パナメラの領地と新たな部下
「……ここは、城塞都市ムルシアに近接するイェリネッタ王国の城塞都市ですよね? なんでしたっけ?」
「城塞都市カイエンだ!」
胸を張ってパナメラ・カレラ・カイエン伯爵が街の名前を発表した。しかし、その名前はまだ正式なものではない。
「イェリネッタ王国時代の街の名前はなんでしたっけ?」
「グローサーだったな。今は城塞都市カイエンだが」
パナメラがにやにやしながらそう答えた。楽しそうで何よりだ。というより、自ら自身の名前を街につける人を初めて目撃したが、とてもパナメラらしいと思うので違和感はない。
「そうですか。じゃあ、同盟国であるイェリネッタ王国を監視するのはパナメラさんの役目となるわけですね」
地図を見れば一目瞭然だ。もし、イェリネッタ王国が何かを企めばまずはパナメラの耳に入ることだろう。そして、スクーデリア王国の防衛の要は城塞都市ムルシアと、我がセアト村である。そうなると、イェリネッタ王国の王都へ置く監視者はパナメラになるのが自然だろう。
その予測通り、パナメラは頷いて答えた。
「そうだな。陛下の目は既にイェリネッタ王国の向こう側、中央大陸にまで向いている。イェリネッタ王国の先にはヘセルがある。貿易国として栄えてはいるが、スクーデリア王国やイェリネッタ王国に比べれば落ちる格下の国だ。イェリネッタ王国に打ち勝った以上、ヘセルがソルスティス帝国の援助を受けたところで負けることはないだろう」
と、パナメラは簡単に陛下の考えを予測して語る。なんとなくその予測は正しそうだと感じた。しかし、そうなると困ったことが思い浮かんでしまう。陛下の次の行動だ。
「……いやいや、考えても仕方ないよね。うん。とりあえず、今後の方針を決めようかな。タルガさんは代官としての経験もあるし、いずれは街を一つ治めてもらいたいと思っています。パナメラさんの城塞都市は、一ヶ月後くらいに改修に行きましょうか?」
そう提案するが、パナメラは胸の前で手を叩いて何かを思い出したような顔をした。
「忘れていた。陛下からの言伝だ」
「忘れてたんですか」
無礼極まりない発言に苦笑していると、パナメラは自分たちの後ろに並ぶ馬車の列を指し示した。
「報奨金や貴重な鉱石、そして王都で違法に売られていた奴隷達を少年に、と。後、イェリネッタ王国の捕虜であるフレイトライナの処遇も任せるとのことだ」
「フレイトライナ?」
そう口にして馬車の方を見ると、勢いよく一つの馬車の窓が閉まった。無言で近づき、カムシンに馬車の窓を開けさせる。
「こーんにーちはー!」
大きな声で挨拶をしてみた。
「ぎぃやぁあああっ!?」
期待していた通り、馬車の隅に隠れていたフレイトライナが跳び上がって絶叫している。良い反応だ。彼の卓越したリアクション芸は健在である。
「フレイトライナ王子! お久しぶりー!」
「お、お久しぶりです……」
涙目でフレイトライナが挨拶を返してくれた。もう仲良しである。敵対していた頃の話は水に流れたに違いない。
「フレイトライナ王子は人質としてここへ?」
「や、やっぱり……敗軍の将として世にも恐ろしい責め苦を受けながら鉱山で働くことになるんだ……まだ若いのに、なんて可哀想な僕……」
勝手に悲観的なことを呟いているフレイトライナを見て、どうにも虐めたくなって……いや、揶揄いたくなってしまう。
「カムシン。人質であるフレイトライナを連れてくるんだ」
「はい!」
カムシンは元気よく返事をしてフレイトライナの手を取って馬車から連れ出した。既にフレイトライナはしくしく泣いている。
「しくしく……」
「本当にしくしく泣く人を初めて見たよ」
半ば呆れながらそう言うと、パナメラが鼻を鳴らして笑う。
「情けないな、本当に……移動中も殆ど馬車から顔を出さなかったんだぞ」
パナメラがはっきりとそう言うと、フレイトライナがびくりと肩を震わせた。それを見て、ディーが口を開く。
「ヴァン様。フレイトライナ王子をどうするのですかな?」
ディーは陛下が何故大切な人質を僕に預けたのか気になったのだろう。それにわざとらしく笑みを浮かべて、フレイトライナを横目に見た。
「陛下からのご依頼でね。フレイトライナを拷問してでもイェリネッタの王家が財宝を隠していないか調べないといけないんだ。特に、今はイェリネッタ王国が属国になってすぐだからね。急いで調査しないと、隠されてしまう可能性がある。実は、隠し場所はもう予想がついているんだけど、流石に証拠もないのに調査団を差し向けることは出来ないから、王族の証言が欲しいのさ」
嘘を並べ立てつつ、怯えるフレイトライナに近づく。
「やっぱり、指の爪からかな? それとも、歯が良い? あ、目玉は最後にしてあげるからね?」
悪魔のような笑い方をしつつ近づいていくと、頬を引き攣らせてティルが口を開いた。
「あ、あの、流石にやり過ぎじゃないかな、と……」
ティルがそう呟いた瞬間、フレイトライナが声を裏返らせて自白する。
「しゃ、喋りますぅ! 王都にある大聖堂の地下に、王家の財宝の半分が……!」
まさかの言葉に、場は静まり返った。
「え?」
「何?」
「大聖堂の、地下だと?」
僕とタルガ、パナメラが順番に反応をする。それに、フレイトライナは涙目で首を傾げた。
「え? で、でも、調べはついてるんでしょ? ふ、普通、敗れた国の王家は徹底的に調べられて一族郎党拷問を受けたり処刑されたり……」
「いや、侵略する前に降伏されたからね。占領して自領とした国ならそうかもしれないけど、自治権を認めた属国だから」
「おい、陛下に早馬で書状を送れ。税率の設定が甘かったとお嘆きだったからな。これはお喜びだぞ」
「は、はい!」
パナメラの指示にカムシンが一番に反応して走っていった。セアト村から王都への書状のやり取りは全てメアリ商会に依頼している。恐らく、メアリ商会の支店へ走っていったのだろう。
一方、余計な情報を口走ってしまったフレイトライナは抜け殻になったように茫然としている。
しかし、数秒後にハッと意識を取り戻して落ち着きなく周りを見た。
「こ、これで、本当に用済み? 処刑の流れ? え? 本当に?」
どうやら、王家の立場よりも先に自分の命を惜しんでいるようだ。その様子を見て苦笑し、肩を軽く叩く。地面をエビのようにのたうち回るフレイトライナを見下ろし、安心するように声を掛けた。
「冗談だよ。本当は部下としてフレイトライナ王子に働いてほしかったんだ。セアト村の前に冒険者の町っていう小さな町があったでしょ? あそこの管理者になってほしいんだ。そうすると、セアト村の代官にエスパーダが専念することが出来る」
「……か、管理者? 代官ってこと? え? なにその荒くれ者の町みたいな名前……」
冒険者の町という名称を聞いてフレイトライナはよく分からない怯え方をし始めた。大丈夫だろうか。
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