陛下の帰還
ヤルドとセストは色々と嫌味を言いつつ、村に滞在した。いや、さっさと侯爵領に帰ってもらいたいのだが、どうも陛下が戻るまでは待っているつもりのようだ。
仕方がないので、お客様として最低限のおもてなしはしている。
「ヴァン様! ヤルド様がお湯を沸かす仕組みを教えろと言っています!」
「火の魔術師がずっと水を沸かしてるって嘘教えておいて」
「ヴァン様! セスト様が貴重な鉱石を譲ってほしいと言っています!」
「ベルランゴ商会に卸す値段の五倍で売り付けてみて」
二人からの無理難題を、僕は丁寧に対応してあげた。なんて優しい弟だろうか。あの二人には勿体無いくらいである。
そんな心優しい天才少年ヴァン君に対して、ヤルドとセストは横柄な態度で我が儘を言い続けている。最早セアト村裁判では極刑となるレベルだが、一応今回はヴァン君の兄弟であることから情状酌量の余地ありとしている。
そういった横暴な二人だったが、陛下がセアト村に到着されたと聞いて急に大人しくなった。
「おお、ヴァン男爵! 久方ぶりだな!」
「ようこそ、陛下。こんなに早く決着するとは思いませんでしたね」
凱旋した陛下と和やかに挨拶を交わす。僕の後ろでは部下みたいに直立不動で立つヤルドとセストがいたが、放置である。
「はっはっは! 聞いたぞ、ヴァン男爵! イェリネッタがシェルビアを抱き込んで裏から手を回していたそうだが、パナメラ子爵と共に撃退したそうではないか! あのフェルティオ侯爵が手傷を負うような大軍勢を退けるとは、下手をしたら我らより高い功となるだろう! まったく、憎らしい奴め!」
と、陛下から褒められてしまった。思わず照れ笑いを浮かべていると、陛下から頭をガシガシと力強く撫でられる。
「口惜しくは、イェリネッタ王国が降伏し、条件付きで属国とした直後にその話を聞いたことだ。イェリネッタめ。不利になる材料だからと上手く隠しおって! フェルティオ侯爵領への進軍と派手な撃退劇を知っておったら、もっと厳しい条件にしてやったものを……」
陛下が悔しそうにそんなことを言う。しかし、戦争の結果を考えたら十分過ぎるほどの戦果を得ているはずだ。
そう思い、素直に疑問を投げかける。
「陛下? イェリネッタ王国は属国になり、シェルビア連合国も属国に近いくらいの条件付きで同盟国となりました。十分な結果では?」
尋ねると、陛下は目を二度三度瞬かせた。
「……なに? シェルビア連合国とか? シェルビアが手を引いたとしか言ってなかったぞ、あの狸め……!」
追加情報を得て、陛下は再度ご立腹モードとなる。まぁ、自国が不利になる状況を簡単には伝えないだろうが、属国となることを覚悟したなら、下手な嘘も言わない方が良いだろうとも思う。
では、何故イェリネッタ王は情報を素直に出さなかったのか。
不思議に思い、陛下に尋ねることにした。
「陛下。イェリネッタ王国が属国になる際にどんな条件を出されたのですか?」
そう聞くと、陛下は片方の眉を上げてこちらを見る。
「む? 一先ず、最も重要な条項として我が国からの戦いの協力要請には逆らわないこと。これが第一だ。次に、月毎の税の徴収。この辺りが惜しいところだったな。税率を収入の一割に設定してしまった。ヴァン男爵の情報が入っていたなら、税率を二割にしてくれたものを……まぁ、王族や貴族の私財も三割は献上させるから、我慢するか」
そんな恐ろしい内容を聞き、苦笑いをして返事を控えた。
そりゃあ、収入の一割も奪われたら大変だ。王族や貴族の財産の三割も大変な価値になりそうだが、各地の領地を管理する貴族達に釘を刺しておかないと、イェリネッタの国民が物凄く貧乏になってしまいそうである。いや、流石に純利益の一割だろうか? 支出を無視しての収入計算ならイェリネッタは一気に貧困化してしまうだろう。
そんなことを思いつつ、他にも気になったことを確認することにした。
「イェリネッタ王国の管理はどうするのですか?」
「ん? 若くして領主をやっているだけに中々目の付け所が面白いな。大半の貴族達は勝利を祝い、軍功はどれほどになるかと騒いでおるぞ」
何が気に入ったのか、陛下は僕の質問に楽しそうに笑い、再び管理について解説をしてくれた。
「まずは、王家の扱いだ。統治については今の王家に継続させるが、監視を置く。同様に各領地にも代官の監視をする予定だ。基本的には、軍功の高い者達の家から一人ずつ派遣する。王家の監視については私が信頼する部下を派遣するだろうな」
陛下の言葉に、なるほどと思いながら頷いていると、不意に陛下が吹き出した。
「他人事のように聞いているが、その中の一人は間違いなくヴァン男爵だぞ? 最低でも一人の監視者と、その者を守り領地の騎士団を統率できるだけの騎士団を派兵するように」
「えー!?」
陛下のとんでもないサプライズ発言に、思わず叫んでしまう。
「無理ですよー! 今でも人が足りないくらいなのに!」
現状を赤裸々に訴えると、陛下は声を出して笑い出した。
「諦めるが良い! パナメラ子爵のように領地を持たぬ者は傭兵を雇って部下として行かせたりもしておるぞ?」
「いやー、うちはちょっと遠慮出来ませんか? 信頼できる部下はムルシア兄さんのところに送ってあげたいなーって……」
丁重にお断りしようとした矢先、ここまで黙っていたヤルドとセストが慌てて口を開いた。
「ヴァ、ヴァン……! 素晴らしい恩賞に対して、何を馬鹿なことを言ってるんだ!? そ、それなら、私がフェルティオ侯爵家を代表して……」
「いや、ヤルド兄さんは税の計算とか苦手だろうから、是非とも僕が……」
ヤルドとセストが身を乗り出してそんなことを言い出すと、陛下の表情が一変した。ヤルドとセストを睨み、低い声で答える。
「フェルティオ侯爵の次男と三男か。貴様らに功などあるものか。策を無視しての行動で味方を危険に晒し、更には敵前逃亡……いない方が良い味方という言葉がこれほど似合う者はおるまい」
陛下がそう告げると、セストは顔を青ざめさせて俯いた。一方、ヤルドは誤解だと訴える。
「へ、陛下! セストは確かに兄である私も置いて逃亡しましたが、私は違います! 作戦通りではありませんでしたが、あの時は敵の騎士団が我が軍に圧倒されて後退していました。上手く突き崩せたなら分断させることができ、大きく戦況を好転させたはず……!」
ヤルドが懸命にそう言うが、陛下の目は鋭く細められたままだ。
「馬鹿な。左右に広がって敵を包囲しつつ、バリスタと魔術で攻撃する作戦だと伝えていただろう。それを中心に向かって千人程度が突撃してしまっては台無しだ。そんなことも理解できないのであれば、貴様らは戦場に出すことも出来ん」
と、陛下が怒りつつも冷静に間違いを指摘した。まだまだ若輩者だとお目溢しをしてくれているのかもしれない。第三者として今の話を聞く限り、ヤルドとセストはとんでもないことをしているのだ。陛下が織田信長だったら物理的に二人の首が飛んでいる可能性もある。
まぁ、勝てたから良かったが、負けたら戦犯となっていたかもしれない。
しかし、ヤルドは納得しなかった。
「陛下……! それはあんまりです! 少しでも陛下のお力になればと、我らは私財を使って傭兵をかき集めたのです! 戦いに参加した者には最低限の功が与えられる筈ではないですか!?」
そのヤルドの言葉に、陛下は深く溜め息を吐いた。
「もう良い。イェリネッタとシェルビアの連合軍を打ち破った侯爵の顔に免じて、最低限の軍功は約束してやる。さっさと侯爵領に戻るが良い」
陛下がそう告げると、表情を強張らせたヤルドとセストは一礼だけして踵を返したのだった。
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