表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

247/360

素晴らしき攻城戦

 なんだかんだでヴァン君も男の子である。いや、なんだかんだも何もなく、立派に男の子なのだが、それはまぁ良しとしよう。


 男の子が好む物が幾つかある。乗り物だったり、大きな生き物だったり、はたまた科学的な事柄だったり、新しい機械類だったり……ヴァン君もそれらが大好きなのだが、他にも好きなものがあった。それは歴史である。


 いや、歴女という言葉がある通り、歴史好きの女子達の存在は知ってはいるが、周りにいた歴女はやたらと幕末好きが多かった。ヴァン君はもっぱら戦国時代である。特に織田さん、豊臣さん、徳川さんは比較しても面白いし、エピソードも波瀾万丈で魅力的だと感じる。もちろん、武田さんと上杉さん、伊達さんや真田さんも好きだ。


 つらつらと語り出すと大変なことになるので省略するが、個人的には大軍を相手に少数で打ち破った、みたいな話が最も盛り上がる。そして、次に好きなのが圧倒的な軍勢から知恵を使って領土や城を守り抜いた、といった話である。


 まさに、このセンテナ防衛戦がそれに相応しい。


 そんな事情もあり、ヴァン君は気合が入りまくっていたのだった。


「それでは、作戦通り城壁の上はセンテナ騎士団とフェルティオ騎士団の合同部隊で守ってもらいます! さらに、タルガさんを含め土の魔術師の皆さんは僕と一緒に砦の強化作業! パナメラさんとアルテも準備は良いかな?」


「は、はい……!」


「任せておけ」


 皆に指示を出すと、厳ついおじさん達が一斉に動き出し、パナメラさんやアルテのような麗しい女性達も良い返事をしてくれた。おお、武将になった気分。


 ウキウキしながら指示を出していきつつ、自分はバリスタを作っていく。すでに十台のバリスタを作ったので、次は鉄の矢だ。ウッドブロックでも十分な威力となるが、鉄製だと飛距離が伸びる。やはり鉄が一番である。


「……! ヴァン男爵の予想通り、シェルビア連合国は早々に動き始めたようです! 斥候からの報告では、現在こちらから姿は見えずとも大軍が陣形を組んでいるとのこと!」


「おお、やっぱり。それじゃあ、もう飛竜とかも飛び出したかな?」


「いえ、飛竜の姿は見えません!」


 城壁の上で斥候からの手旗信号を確認したセアト村騎士団の団員が報告してくれた。しかし、まだワイバーンを出さないということは、何か狙っているのだろうか。確かに、バリスタが照準を合わせて矢の射出をおこなったタイミングでワイバーンを出せば、空へ照準を合わせ直すのは難しい。しかし、そこまで考えているのかどうか。


「……いや、有能な武将は相手を過小評価しないもの。うむ、最大限の警戒を持つべし」


 と、自分で自分を戒める。もう気分は歴史上の知将である。そんな間の抜けたことを考えつつ、城壁の上の皆に向けて指示を出す。


「相手はバリスタに狙われないように飛竜の出撃を遅らせているかもー! とりあえず、今のところは予定通りに対応してねー!」


「了解です!」


 その返事と共に、セアト村騎士団は各地点に散って警戒を続けた。セアト村騎士団の団員は平均的に異常な視力を保持している為、城壁や砦の最上階などに配備している。


 順調に矢を作っていると、やがて城壁の上から緊張感を孕んだ声が聞こえてきた。


「き、来ました……!」


 その声に、皆がざわつき始める。城壁下でカムシンやティル、アルテと一緒に準備をしていたのだが、三人の表情も強張った気がした。


「どんな陣形ー?」


 セアト村騎士団の団員に問いかける。すると、城壁の上からすぐに返事があった。


「薄く左右に広がっているような感じです! 前方に二つ、真ん中に一つ、後方に二つ!」


「ちょっと意味が分からないけど、紐とか帯みたいにびよーんってなって五部隊に分かれてるってことで良いかなー?」


「あ、そうですね! そういった陣形です!」


 と、適当なやりとりをしつつ、頭の中で想像する。地図で考えると奥の方は丘や森のせいで道が狭まった場所がある。縦長に陣形を組んで、広い場所に出たらそのまま陣形を変化させていったのだろうか? そうだとすると、かなりの練度の騎士団である。


 もし細長い行列を作って行軍していたのなら、その列の中で指揮官がいる場所に横から突撃する桶狭間アタックも狙えたかもしれない。惜しいことをした。


 いや、今は敵の動きを把握して次の行動に繋げることが大切だ。


「相手もよく考えてるねー! そうなると、バリスタでの攻撃力が半減しちゃうから、大砲を狙う作戦に変えようかー!」


「はい! 了解です!」


 相手の陣形を聞き、作戦変更の指示を出す。理想的なのはアルテの人形を警戒して重装歩兵で固まり、防御力を高めつつ進軍してくる策をとってきたら嬉しかったのだが、残念である。


「敵軍、大砲が届く距離に入ります!」


「え? もう?」


 追加の報告を聞き、驚いて顔を上げる。矢はかなりの数を作ることが出来たので、急いで動くことにする。


「バリスタにはそれぞれ五本ずつしか矢を準備してないから、急いでこの矢を補充しよう。カムシン、セアト村騎士団の皆と一緒に矢を配ってくれる?」


「はい! すぐに持っていきます!」


 カムシンにお願いすると、勢いよく走りだした。まるで鉄砲玉のようである。カムシンが部隊を招集し、代わりに城壁の上で指示を出していたロウが階段を下りてくる。


「ヴァン様! 大砲らしき物の発見報告がありましたが、すでに二十を超えています! バリスタでも追いつかないかもしれません!」


「よし、中心に近いものから先に狙ってバリスタを使おう! 届くと思ったらどんどんやってね! 矢はまだまだいっぱい作るから!」


「承知しました!」


 少し焦った様子のロウに、笑いながら指示を出す。ディーやアーブがいないから不安なのかもしれない。そう思って、出来るだけ余裕を見せて返事をしたつもりである。


 ロウはすぐに反転、城壁の上まで上がってバリスタを構える騎士たちに指示を伝えていく。今回、バリスタの狙いを定めるのはセアト村騎士団の団員だが、直接操作するのはセンテナ騎士団の騎士達である。なにせ、連れてこられるセアト村騎士団の人数が少なかったので仕方がない。もし接近を許した場合は超最強機械弓部隊が必要なのだから、あまりバリスタに人員を割り振れないという部分もある。


 こんな子供の言うことを屈強な騎士達が聞いてくれるのだろうか。そんな心配もあったが、今は誰もが防衛に向けて全力を尽くそうとしている為、指示に素直に従ってくれていた。


「バリスタ、発射します!」


「はい、どうぞー!」


 一番に準備が出来た中心のバリスタを操作する騎士から確認の言葉が聞こえたので、軽く返事をしておく。直後、大気を震わせるような低い重低音が鳴り響いた。バリスタの発射音だ。


「め、命中……!」


「おお……!」


「なんという威力だ……」


 どうやら成功したらしい。最初の一発目が上手くいくと皆の肩の力も抜けるだろう。


「よーし、どんどんいくぞー!」


 景気づけに掛け声をかけると、ロウは頷いて次々に発射の指示を出していった。連続してバリスタが発射され、地響きと共に敵軍を蹴散らす。いや、蹴散らしているはずである。


 とはいえ、相手が左右に広く分かれるような陣形を選んでいるのなら、うまく大砲に当たらないと効果は低いだろう。バリスタは回転が遅い為、大軍を相手にするのは厳しい。セアト村くらい大量にバリスタがあれば良いが、急ごしらえなのでそうもいかないのだ。


「……っ! 大砲が……!」


 色々頭の中で考えながら矢を準備していたら、まさに恐れていた攻撃が始まってしまった。城壁から誰かの声が聞こえたと思った直後、激しい爆発音と大地を揺らす震動が足を震わせる。鼓膜が痛くなって顔を顰めながらも、何とか状況を確認する。


「どこに落ちたのー!?」


「城壁の手前です!」


 怒鳴るように尋ねると、ロウが怒鳴るように返答した。爆発の後で良く聞こえたものだ。


「よし、今撃った大砲めがけてバリスタ発射!」


「はっ! バリスタ、発射しろ!」


 そんなことをしている内に、今度は反対側の城壁に大砲による砲撃が行われる。まだまだ発展途上の大砲なので命中率は極めて悪いが、威力は絶大だ。そして、今度の砲撃は運悪く直撃してしまった。


 城壁の一部が崩落、最悪なことに上部にあったバリスタの一台も崩れた城壁と一緒に地上まで落下してしまった。


「負傷者が出た! 救護!」


 タルガの声が聞こえた。タルガには防衛側の隊長を役目として割り振った為、誰よりも早く自らの役目の為に動き出している。


「ヴァン殿! 城壁補修に動けますか!」


「はーい! すぐに行きますー! もう魔術を使っても良いですよー!」


「承知!」


 タルガは素早く返事をして詠唱を開始した。続けて、タルガの部下に割り振られた土の魔術師達も詠唱を開始する。僕が現場に着く頃には土の魔術による城壁周りの保護が始まっていたほどだ。


 実に頼もしい。タルガの迅速な行動に内心で称賛の声を送りながら、出来たばかりの城壁を固めていく。理想は鉄筋コンクリートだが、材料が少し足りないのでコンクリートもどきだ。


 形を整えていくと、瞬く間に壊れる前より分厚くて豪華な城壁が出来上がる。


「お、おお……」


「まさか、これほどの速度で……」


 驚愕する声が四方から聞こえてきて思わず「むふふ」と笑いそうになるが、それどころではない。表情を引き締めて振り返り、アルテを見た。


「アルテ! お願いできるかい?」


 そう告げると、アルテは胸の前で両手を握り、強く頷いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ