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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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ジャルパの負傷

 扉をノックして、タルガが低い声を発する。


「タルガだ。ヴァン男爵をお連れした。失礼する」


 そう言って扉を開けると、室内はまさに戦場だった。ベッドの周りに複数人が立って手を動かしており、更に水の容れ物や新しい布を持った人が走り回っている。


「もっとしっかり止血しろ!」


「早く水を持ってこい!」


 喧騒が飛び交う中、僕はベッドに寝かされた人物の顔を凝視していた。


 顔面蒼白の我が父の顔を見て、何も考えられなくなっていたのだ。肩や腕、腹部にも包帯が巻かれているのだが、何よりも脚である。右脚の膝から下が失われていたのだ。ベッドは真っ赤に染まってしまっており、太ももの辺りを強く縛って血液の流出を止めようとしているのだが、止血が上手くいっていないようだ。


「わ、私もお手伝いします!」


 ティルが声を震わせながら応急処置の手助けを申し出て走り出す。それを眺めてから、ベッドの方へ歩を進めた。


 近づくと、ジャルパの容態が想像以上に悪いことに気が付く。意識はなく、呼吸も浅く細かい。顔色は殆ど真っ白だ。


「……ヴァン様」


 名を呼ばれて振り向くと、アルテが涙目で僕の手を握ってきた。何を言うわけでもないが、アルテなりに僕を励まそうとしてくれているのだと感じることが出来た。アルテの優しさに思わず目頭が熱くなるが、涙は堪えて頷くだけにとどめる。


 隣に立つタルガを見ると、険しい顔でジャルパを見下ろしていた。


「……ヴァン殿。厳しいことを言うようだが、最悪の事態は覚悟しておくべきかと」


 タルガがそう告げると、後ろに立っていたストラダーレが表情を歪めるのが見えた。自分の中で、ストラダーレは武士のような存在である。寡黙で、剣や戦に一生懸命で、仕えると決めた相手に忠義を尽くす。そんなストラダーレが、唯々無言でベッドに横たわるジャルパを見つめているのを見ると、また涙が出そうになってしまった。


 カムシンとロウはジャルパの顔ではなく、心配そうに僕を見ている。心配をかけてしまっているなと自覚しながらも、何も応えることは出来なかった。


 一方で、ティルは騎士に怒鳴られながらも必死にジャルパの顔の汗を拭きとったり、新しい水を運んできたりしている。その場にいる皆が懸命な介抱をしているのだが、どう考えても良い方向にいきそうにない。


 室内に絶望感が漂い始める中、腕を組んで状況を注視していたパナメラが溜め息を吐いた。


「……はぁ。あまり、恨まれたくはないんだがな」


 愚痴を呟くように口にされたその言葉に、何を言っているのかと振り向く。すると、刃物のように鋭いパナメラの目がこちらを見ていた。


 パナメラは手のひらを自らの顔の前に持ってきて、口を開く。


「……生きるか死ぬかは分からないが、止血の処置は出来るぞ。ただし、今の状態だと生存率は一割を切ると思え」


 そう呟いて、パナメラは小さく何か呟いた。直後、パナメラの手首から上が赤い光を放つ。炎が手のひらを包み込むように燃えていた。


「……や、焼くってことですか?」


 そう尋ねると、パナメラは肩を竦めてからジャルパを見た。


「多少止血は出来ているが、あのまま少しずつでも流血が続けば、間違いなく侯爵は死ぬだろう。焼けば止血は出来る……ただし、私の経験上、焼いたことで死んだ者も多い。もしそうなったら、少年は私を恨むだろう?」


「……恨みません。お願いします」


 パナメラの言葉に強い覚悟でそう返事をした。すると、パナメラは困ったように笑い、ジャルパの方へ向かう。


「……家族の死とは、それほど簡単に割り切れるものじゃないんだがな。まぁ、何もせずに看取っても恨まれるか。損な役回りだよ、まったく」


 パナメラは切なそうにそう言ってから、ジャルパのすぐ隣に立った。騎士やティルがパナメラの言葉を聞き、動きを止める。


「そこの者。侯爵の足の布を取れ。止血している包帯は解くなよ?」


「は、はい……!」


 パナメラに命じられて、騎士の一人が足先に巻いていた布を取り去った。真っ赤に染まった布を取り去ると、赤黒い血に塗れた足の断面が露出する。とてもではないが、凝視することは出来ない。


「……っ!」


 アルテが僕の手を握る力を強めた。横を見れば、肩を震わせるアルテと目が合う。一方、パナメラは一切動じることなく、炎をまとった手のひらを露出した足の断面部分に近づけていく。


 肉が焼ける音と、息を呑む音。そして、肉を焼かれたジャルパのくぐもった唸り声が聞こえてくる。


「ひ……っ」


 戦場の過酷さというにはあまりにも凄惨な現場に、アルテが息を呑んだ。見れば、ティルも顔面蒼白でジャルパを見つめている。手を太ももの辺りでキツく握り締め、唇を振るわせながらもジャルパから目を離さずにいる姿は、まるで尼僧が祈りを捧げるようだった。





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