はムルシア兄さんの補佐じゃなかった?」


 どうしてここにいるのか。そう思って尋ねたら、エスパーダから首を左右に振られてしまう。


「エミーラはイェリネッタ王国との戦いに勝利してすぐに帰還いたしました。私の予想では陛下より多くの移民受け入れ要請がくるかと思っておりましたので、ヴァン様に改めて人員の配置を考えていただくつもりでしたが」


「あ、じゃあちょうど良かったね。ムルシア兄さんのところはどうだった? 多分、陛下がおられた間は特に大変だっただろうけど……」


 そう尋ねると、エミーラは遠い目をした。


「はい、とても……騎士団の皆様や、各貴族の従者の方々にも協力していただき、なんとかお役目を果たせました……」


 どうやら、相当な修羅場を潜り抜けたらしい。流石に可哀想になった。


「そ、そうだよね。それじゃあ、今後移民が増えるだろうし、城塞都市ムルシアにはもう少し人を派遣しようかな」


「何卒……! 何卒お願いいたします……!」


 エミーラは血を吐くような声で頭を下げる。それに、他のメンバーも同情の視線を送った。


「後は、皆さん代官の補佐はもう十分できそう?」


 尋ねると、エスパーダが頷く。


「そうですな。最初に教育を始めた五名は問題ありません。後の二名もそれなりに出来るでしょう。一年前にヴァン様が指示された代官十名、騎士団長十名の人材育成ですが、現在はこの七名まで完了としております。騎士団長候補十名に関してはディー殿の時間が足りず、まだまだ教育は出来ておりませんが」


「いや、今の段階では十分だよ。そもそも、当初の考えでは必死に抵抗するイェリネッタを叩くべく、海岸線を制圧しながら進むと思っていたからね。新たな領地も今のところ城塞都市ムルシアだけだからさ」


 そう答えると、エスパーダは短く息を吐く。


「いずれ増えることは間違いないでしょう。人材はいくらいても良いくらいです……さて、そろそろ新たに教育中の二人を紹介しましょう」


 エスパーダがそう告げると、準備していたかのように奥に立つ二人が前に出た。一番手は三十五歳の男。元下級貴族の執事であり、仕えていた家の没落と同時に戦争捕虜として奴隷になってしまったらしい。ハキハキと自身の能力についても答えている。


 そして、最後に若い男が名乗った。


「私はヴェル・サティスと申します。十八歳です。元騎士の家に生まれ、家督を継ぐ前に敗戦により没落。奴隷となりました。最初に有していた技能は騎士としての剣術のみでしたが、エスパーダ様のご教授により、領地の防衛に関しては騎士団の運営、予算の配分、備品管理。内政に関しては各ギルドや商会との折衝や調整、予算の管理。また、住民の管理や各建物、設備の管理についても学ばせていただきました。魔術は火の魔術を少しだけ使うことが出来ます」


 背筋を伸ばして、ヴェルはそう自己紹介をした。全員がたった一、二年で学んだとは思えない量の業務に携わっているが、特にヴェルは若さ故か尋常ではない量の業務を学ばされている。


「二人はそれぞれ最低でも二つの部門で管理者を行うことが出来るように教育をいたしました。ジウ達も含め、一つの街に三人いれば内政については問題ないでしょう。代官に誰を置こうと、彼らが領地を管理できる筈です」


 エスパーダがそう告げると、戦場で剣を握る騎士のような顔で皆が頷いた。


「し、七人の侍か何かかな……?」


「……なんですかな?」


「い、いえ、何でもありません」


 かなり厳しい教育を受けたのだろう。それを想像して戦々恐々としてしまった。一方、エスパーダは冷静に七人の侍たちを見つめる。


「冒険者の町に代官としてフレイトライナ様を置くのならば、最初の三名を部下にした方が良いでしょう。特にジウとジュリエッタは外せません。セアト村に関しては私が戻るのであれば不要です。残りの四名の内三名はムルシア様の部下としてお送りして、一名はどの場所でも働けるようにしておきたいところです」


「え? セアト村はエスパーダ一人で切り盛りするの?」


「騎士団に関してはディー殿がおりますので、問題ありません」


 さらりとエスパーダがそんなことを言う。その言葉に、内政の教育を受けた七人が目を僅かに見開く。それはそうだろう。一人で三人分働くというのは物理的に厳しい。しかし、七人の侍の表情を見る限り、僕とは違うことを考えていそうだった。


「おお、流石はエスパーダ様……!」


「これほど変化が激しいセアト村をお一人で……」


「そんなことが出来るのはエスパーダ様だけですね」


 口々にエスパーダを褒め称える面々。うむ、心身ともに教育が完了しているようだ。恐ろしい。


 そんなことを考えていると、エスパーダがこちらを振り向いて答えた。


「どうですかな?」


「そうだね。それでいこう。後、ヴェルはエスパーダ騎士団の騎士団長補佐に任命しようかな」


「え?」


 僕の言葉に、ヴェルが反応する。他の人達も驚いたような反応を示した。それはエスパーダも同様である。


「ヴェルを騎士団に、ですか」


「うん。エスパーダ騎士団には叩き上げの副騎士団長がいるけど、騎士団長はエスパーダが代行としてやってくれていたでしょ? 実は、エスパーダ騎士団の騎士団長はアーブに任せようと思っていて、まずは副騎士団長二人体制でやってみようかなって」


「……なるほど。つまり、団長を一時的に不在にして、副団長二名と補佐としてヴェルを……」


「城塞都市ムルシアはムルシア兄さんが代官として頑張っているけど、属国になったイェリネッタ王国から移民が流れてきたらすぐに管理できなくなっちゃう。とはいえ、ムルシア騎士団はムルシア兄さんのもとで長く働いてきてくれた騎士達が多いから大丈夫だし、一番ヴェルを活かせるのはエスパーダがいなくなるエスパーダ騎士団でしょ?」


 そう答えると、エスパーダは腕を組んで唸る。


「……思いの外、良い配置となるかもしれません。確かに、それぞれが良い勉強となるでしょう。ヴァン子爵家の領地のことを考えれば、新たな人材の登用と同じく現在様々な任に就いている人物の教育も最重要案件です。少々厳しいかもしれませんが、エスパーダ騎士団はヴァン様の仰る体制で即時運用いたしましょう」


 と、エスパーダは満足そうに頷いた。え? 厳しい?


 いやいや、エスパーダに鍛えられた皆なら大丈夫だよね、多分。


 そう思って七人の侍を見たのだが、全員が切腹前みたいな表情をしていた。




皆様に読んでいただいたおかげで、お気楽領主の楽しい領地防衛6巻!


更にコミカライズ版お気楽領主5巻が発売中!\(゜ロ\)(/ロ゜)/


皆様、本当にありがとうございます!


是非、お近くの書店まで!

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