センテナの改良
「……よし、こんなもんでしょう!」
出来上がった要塞を見て、僕は満足感たっぷりにそんな感想を口にした。最初に壊れかけた砦本体を修復、改造し、最後に城壁を改造したのだが、中々良く出来たと思う。後ろでは出来上がった要塞を見ていたタルガが呆れたような声を出した。
「……もはや別物になっておりますが……」
タルガがそう口にすると、同意するようにストラダーレが頷いた。そして、パナメラは腕を組んだまま歯を見せて大笑いしている。
「はっはっはっは! 流石だな、少年! 今回はどんなところに拘ったのか楽しみだ」
だいぶ慣れてきたパナメラは興味深そうに出来たばかりの要塞を眺めていた。ちなみに一緒に要塞作りをしていたタルガはパナメラの言葉に乾いた笑い声を返した。
「……ヴァン殿は毎回このようなものを?」
「見た目の話をするならまだ普通な方だ」
「なんと……」
パナメラとタルガの会話を尻目に、さっそく出来たばかりの要塞見学ツアーを始める。
「それでは要塞の解説に行きますよー」
「は、はい」
「セアト村騎士団は後に続け」
「はっ!」
先導すると、タルガ達だけでなくセアト村騎士団も付いてきたのでかなりの人数での移動となった。スクーデリア王国側の城門からスタートするのだが、まずは皆が見上げていた外観からである。
「見た目が巨大な亀の甲羅のように見えるかもしれませんが、これが外からの衝撃に強いのです」
そう言って目の前に聳え立つドームのような要塞を見上げた。釣られるように皆も同じような格好で要塞を見上げている。皆を振り返り、ツアーガイドのようなノリで口を開いた。
「四階建て相当の巨大な建築物は、一見外から見ても中がどのようになっているか分かりません。こちら側の城門は分かりやすくなっていますが、反対側は壁に同化して見えないように作っています。それでは、中へ入りましょう」
「はーい!」
「楽しみです」
ヴァン君のアテンドにティルとアルテが楽しそうに返事をした。小学校の遠足のような雰囲気だが、これは国防の要である新センテナ要塞の見学ツアーである。皆の者、気を引き締めるのじゃ。
真面目な顔で皆を要塞内へと連れて行き、城壁を改造して作った外周部分の説明を開始した。
「円状に周囲を囲む城壁は以前より大幅に厚みを増して、中には人が住めるようになりました。中庭を大きく削った分、砦と城壁部分合わせて五千人以上がゆっくり寝泊まりすることが出来ます。また、砦内にもありますが、城壁の方にも簡易的な食堂と浴室を準備しています」
説明をしながら城壁内を歩いていく。タルガは物珍しそうに周囲を見ながら、パナメラやティル、アルテは面白そうに出来たばかりの城壁内を見ながら付いてきている。ちなみに、カムシンとストラダーレ、ロウは至極真面目な顔で城壁の造りを覚えていた。
「……と、新しいセンテナはこのように十分な居住空間を保有しています。また、最も重要な防衛に関してですが」
そこで言葉を切り、城壁の中を歩きながら外側の方の壁を手のひらで叩いた。
「二階部分には各所に覗き窓のような場所があり、そこに設置してある小型のバリスタで攻撃をすることが可能です。ちなみに構造が少し複雑に感じると思いますが、これは外部の敵が侵入した際にすぐに要塞内の構造を把握されないようにしています」
そんなことを言いながら、城壁の中を軽く見て回り、次に中庭に移動した。中庭には上空からの攻撃に対処する為、基本的には半円状の屋根が出来ている。その頑丈さを担保する為に、城壁をかなりの厚さにして砦も大きく拡張した。その分、中庭は砦の周りを囲むようにあるだけだ。本来なら中庭である程度隊列を組んで出陣の準備を出来るように作るものだが、この要塞は攻め込むことを前提に作られていない。
そういった内容を軽く伝えてから、中心に立つ大きな砦を見上げた。
「次はいよいよ砦本体部分ですね」
そう告げると、タルガが怪訝そうに片手を挙げて疑問を口にする。
「そ、その……センテナ全体が屋根に覆われているような形状になったと思いますが、どうして多少なりとも明かりが?」
素朴な疑問である。よく見れば分かる筈だが、実は屋根が多層式になっているのだ。
「最上部の屋根に重なるように次の層の屋根を設置しています。それが合計三層で繰り返された結果、間接照明の要領で僅かばかりの明かりが要塞内に入ります。本当は割れないガラス窓を設置したかったのですが、流石に砲撃には耐えられないので諦めました。建物の内外には街灯代わりにランプも多く設置していますので、夕方になったら必ず照明の準備をお願いします」
そう告げると、タルガは目を瞬かせて天井を見上げる。
「……一つの屋根にしか見えませんが、何枚も屋根があるということですか」
タルガがそう呟くと、ストラダーレも浅く頷いた。
「確かに、良く見れば一部明るい場所があります。しかし、そんな仕掛けがあっては強度が落ちるのではありませんか?」
「重なる部分には十分な柱を使って接続していますが、採光の為の隙間に見事に砲弾が入ってしまった場合は十分な強度を確保できないでしょう。ただ、それでも一発二発程度ではビクともしないと思います」
そう答えると、ストラダーレは自らの顎をつまみながら小さく頷く。どうやら納得してもらえたようだ。
静かになった面々を引き連れて建物の中に入る。
「ちなみに、こちらの扉は大砲の攻撃も防ぐ金属製です。厚みがあるので重いですが、そこは仕様だと思って許してください」
デメリット部分を軽く説明しながら通路へと移動し、主要な設備について解説を行う。
「まずは生活での重要な設備として大浴場と食堂。大浴場は人数が多い為、清掃の手間を減らせるように掛け流しという様式を採用しました。川から水を引いて水車を回し、加熱機を通ってお湯になり、適温で大浴場に湯が流れ続けるようになっています。また、排水はそのまま下水を押し流すために再利用しており、衛生面にも気を使ってみました」
そう言いつつ、大浴場に続く扉を開けて脱衣所を通り、中に入る。すると、五十人はゆっくり入れる大浴場が姿を現した。スペースを有効活用する為に湯船は長方形にしていて、素材も頑丈な石造りである。
少し温度が高かったのか、浴室は湯気が充満していた。打たせ湯を作った為、湯が溜まる場所は丁度良い温度になっているはずだ。まぁ、逆に打たせ湯の方はかなり熱いだろうが、それが健康に良いとでも言っておこう。うんうん。
「ま、まさか湯を浴びることが出来るとは……」
「この広さなら、順番に入れば二日に一回は全員が湯浴みをすることが出来るな」
驚くタルガとストラダーレ。そのリアクションに満足しつつ、食堂と広めの厨房を案内してから二階へと上がった。
二階と三階、四階にはそれぞれ騎士達の寝所がある。流石に一つずつ家具を作る時間はないので、その辺りは後日補充してもらうしかあるまい。
また、どの階にも中心に武器や防具の倉庫があり、四階にはバリスタの矢が大量に保管してある。要塞内に敵が侵入した時の対策としては、急な階段と外からは開けられない覗き窓だ。
階段は上の階から槍で突くことが出来るようになっている為、簡単には上がることができないだろう。そして、覗き窓からは弓や機械弓を使って攻撃することも出来る。
それらの説明をしつつ、最後は最上階のバリスタの矢を保管している部屋から階段を使って屋上に出た。
「最後に、ここが屋上部分です」
先に上がって数歩前に出てから振り返り、そう告げる。すると、後から上がってきた皆は急に視界に明るい陽の光を浴びて目を細めた。
ようやく光に目が慣れた頃、周囲の変化に気がつく。
「……なんと、これは……」
「へぇ?」
絶句するタルガに対して、パナメラはとても面白そうだった。周りを軽く見回しながら、口を開く。
「どのようになっている?」
パナメラに尋ねられたので、軽く咳払いをしてから解説を始めた。
「はい。まず、屋上部分の装備についてです。見てわかるように、この前のような大軍勢が現れても良いように、バリスタを一列に二十台並べました。さらに、上空に飛竜が現れた場合を考えて、上下にも可動域の広いバリスタを十台設置しています」
言いながら、広い屋上部分を歩いていく。一台のバリスタに近づき、改良した部分の説明に入る。
「このバリスタの形状を見てみてください」
「……形が変わっているな」
その言葉に大きく頷いて改良した部分を指し示す。バリスタの本体の左右から伸びた盾部分は土台と分離しており、照準を調整する為に左右に動かすと盾も同じように動く。これにより、正面からの攻撃を防ぎつつバリスタを使うことが出来るようになる。唯一残念なのは視界がかなり遮られてしまうという点だが、そこは照準の補助者がいれば良い。
「敵からの攻撃をある程度防ぎつつ、一方的に攻撃することが出来ます。城壁の正面部分をかなり強固にしたので、今回は足場が崩れる心配も少ないです。唯一の弱点は空からの黒色玉だけなので、空を警戒する為のバリスタも多く設置しました」
解説していくと、タルガが呆れたような顔で周りを見回し口を開いた。
「……合計三十台、ですか。この短時間になんと……」
「ヴァン男爵といると毎回こうだぞ」
パナメラが苦笑しつつそう告げて、タルガは釣られるように苦笑を返したのだった。
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