最強の要塞センテナを作れ
新年、おめでとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+
なんと、更に丸一日の休暇をもらい静養させてもらえた。微妙に発熱してきつい時があったが、今はもう完全復活である。
「はい、ヴァン様。果物を切りましたよ」
「わーい」
甘い果物をもらった僕は大喜びで口に頬張る。それを隣で優しく見守るティルとアルテ。優しい世界である。
一方、流石に相手の動きが活発化してきたのか、ロウとカムシンは交替で護衛をしつつ、部屋の外へ出入りをしていた。
「なんか、慌ただしくなってきたねぇ」
果物を美味しくいただきながらそんな感想を口にする。
「そうですね。まだ大砲とかの音はしませんが……」
ティルが少し不安そうに呟いた。
「大丈夫、大丈夫。そろそろ元気になってきたし、センテナの強化をするからね。安心してね」
そう告げると、ティルとアルテがホッとしたように微笑んだ。
「ヴァン様がそうしてくださるなら安心ですね」
「はい、ホッとしました」
二人がそう言って笑い合うのを眺めてから、軽く両手を天井に向けて伸びをする。
「ん~……よし、お昼ご飯にお肉を食べてから頑張ろうかな。あははは」
そんなことを言って笑っていると、外から扉がノックも無しに開けられた。
「少年! 元気になったと聞いたぞ! さぁ、センテナの改築作業だ! 皆も待っているぞ!」
バーン、という効果音が聞こえてきそうな勢いでパナメラが部屋へ入ってきた。入ってくるなり矢継ぎ早に仕事があると言ってくる。これは元気なところを見せると恐ろしいほどこき使われそうである。
「あ、ちょ、ちょっと眩暈が……お昼ご飯を食べないと力が出ないかも……」
これ見よがしにフラフラしながらそう訴えたのだが、パナメラは目を細めて疑惑の視線を向けてきた。
「……先ほど、二人分ほど朝食を食べたばかりだと聞いたぞ? カムシンが大喜びでヴァン様が元気になりましたと報告してきたのだが、何かの間違いか?」
なんと、カムシンがパナメラに寝返って情報を流していたらしい。なんという恐ろしいことだ。ヴァン君のお昼まで自堕落計画が速攻で崩されてしまったではないか。
「それで、動けるのか。動けないのか。正直に話せ」
「……動けます」
「よし、それは良かった」
そんなやり取りをして、パナメラは部屋を出て行った。仕方なく、ティルに着替えを準備してもらって衣装チェンジを行う。結局、朝から早速要塞の強化に駆り出されることとなってしまったか。
不満たらたらで部屋から出ると、バタバタと走る騎士達の姿があった。騎士の一人が部屋から出てきた僕に気が付き、立ち止まる。
「あ、ヴァン男爵! フェルティオ侯爵がお目覚めになられました!」
「え? 本当?」
なんというタイミングか。驚いて走り去る騎士達の後に続いて廊下を進む。マイダディの看護用の部屋へ移動すると、扉の前に何人も騎士達が集まっていた。よく見ると、その誰もがフェルティオ侯爵家騎士団の面々である。
「あ、ヴァン様……」
一人の騎士が僕に気が付き、名を呼ぶ。すると、集まっていた騎士達は無言で通路を空けてくれた。
「ありがとう」
左右に別れた騎士達の間を通り過ぎながらお礼を言って、部屋の扉をノックする。少しして、室内から扉が開かれた。顔を出したのはストラダーレだった。
「……ヴァン様」
ストラダーレは僕の名を呼ぶと、無言で脇に退き、室内へ入るように促す。ストラダーレの大きな体が視界から外れると、部屋の奥でベッドに横になるジャルパの姿が目に入った。ストラダーレが目でアルテとティルに席を外すように促したので、一人で入室することにする。
「失礼します」
そう言って入室し、声を掛けられる前にジャルパの方へ移動する。すると、ベッドに寝たままのジャルパが目をこちらに向けた。
明らかに瘦せていた。頬が少しこけているだけでなく、目に力が入っていないせいか窶れてしまっているようにも見える。顔や首、手など露出した肌の部分には数多くの小さな傷があった。
「……父上、お加減は?」
端的にそう尋ねたが、ジャルパは何も言わずにこちらから視線を外し、天井を見た。数秒もの間、そうしていただろうか。やがて、ジャルパは口を開く。
「……ストラダーレから報告は受けた。どうやら、イェリネッタとシェルビアの連合軍を退けたようだな」
「いえ、まだ完全には……でも、今からこのセンテナを強化する予定です。ご安心ください」
そう答えると、ジャルパはくつくつと笑い出した。声は出ておらず不格好だが、どこか自嘲めいた笑い方だ。不思議に思ってその様子を眺めていると、ジャルパは遠い目をして深く息を吐く。
「……安心しろ、と、私に言っているのか。まだ子供の貴様が、この私に……スクーデリア王国の番人とまで言われた、このフェルティオ侯爵家の当主である私に……ふ、ふふ、はっはっは……」
力無く笑うジャルパを見て、答え方を間違えたかと危ぶむ。しかし、ジャルパが怒り出すようなことはなかった。静かに笑った後、ジャルパは厳しい目つきで睨み、口を開く。
「……その言葉を、証明してみせろ。このセンテナを防衛することが出来たなら、この私とてお前を認めざるを得ないだろう。このセンテナを、難攻不落の要塞に変えるのだ」
ジャルパのその言葉に、思わず笑みを浮かべてしまう。それに、ジャルパは呆れたような顔を見せた。
「……何がおかしい」
不機嫌そうにそう問われたので、僕は苦笑しながら頷く。
「いえ、おかしくなどありません。ただ……一番得意な仕事を命じられたので、安心しました」
そう告げると、ジャルパは目を丸くして固まり、やがて鼻を鳴らして視線を外してしまった。
「……大した自信だ。ならば、やってみせろ」
「はい、お任せください」
最後にそれだけやり取りをして、部屋を退室した。外に出ると、ティルとアルテが心配そうな表情で待っていた。
「ヴァン様、お父様はいかがでしたか?」
アルテにそう聞かれて、笑いながら顔を上げる。
「元気そうだったよ。お願いもされたしね」
「お願い、ですか?」
僕の言葉にティルが首を傾げる。それに微笑みつつ、答えた。
「このセンテナを、最強の要塞にしろってさ」
楽しくなってきた。そんなことを思いながら、僕は一歩を踏み出したのだった。
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