素晴らしき攻城戦3
目で見ながらでないと騎士を操れない。アルテがそう言うので、ロウとカムシン達に守ってもらいながら城壁の上に移動した。危ないので城壁の上に半円状の防護壁も設置する。お台場のビルみたいだ。
「ヴァン様、すぐに下に戻りましょうね。すぐですよ?」
顔面蒼白のティルがそう言うので、苦笑しながら頷いておく。
「いけそうかな?」
防護壁に横一文字にスリットを作り、そこから戦場を見ながらアルテに問う。すると、アルテは肩を震わせつつ、しっかりと頷いて答えた。
「……大丈夫です。一対の銀騎士、お願い!」
アルテが祈るように魔術を行使する。直後、防護壁の外で大きな物音がした。防護壁のスリットから細くて長い人形の手と、ぎらりと光るミスリルの大剣が見える。
おお、やっぱり人間みたいに滑らかに動くなぁ。そんなことを考えて眺めていると、不意に二体とも城壁の下へと飛び降りてしまった。中規模程度の砦とはいえ、城壁はかなり高い。軽装の鎧はともかく、人形の体はウッドブロック製である。強度は鉄ほどだと思うのだが、大丈夫だろうか。
集中しているアルテの邪魔はしないように黙っていたが、内心ではハラハラして地面に落下した人形の姿を目で追っていた。
しかし、余計な心配だったらしい。アルテの人形たちは地面に着地すると同時に走り出し、真っすぐに敵騎士団の元へ向かっていった。あの速度なら、大砲の照準を合わせることも出来ないだろう。気を付けるべきは別のものだ。
「アルテ、黒色玉に気を付けて。誰かが何か投げるような動作を見せたら、すぐに左右どちらかに避けてね」
「は、はい!」
アルテは僕の指示に素直に返事をしつつ、必死に人形を操っている。距離がかなり近くなったと思ってアルテに人形を出してもらったのだが、それでも思ったより遠い。アルテの魔力が心配である。
そう思った直後、アルテの人形付近で複数の爆発が起きた。やはり、黒色玉を持っていたか。
「か、回避しました」
「よし。それじゃあ、相手が無暗に黒色玉を投げられないように、敵騎士団の中を走りながら攻撃しよう」
「分かりました!」
次の指示を出すと、アルテはすぐにその通りに人形を動かした。爆発によって生じた爆煙を突き抜けて、アルテの人形達は一瞬で敵の騎士団の列に突っ込んだ。
まるでボウリングでピンを倒すような勢いで横に広がる敵の騎士団の中を走り続ける二体の人形。その凄まじい戦いぶりに、一部の騎士は剣を捨てて逃げ出すほどである。まぁ、斬られても突かれても気にせず走ってくる騎士が現れたら、僕だって逃げるだろう。超怖いもん。
「ヴァン様! 飛竜です! 飛竜がやってきました!」
と、アルテの人形の恐ろしさに身を震わせていると、今度は飛竜がやってきたと報告された。スリットに近づいて何とか空を見上げると、確かに斜め上空にワイバーンらしき影が見える。かなり高い場所を移動中のようだ。
「あれはバリスタでは無理だね。パナメラさん、どこかにいるかな?」
スリットから頑張ってパナメラの姿を探す。すると、防護壁のスリットの外側からにゅっとパナメラが顔を出した。
「呼んだか?」
「うわぁ!」
驚いて後退ると、パナメラはげらげらと楽しそうに笑う。今も砲撃されて音や震動が伝わってきているというのに、豪胆な性格だ。
「驚かさないでくださいよ!」
文句を述べるが、パナメラは意地悪そうな笑みを浮かべたまま首を左右に振る。
「驚かせたつもりはないぞ。呼ばれたから顔を出しただけだ」
そんなことを言われて、確かに驚かせようと大声を出したわけではないなと考えを改める。いや、パナメラの性格上驚かせようとした可能性の方が高いが、ここは性善説を信奉しよう。
溜め息を吐き、ワイバーンの方を指さして頼みごとを口にした。
「パナメラさん。あのワイバーン達をどうにかできますか?」
「もともとそういう作戦だろう? どうにかしてみせるさ」
お願いすると、パナメラは男らしい笑みを浮かべて離れていった。その十数秒後、空が急に赤く染まる。
「お、おお……!」
「これは、フェルティオ侯爵に匹敵するぞ……!」
防護壁の外ではバリスタを扱っていた騎士達が空を見上げて驚愕の声を上げている。どうやら、パナメラは上手くワイバーン達を追い払ってくれているようだ。
「ストラダーレ団長! バリスタ隊の指揮をしつつ、パナメラさんを守ってね!」
「はっ!」
城壁の上を走り回っていたストラダーレを見つけて、更なる仕事を追加した。ブラックな現場に慣れているストラダーレは迷いなく了承する。
「よしよし、それじゃあ、アルテの人形達を帰らせようか」
戦場に視線を戻してそう口にすると、アルテが目を丸くして振り返った。
「え? もう帰らせて良いのですか? まだまだ、奥の列はそのままですが……」
どこか残念そうに自分の意見を口にするアルテに、珍しいものを見たような気分になりつつ、戦場を指さす。
「一応、これは籠城だからね。あれだけ陣形が崩れたらバリスタだけで十分だよ。どちらかというと、今は空に集まろうとしているワイバーンの方が怖いかな。人形達にワイバーンを追い払う手伝いをしてもらおうと思って」
「はい、分かりました」
防衛の方法について説明すると、すぐにアルテは頷いて人形達を操る。それを確認してから、防護壁の一部に扉を作って外に出た。
「で、出て大丈夫ですか!?」
ティルが真っ青な顔でそう聞いてきたので、片手を振って城壁の下を指さす。
「もう届く距離の大砲が撃てる状況じゃなくなっている筈だから、今のうちに城壁を直しに行こうと思って……今の間に何カ所か壊れちゃったでしょ? アルテとティルはそこにいてね。カムシンは付いてきてくれる?」
「もちろんです!」
忠犬のように走って付いてくるカムシン。ロウはセアト村騎士団に指示を出しに行ってもらったから、急いで城壁の下へ移動することにする。二人だけではやはり少し不安である。
城壁の下では慌ただしく土の魔術師達を連れたタルガが走り回っていた。
「タルガさーん! 今補修したところはどこですかー?」
声をかけると、ホッとしたような顔になったタルガは体ごとこちらに振り向いた。
「西側です! 今から崩れたままになっている東側の壁を補修しに向かいますが、構いませんか!?」
「はーい! それじゃあ、西側の補強が終わったらそっちに向かいますねー!」
「助かります!」
距離の離れた状態でそんなやりとりをして、お互い背を向けるようにして移動を開始する。タルガは僕がアルテに指示を出している間、土の魔術だけで崩れた城壁を補修していたのでかなり大変だっただろう。土の魔術で壁を作るのは大変な上に、魔力の供給を止めるとすぐに崩れ始めてしまうのだ。城壁の高さや厚さの関係もある為、二手に分かれて対処することは難しいに違いない。
急いで西側の城壁に向かって土の壁を固めてしまわないと、敵の侵入を許してしまうこともあり得る。
「敵が退却したら二度と壊されないような城壁を作らないとね!」
「そうですね! ヴァン様が作った城壁なら完璧だと思います!」
カムシンによいしょしてもらいながら駆け足で砦の西側へと走っていく。今のままの攻城戦しかして来ないのであれば何とかなる。地形的に砦の裏側へ回り込んで取り囲み、物資の補給を断つといった手段も難しいのだ。
気をつけるとしたら、毒や疫病の心配だろうか。昔の戦争で、わざと死体を敵の陣地に送り込んで疫病を流行らせるなんて戦法があったらしいが、この状況では選択しないだろう。困ったら死体は全てパナメラに焼いてもらえば良い。
どちらかというと、一番怖いのは対処できない量の飛竜による空中爆撃などだ。まだ砦本体が強化出来ていないので、砲撃や爆撃で砦を崩されたら多くの死者が出る上に、混乱状態に陥って防衛どころではなくなるだろう。
「……今のところはワイバーンも五体程度しか同時に現れていないけど、油断は出来ないよね」
そんなことを呟きながら走っていると、すぐ後ろを走っていたカムシンが突然大きな声を出した。
「ヴァン様! 危ない……っ!」
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