【別視点】コスワースの驚愕
【コスワース・イェリネッタ】
「……動きが変わった?」
守備の要として配備していた地竜を討伐されてしまった為、全軍を一時的に拠点まで退却させたのだが、最前戦で戦っていた指揮官の一人から気になる報告を受けた。報告の一部をそのまま口にすると、シェルビア連合国の騎士団副団長が深刻な顔で口を開く。
「はっ! 当初の予定であれば、完全に殲滅は出来ないまでも退却を余儀なくするような大打撃を与える予定だったと思われます。調査した結果、スクーデリア王国の国境騎士団の戦力とフェルティオ侯爵家騎士団の戦力を全て合わせたとしても、地竜で動きを止めている間に左右から挟撃することで勝てると思われていました。実際にその通りになりかけていたのです。しかし……」
「副団長。その報告に関しては十分に理解している。謎の騎士による地竜殺し、だろう? 挟撃失敗を責めているわけではない。それよりも、今のスクーデリア王国側の動きを報告しろ」
低い声でそう告げると、同じテーブルを囲んで椅子に座っていた男たちが神妙な顔つきで背筋を伸ばす。自らの隣にはイェリネッタ王国王家騎士団の騎士団長が座っていたが、それ以外の五名はシェルビア連合国側の指揮官たちである。一人はシェルビア連合国の騎士団を預かるタウンカー伯爵なのだが、完全にこちらに主導権を明け渡しているような状況だ。
それだけ、シェルビア連合国が黒色玉と火砲に脅威を抱いているということなのだが、この一戦でにわかに暗雲が立ち込め始めている。圧倒的な力でスクーデリア王国を蹴散らし、シェルビア連合国を完全に支配下に置くつもりだったというのに、思惑通りにはいかない流れになってきた。
報告に来たシェルビア連合国騎士団の副団長は、身を硬くして頷く。
「はっ、申し訳ありません……これまでは、籠城をしている間は砦の補修を行うばかりで、せいぜいが周囲の警戒、偵察といった動きしか見られなかったのですが、今は補修もせずに城壁の上で何か大きな設備を設置しているようでした。それも、次々と、です」
そんな曖昧な報告を受けて、若干の苛立ちを覚えながらも隣に座る騎士団長へ声をかける。
「……スクーデリア王国の新兵器は何があった? 特に警戒すべきものを言え」
そう告げると、騎士団長は深く頷いて口を開く。
「長射程で高い攻撃力を有する新型の弩、そしてどんな攻撃を受けても動き続ける長身の騎士。あとは、例の異常な速さで築かれる築城術、でしたか」
その言葉を受けて、思わず鼻を鳴らしてしまう。
「まるで神話の世界の話のようだな。こちらの黒色玉や火砲の方が霞んでしまいそうだ」
皮肉気に笑いつつ感想を述べる。すると、私の後ろで立っていた弟であるイスタナが身を硬くした。
「……実際に目にすれば分かりますが、笑い話ではありません。他の戦場でも似たような報告が上がっていますが、長距離かつ正確な弩は明らかな脅威です。更に、万に迫る騎士団をたった二人で切り裂く不死身の騎士……これには対処のしようもありません」
イスタナが小さな声でそう補足するが、余計な口出しだと強く睨みつける。今まさに不安になりつつある同盟国の指揮官達の前で深刻に話す内容ではないはずだ。それが理解できたのか、イスタナはぐっと口を閉じて後ろに下がった。
それを確認してから、改めて現状を分析する。
「……確か、例の築城術の前には男爵を名乗る少年が姿を見せた、という話だったな。調査したところ、子供の男爵なぞフェルティオ侯爵家の子息であるヴァン・ネイ・フェルティオしか存在しない。つまり、今回のセンテナにも、そのヴァンなる子供が現れた可能性が高いだろう」
「……それでは、動きが変わったというのは、そのヴァンという少年が指揮を執り始めた、ということですか? いくらなんでもそれは……」
子供が指揮官になっているという推測に、疑惑の声が上がる。それを片手を挙げて黙らせると、自らの推測を補足した。
「フェルティオ侯爵家の子息であり、男爵という立場だから指揮官に据えられているだけで、実際に指揮をしているのがその子供だというわけではない。恐らくは、不世出の天才発明家や恐るべき鍛冶師も部下におり、更には例の恐ろしい築城術を編み出した戦略家もいるのだろう。そもそも、その戦略家が実権を握っている筈だ。なればこそ、あの陥落寸前だったセンテナが恐ろしい要塞へと変貌するかもしれない」
そう答えると、ようやく納得の声が上がる。
「そういうことですか。ならば、ヴァンという少年の陰に隠れてはおりますが、恐るべき部下たちが配下にいるということですな?」
「それならば、まずはその相手を切り崩す算段が必要でしょう」
「裏切らせることは難しいか。どのような人物かも分からぬのに、地位や財を餌にすると反感を買うこともある」
敵の姿が少しは明確になったのか、先ほどよりはまともな意見が出始めた。そのことに満足しつつ、方向性を集約させる。
「まずは、相手に時間を与えるべきか否か、だ。そもそも、驚異的な兵器を開発するような輩に時間を与えるのは愚の骨頂と考えるが、いかがか」
そう告げると、皆の表情が引き締まる。
「確かに……センテナはもはや崩壊寸前だったはずだ」
「今こそ、一斉に攻めて叩き潰すべきではないか」
誰かが力強い意見を口にすると、後に続くように攻め込むべきという意見が出始めた。これで、計画が崩れた時の情けない様子は影を潜めただろう。今テーブルを囲むのは勝利を求める力強い騎士達だ。
「話は決まったな。では、敵の戦力を改めて検討し直し、作戦を決める。長距離の攻撃が可能な弩があるならば固まって動くのは危険だ。左右に広く展開してセンテナへ攻め込む。問題は例の二人の騎士だが、これには土の壁で行動を制限し、火の魔術で焼き尽くすのが良いだろう。焼かれて死なない動物はいない」
「おお……!」
「確かに、それならば間違いなく……!」
戦術を決めて、徐々に士気も上がってきた。どのように騎士団を配置するかと議論している男たちを横目に、もう一つ手を打っておくかと後ろを振り返る。
「イスタナ」
名を呼ぶと、イスタナはすぐにこちらへ歩いてきた。
「何でしょうか」
殊勝な態度をとるイスタナに苦笑しつつ、もう一つの策を伝える。
「傭兵でも騎士団の中で得意な者をみつくろっても良い。暗殺者を用意しろ」
「……暗殺者?」
イスタナが怪訝な顔で首を傾げた為、イスタナの胸を左手の拳で軽く殴って口を開いた。
「成功すれば儲けものだろうが」
そう告げると、イスタナは静かに頭を下げたのだった。
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