【別視点】鉄壁の要塞を前に・・・
【コスワース】
センテナ陥落戦の為に設置した本営で地図を確認する。地図には多くの書き込みがあるが、どの書き込みも我が陣営が不利であると証明する為に書き込まれたものばかりに思えた。
騎士の数も、魔術師の数も勝っている。スクーデリア王国にはない火砲や黒色玉もあり、敵が手を出せないはずの空から攻撃することすら可能だ。
だというのに、今やセンテナ要塞をどう攻めたら良いのかすら分からなくなってしまっている。会議は紛糾しており、自分が喋らなくても誰かが罵り合うような勢いで議論をぶつけあっているような状況だ。
誰かが地図のあるテーブルを叩き、ひと際大きな声で怒鳴る。
「だから! 火砲すら効かぬあの城壁をどう崩すというのだ!? 接近しようにも火砲以上の威力を持つ大型の弩があるではないか! そして、例の謎の騎士だ! ワイバーンですら一撃で首を落とされたと聞いたぞ!? そのような化け物と戦うなぞ、聞いておらん!」
その言葉に、我がイェリネッタ王国の指揮官の一人が反論する。
「攻め込むしか道はないのだ! 城壁の下まで接近出来ればあの弩は撃てない! 城壁はまさか土の中までは無いだろうから、城壁の基部の土を掘り、そこに黒色玉を仕掛ければ必ず崩壊するはずだ!」
「崩壊してもすぐに修復されるではないか! 貴殿は見ていなかったのか、あの馬鹿みたいな攻城戦を!? いくら致命的な攻撃を与えようとも即座に修復される! ワイバーンは炎の魔術で近づくことも出来ず、弩と例の騎士によって三体倒された! まだ地竜がいるなどと口にするなよ!? どうせ近づけもせずにやられるに決まっている!」
我が国、イェリネッタ王国の騎士が勝つ為の方法を提示しても、シェルビア連合国の騎士が厳しく反論する。この二人の声は、そのまま今の国の関係を表しているように見えた。このセンテナを攻める前であれば、イェリネッタ王国の指揮官の言葉に皆が従っていたはずだ。しかし、手痛い反撃を食らってからというもの、シェルビア連合国は完全にイェリネッタ王国と対等の物言いをするようになってしまった。
これは、下位の指揮官だけの話ではない。
「……コスワース殿。大変申し訳ないが、ここでシェルビア連合国は一時退却をさせてもらう。退却場所は城塞都市オペルだ。オペルならば、こちらに有利な形で防衛戦をすることが出来るはずだ」
「馬鹿なことを……退けば終わりだ。我がイェリネッタ王国だけでなく、シェルビア連合国もな」
退却をすると告げたタウンカーに、退くことは出来ないと答える。それに苛立ったような態度を見せて、タウンカーが口を開いた。
「コスワース殿。言葉には気をつけなくてはなりませんぞ。今がそういった状況だと認識するべきです」
タウンカーが低い声でそう言い、力強く睨んできた。含みのある、と言うには露骨過ぎる言い方だ。その言葉に、敢えて馬鹿にしたように声を出して笑った。
「はっははは……! それはつまり、ことと次第によってはイェリネッタ王国の騎士団の首をもって、スクーデリア王国と和平を結ぼうとしているようにも聞こえるぞ? 我がイェリネッタ王国の主力は今もスクーデリア王国の主力を相手にやりあっている。その状況でそのような早計な判断をして良いのか? もしもシェルビア連合国がスクーデリア王国側に加担したとなれば、我がイェリネッタ王国はスクーデリア王国よりも先にシェルビア連合国を滅ぼし、我が国の一部にするだろう」
脅しをかけてタウンカーの決意を揺さぶる。それにタウンカーは悔しそうに顔を顰めた。シェルビア連合国はどうあってもイェリネッタとスクーデリアよりも国力で劣る。我が国と手を切るかどうかは、そう簡単に決められることではないはずだ。
そう思ってタウンカーの行動を抑止しようとしたのだが、それでもタウンカーは引かなかった。険しい表情のまま、探るように言葉を選んで疑問を口にする。
「……それでは、この状況下でもあのセンテナを陥落させる策があるということですな? その策を聞かせていただきたい。我らはそもそも同盟軍としてこの戦場に来ているのだ。同盟軍がたとえ建前の関係であったとしても、完全にイェリネッタ王国の指揮下に入ったわけではない。我らが無謀な策であると感じれば、それに従わないという選択肢は選べるはずだ」
「もしそれを選んだなら、スクーデリアよりも先に我がイェリネッタ王国の手によって君たちが全滅するとしても、か?」
そう告げると、タウンカーは視線を逸らさずに無言で頷いた。
その時、伝令兵が本営の中へ駈け込んできた。
「何事だ!?」
勢いよく入ってきた伝令兵に、シェルビア連合国の騎士の一人が怒鳴る。すると、伝令兵は緊迫した表情で答えた。
「センテナに動きがありました! し、信じられないことですが、僅か一日! 僅か一日でセンテナの形状が変化しました! また、斥候が確認したところ、現在もセンテナは大きく変化を続けている最中のようです!」
「……例の築城術の応用か? まさか、見た目だけが変わったということはあるまい。何か他に報告すべきことはないのか」
伝令兵の曖昧な報告に若干の苛立ちを感じつつ確認する。すると、伝令兵は難しい顔で一度深く呼吸を整えた。
「は……その、斥候は酷く混乱しており……まるで生き物のように、刻一刻と姿を変えていっている、と……! 現在の形状は全体的に丸い形になっていますが、もしかしたらまだまだ変化するのかもしれない為、現状の把握も難しい状況です!」
新たな報告を受けて、その場にいた者たちがざわざわと声をあげる。
「丸い形? そのような要塞、聞いたこともないぞ」
「待て、そんな形状では、城壁の上部も狭くなっているのではないか? あの驚異的な弩の数も減っているやもしれん」
「そんな軽率な判断があるか! その壁がもし見せかけだったらどうする? 十分に近づいたところで集中攻撃を受ける可能性もあるではないか!」
「馬鹿な。それならば先にこちらから火砲を撃てば見せかけの壁など崩壊しよう」
「それこそただの賭けではないか。問題はこちらの火砲が接近するまでに壊される恐れがあることだぞ。そんなことも忘れたか」
一斉にしゃべり始めたせいで、議論はこれまで以上にまとまらないものになっていく。それだけ何をするか分からないスクーデリア王国に不安になってしまっているということだろう。
「落ち着け! 奴らの行動は一貫してセンテナを守るという一点に向いている! まずは冷静にセンテナを打ち崩す計略を練る必要があるのだ! 真正面から戦う必要もないと知れ!」
議論が混乱を極めつつあると思い、大声で怒鳴った。その時、新たな伝令が本営に駆け込んでくる。
「なんだ!? またセンテナが変化したとでもいうのか!? 今度は立方体か? それとも円柱か?」
苛立ちから、馬鹿にしたようにそう尋ねた。すると、伝令は首を大きく左右に振り、否定の言葉を発した。
「ち、違います! 騎兵およそ五百! 騎士団約二千! 大型馬車十! 総勢二千五百ほどがこちらに向かって進軍中です!」
その報告に、誰もがまるで彫像のように動きを止める。
「……なんだ? 何を言っている?」
「お、おい。今のはどういう意味だ? 俺には、寡兵で真正面から反撃に出た、という意味に聞こえたが……」
それらの言葉が聞こえ始めてから、ようやく自分自身も何が起きているのか理解し始めた。
「落ち着け! なにはともあれ、敵が自ら盾を捨てて斬り合いを選んだのだ! これほどの好機はもう二度と訪れないぞ!」
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