決着と今後の為に
「お、おお……」
思わず、そんな声が漏れた。
猛火の如く攻め込んだパナメラとストラダーレ達は、瞬く間に城壁の上を奪取し、火砲を無力化した。イェリネッタ王国の騎士団は城門を破られた段階で撤退を決定したらしく、城塞都市を放棄して逃げ出している始末。
そんな状態だから、シェルビア連合国の士気は最低を更に下回るほど低くなっていた。
静かになったので恐る恐る崩れた城門を潜り、大型馬車で城塞都市に入場すると、大通りに武器を地面に置いた状態で腰を下ろす騎士達の姿があった。
最前列には髭の生えた中年の男がおり、その前にパナメラとストラダーレの姿もある。
「おお、少年。無事に勝利したぞ……イェリネッタ王国の司令官は逃げた後だがな」
パナメラが不機嫌そうにそう呟くと、ストラダーレは腕を組んだ格好で顎を引いた。恐らく、火砲で酷い目に遭わされたジャルパの報復をする相手がいなくなり、拳を下ろす先に悩んでいるのだろう。
二人を横目に、一番地位の高そうな格好の騎士を見る。
「それじゃあ、そこのおじさんはシェルビア連合国の貴族の人ですか?」
そう尋ねると、中年の騎士はハッとしたように僕を見た。
「……もしや、貴殿がヴァン・ネイ・フェルティオ男爵か」
「え? 僕を知ってるの?」
急に名前を呼ばれて驚いて聞き返す。騎士は浅く頷き、僕の顔をまじまじと見た。
「……本当にまだ幼い少年であったか。私の名はタウンカー・ピラーズ。シェルビア連合国の伯爵である。イェリネッタ王国のコスワース殿からこれまでの経緯は聞いている。ヴァンという少年が恐るべき築城術で戦場を支配している、と……」
「えー? そんなことないですよー。えへへ、照れるなぁ」
タウンカーの言葉に謙遜しようと思ったが、戦場を支配しているなどと言われて我慢できなかった。照れ笑いを浮かべつつ返事をする。それに、タウンカーは神妙な顔で頷く。
「天才は変わり者が多いと聞くが、なるほどな……」
と、納得したような顔でなんとも言えない感想を述べた。変わり者とはなんだ、おひげ騎士め。褒められたと思って喜んでいたのに。
口を尖らせてタウンカーを見ていると、パナメラが鼻を鳴らして口を開いた。
「そんなことはどうでも良い。まずは、スクーデリア王国に敵対したシェルビア連合国の処遇だ。陛下は苛烈な方だからな。覚悟はしているのだろうな?」
獰猛な笑みを浮かべてそう尋ね、タウンカーは険しい顔で顎を引く。
「……降伏した身だ。何も言う権利などない。しかし、出来ることなら、我が王との会談と然るべき条件での同盟締結を検討してほしい。イェリネッタ王国の火砲の恐ろしさに従うほかなかったが、今はスクーデリア王国の方が同盟を結ぶに相応しいと骨身に染みている。必ず王を説得し、スクーデリア王国の力になると誓おう」
タウンカーがそう告げると、パナメラは面白くなさそうに眉間に皺を作った。
「つまらん。最後の一兵まで、という気概で挑んでくれれば、今度こそ我が領地が誕生したものを……」
小さくパナメラが不穏な台詞を呟き、タウンカーは呆れたような顔をみせた。
「大国であるイェリネッタ王国と戦いながら、シェルビア連合国も滅ぼそうというのか。それは流石に無謀というものだろう。スクーデリア王もイェリネッタ王国との戦いに集中したいはずだ。この場で勝手にシェルビア連合国とも戦うなどと選択をするのは……」
タウンカーが長々と説得の言葉を駆使しようとし、パナメラは面倒そうに片手を左右に振る。
「ああ、分かった分かった。話はフェルティオ侯爵の耳に入れておく。そちらはそちらで早馬を出せ。言っておくが、この城塞都市と貴様らの身柄は私が預かる。それについては覆らないと知れ。最大限の条件を提示しなければ、シェルビア連合国とてただではすまんと伝えるが良い」
声のトーンを低くして脅し文句を口にしてから、パナメラはタウンカー達を睨んだ。タウンカーは神妙な顔でそれに頷き、了承したのだった。
一先ず話がある程度済み、我々は一度センテナに戻ることになった。城塞都市はシェルビア連合国の騎士団が人員を割いて修復するようなので、そちらは全てお任せすることにする。ヴァン君は働き過ぎて疲弊しているのだ。オーバーワークはいけない。今はワークライフバランスの時代だ。
などと思っていると、落ち込んだ様子のアルテの姿が目に入る。
実は、イェリネッタ王国の黒色玉の大量投てきにより、アルテの人形二体が大きく損傷してしまったのだった。鎧の一部が失われ、本体も傷だらけになっている状態である。それに気が付いていたから、アルテは物凄く落ち込んでいたのだ。
「ごめんなさい、ヴァン様……せっかく私の為に作ってくださった人形を……」
発覚した直後、アルテが涙目で謝罪をするので怒ることなど出来るわけがない。
「大丈夫だよ。十分修理できるから、綺麗に修復しておくね。アルテのお陰で城門を突破出来たんだし、あんまり気にしないでね」
出来るだけ優しくそう告げたのだが、アルテは悲しげに否定の言葉を口にした。
「……ヴァン様の言葉に従って無理をしないようにしていたら、人形はあんなにボロボロにならなかったはずです。本当に、ごめんなさい……」
と、大量の黒色玉による大爆発でやられかかったことを悔やみ続けている。人形を失い掛けたことがよほどショックだったようで、多少励ましたくらいでは全く効果が無かった。何とか元気付けられないかと思うのだが……。
【イスタナ】
最悪な事態となった。コスワースのせいで、考えられる最悪の未来へと向かっている。
いや、陛下を含め、イェリネッタ王国の誰もが黒色玉と火砲の力を見て、舞い上がってしまったことが原因なのは間違いない。だが、最前線で指揮を執るコスワースが最後まで戦いを続行したことが一番の問題だ。
どこかで敗北を悟るべきだった。スクーデリア王国がイェリネッタ王国侮りがたしと思っている内に和平を申し出るべきだったのだ。しかし、もはや全ては手遅れだ。
スクーデリア王の気性ならば、何を言っても矛を収めることはないだろう。どんな条件を提示したところで、圧倒的優位が決定した以上、イェリネッタ王国の全てを召し上げるまで止まらない。せめて、属国としてでも国の存続を認めてもらえたなら、我らも生き残る可能性はあったのだ。
「ぐ、うぅう……」
ぐるぐると頭の中で考えていると、馬車の中でくぐもった悲鳴が聞こえてきた。そちらに目を向けると、半身を焼かれたコスワースが苦しそうに呻いている姿があった。
こいつのせいで、私まで死ぬことになるのか。
そう思うと今すぐぶん殴ってやりたい気持ちになるが、そんなことをしてもどうにもならない。
「イスタナ様! シェルビアの街を通過しますが、よろしいでしょうか!?」
「タウンカー伯爵達を置いて撤退したのだ! 早馬が来たらシェルビア連合国も敵になる恐れがある! このまま出来る限り速度を落とさずイェリネッタ王国まで戻るのだ!」
「は、はは……っ!」
コスワースの私兵も含む我が国の騎士約一万五千を率いているが、それでも心許ない。いや、絶対に勝てないとさえ思っている。
三万という兵を率いて参戦して、二回の衝突で半数が削られた。それはシェルビア連合国の騎士団も同様である。相手はたった一万程度であったことを考えると、単純に人数が多いから安心などとは思えない。
「一刻も早く王都に帰還し、陛下を説得する! このまま戦い続けても無残に踏み潰されるだけだ!」
尊厳も何もない。国や王家の存続の為にはなりふりなど構っていられないのだ。
お気楽領主6巻、3月25日発売決定!
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