【別視点】素晴らしき攻城戦2
【イスタナ】
このセンテナ攻略戦に参加が決定した時から、ずっと思っていた。何度かコスワースにも進言もしたはずだ。しかし、これ以外に方法はないと一蹴されてしまった。
私も王子である。覚悟を決めないといけない部分はある。それぐらいは分かっているが、それでも自身の命が関わるとどうにか出来ないかともがきたくなる。
「兄上! 退却を! この戦場はもう勝てません!」
最後の進言だ。そう思って、真っ向からコスワースに自身の判断を告げる。しかし、コスワースは怒りに頬を紅潮させた。
「イスタナ。今がまさに正念場だ。ヴェルナー要塞でのことを思い出して不安になっているのかもしれんが、今回はスクーデリア王国の主力がおらず、最も脅威としていたスクーデリアの番人も倒れたと報告を受けている。我らが誇る火砲や飛竜もまだまだ控えている。これから……」
努めて冷静に説明をしようとしているコスワースの台詞に、焦りを覚えて思わず言葉を被せるようにして否定の言葉を口にする。
「違います! スクーデリア王国王家騎士団もフェルティオ侯爵も関係ありません! あの、恐るべき築城術がより驚異的なものになっていました! この僅か数ヶ月の間にです! おそらく、例の不死身の騎士もここに……!」
「黙れ! 懸念は理解したが、まだこちらは全戦力を出していないのだ! 騎士とて火砲の直撃で死ぬ可能性もある! 今は黙って見ておれ!」
コスワースは怒鳴ってこちらの進言を無視した。こうなったら意見も最早聞いてもらえないだろう。言われた通り黙って後ろに下がり、ただただコスワースの思惑通りにいくことを祈るだけである。逃げ出してしまいたいが、逃げ出せば弟達以上の誹りを受けるのは目に見えているし、逃げたところで行く場所も無いのだ。
【コスワース】
「コスワース殿下! センテナの城壁が再び修復されました!」
「……予想以上の技術だな。火砲が連続で命中しないと崩せないとは」
遠方の為明確には分からないが、火砲の直撃で城壁は大きく崩れてはいるようだ。連続で命中すれば跡形も無くなる筈だが、順番に修復されているような状況では簡単にはいかない。
「飛竜を出しますか」
騎士団長に確認されて、数秒ほど頭の中で戦場の動きを想定する。
「……そうだな。敵の弩の狙いを攪乱したかったが、何よりも先に城壁を崩す必要がある。さもなければ、展開した騎士達が接近する前に全滅してしまうだろう。予定通り、飛竜は左右から挟み込むように大きく孤を描いてセンテナに向かい、黒色玉を降らせろ。そうすれば二、三体はセンテナに到達するはずだ。空からの黒色玉と火砲による集中砲火。混乱している間に崩れた城壁から一気に攻め込む。良いな」
「は! 承知いたしました!」
作戦の第二段階への移行を指示すると、騎士団長は力強く返事をして動き出した。その様子を確認していると、新たな報告が届く。
「コスワース殿! 城壁に計五発の火砲が命中! その度に城壁は崩れていますが、数十秒で一カ所ずつ修復されています! また、修復された城壁は火砲が命中しても一撃では崩れません!」
「なに!?」
火砲で壊せない壁と聞き、思わず怒鳴り返す。ただの築城技術ではないということか。それとも、何か仕掛けがあるのだろうか。
「どちらにせよ、やはり時間を掛ければ掛けるほど不利になるのは明白だ」
そう呟き、顔を上げる。覚悟を決めた。ここで勝てなければ、我がイェリネッタ王国は終わりだろう。
「……最後の地竜を出せ。私も戦闘に参加する」
そう告げると、イェリネッタ王国の騎士団は厳しい表情で頷き、シェルビア連合国の面々は不安そうに返事をした。
すぐさま魔術師隊で陣形を組み、その外側に火砲部隊を並べて出陣する。地竜を先行させて注意を引き、魔術と火砲によりセンテナを遠距離から攻撃する算段だ。相手の攻撃目標を分散させることで、最も効果が期待できる飛竜からの黒色玉の投下を成功させることが肝要である。
頭の中で戦場の構想を練り直しながら戦場へと立つと、また空気が変わったような気配を感じた気がした。
「……センテナでまた何か変化があったのか?」
気になってそう呟き、馬上からセンテナを睨むように見る。すると、不思議な光景が見えた気がした。
「こ、コスワース殿!」
同時に、先頭の方で部隊を率いていたタウンカー伯爵が馬を繰って戻ってきた。タウンカーは血相を変えて馬上に乗ったまま報告を行う。
「コスワース殿! センテナより敵が現れました! 我が騎士団は先端で既に衝突! 中央を食い破られて陣形が崩壊しつつあります!」
「……では、あの光景は見間違いではないのだな?」
タウンカーの言葉に、どこか遠い世界の言葉のような感覚でそう返事をした。視線を戻すと、地竜の向こう側では冗談のように人が吹き飛ばされ、悲鳴や絶叫がここまで聞こえてきている。タウンカーはなんと答えて良いのか分からないのか、複雑な表情でこちらを睨んでいた。
「敵の数、状況をもう少し詳細に話せ」
「は、は……っ! 敵は見上げるような長身の騎士二人! 手には槍のように長い直剣と体の半分を覆えるようなタワーシールドを持っております! 見間違いかもしれませんが、城壁の上から落下するようにして現れ、恐るべき速度で我が騎士団に接敵! 剣の一振り二振りで五人から六人の騎士を斬り飛ばして走り続けているとのことです!」
報告を聞き、より現実感が無くなっていく気がした。思わず笑い声さえ上げてしまう。
「最悪の想定をしていたはずだ。その対処を着実に行え」
そう告げると、タウンカーは恐ろしい形相で歯を噛み鳴らす。
「っ! その場合、我が騎士団の多くが犠牲になります!」
「全軍が崩れるより余程良い。素早く実行せよ」
「……犠牲になるのは、我がシェルビア連合国の騎士団ですぞ!」
タウンカーが憤怒の咆哮を上げた。激しい抗議に、議論の余地はないと視線を移す。
「副団長、タウンカー伯爵に代わり指示を伝えよ! 魔術師隊による土の魔術で足止め! その後、火砲でその騎士二名を打ち滅ぼせ!」
「はっ!」
タウンカーを無視して奥にいるイェリネッタ王国の騎士団副団長に指示を出すと、即座に私の指示を伝えに走った。タウンカーは愕然とした顔でそれを見送り、口を開く。
「……勝てるのでしょうな、コスワース殿」
「勝つしか道はないのだ。イェリネッタも、シェルビアも」
地の底から響くような声でタウンカーが確認の言葉を口にして、私は仕方なくそう答えた。馬鹿馬鹿しい質問だが、答えないと納得しないだろう。
カクヨムでも投稿してほしいというメッセージをいただきました!
なんと、2話の段階で読者様からコメントをいただけました!( ;∀;)
お試しで投稿中ですが、良かったら応援してくださいね!
https://kakuyomu.jp/works/16817330667766106464




