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初勝利

「勝ったー!」


 そんな喜びの声を聞きながら、僕は防壁の上へ急いだ。


「流石ですね、ヴァン様」


「凄いです」


 興奮冷めやらぬティルやカムシンの言葉に頷きながら、一段飛ばしで階段を駆け上がる。


「おぉ、ヴァン様! 見てください、この戦果を!」


 防壁の上に登ると、ディーが両手を広げて出迎えてくれた。


「指揮、ありがとうね」


 労いつつディーの脇をくぐり抜けて縁まで行くと、そこには凄い光景が広がっていた。


 堀の前にゴロゴロと転がる巨大蜥蜴の死骸の山である。いや、もはやそれは恐竜と言っても差し支えない巨大さだった。


「なに、このダイナソー。こんなのが四十もいたの? よく勝てたね」


 思わずそんなことを言ってしまった。すると、ディーは上機嫌に僕の背中を叩く。


「うわっはっはっは! ダイナ層が何かは知りませんが、すべてヴァン様のバリスタのお陰ですぞ! 鋼の鱗と呼ばれるアーマードリザードを貫通した鉄の矢に、鱗に突き刺さった木の矢。どちらも本来なら有り得ない威力です。それが無ければ、この村ももう無かったかもしれません」


「あぶなっ! お、落ちるってば!」


 背中を叩かれて崩れたバランスを立て直しながら文句を言っていると、ふと、眼下の景色に目を奪われた。


 堀の中で、顔面蒼白の盗賊達がこちらを見上げていたのだ。


「……そういえば、盗賊達を忘れてたね。もう三十人くらいにまで減ってるけど」


 そう告げると、ディーが目を瞬かせて口を開く。


「おぉ、そんな奴らもおりましたな! よし、バリスタを堀の中に向けて構えよ! 動いたら放て!」


 ディーが大声でそう指示すると、盗賊達は震え上がりながら息を呑んだ。


 それを険しい顔で睨みつけながら、ディーが紐を一束落とす。


「それで自分を縛れ! 矢の雨を浴びたい者は立ち上がるが良い!」


 恫喝するようにディーが吠えると、盗賊達は慌てて自ら自分たちの身体を数珠繋ぎに結んでいったのだった。






 領主の館前に盗賊達を引っ立てて座らせていると、オルト達も帰ってきた。


「あの大量のアーマードリザードの死体はなんなんです!? それに、その盗賊どもは!?」


 馬車を停めながら怒鳴るオルト達に、盗賊達がびくりと肩を震わせる。


 僕は腕を組み、唸る。


「盗賊達が襲撃してきたと思ったら、アーマードリザードに追われてたみたいで、とりあえずアーマードリザードだけ倒した、という感じ?」


「ど、どうやって、あんな綺麗な姿でアーマードリザードが……! 俺達でも簡単には倒せない厄介な魔獣ですよ!?」


 困惑するオルトにどう答えたら良いものかと思ったが、取り繕っても仕方がないと思い直した。


「弓で?」


「弓で!? アーマードリザードが!?」


 驚愕するオルトにカムシンが自慢げに口を開く。


「矢、六十本しか使ってませんけどね」


「矢、六十本しか使ってないのか!?」


 驚き過ぎてオルトは台詞の復唱しか出来なくなったらしい。


 故障気味のオルトをよそに、プルリエルが困惑しつつ質問をする。


「エスパーダさんの魔術も無しに、あれだけの数を? 矢では傷一つつかないと思うのですが……」


「僕もあれだけの戦果は意外だったけどね。あ、皆も僕が作った剣持ってるから、斬れ味知ってるんじゃない?」


 そう聞き返すと、オルト達は顔を見合わせて、目を見開いた。


「……まさか、あのバリスタの矢は……」


 オルトにそう聞かれ、首肯する。


「皆の剣と同じ斬れ味」


 僕の答えに、冒険者一同が絶句した。


 それに反するように、ディーがずいっとこちらに歩み寄る。


「オルト殿達にヴァン様が剣を……?」


 自分は貰ってませんが?


 そんな副音声が聞こえる顔だった。後ろを見れば、アーブとロウも泣きそうな顔で寄ってきている。


「いやいや、オルトさん達は買っていったんだよ。短剣は金貨三枚。長剣は金貨五枚って感じで。ね?」


 助けを求めてオルト達に確認すると、オルト達はそれぞれ剣を取り出し、ディー達に見せつけるように持ち上げた。


「小型魔獣しかいなかったが、なんの抵抗も無く骨を切断しました」


「細身で軽くて振りやすいのに、恐ろしいまでの切れ味のお陰で助かってます」


「その場で要望を聞いてもらえて数分で出来上がるのに、見た目も切れ味も最高でやした!」


 何故か、冒険者達が通販番組のモニターのようなノリで感想を述べていく。


 それにディー達が口惜しそうに歯を嚙み鳴らす。


 ギリギリと音を立てながらオルト達を睨み、すぐにこちらを振り向いた。


「ヴァン様! 私も買いますぞ! 大剣はいくらですかな!?」


「私は長剣と短剣のセットを!」


「私も同じものを!」


 三人はぐいぐいにじり寄りながら剣の発注をしてくる。すごい気迫だ。もはや殺気すら感じる。


 逆に、オルト達は不敵な笑みを浮かべて、剣をこれみよがしに眺めている。


 その対照的な二組に笑いながら、首を左右に振る。


「こんな辺境にまで付いてきてくれた忠臣から、お金はもらえないよ。素材と村の財政さえ何とかなれば、装備一式進呈するさ。三人分ね」


 そう告げると、三人はガッツポーズをして喜んだ。一転、オルトが不満顔でこちらを見る。


「えー……俺達も結構貢献してますよ。装備一式欲しいなぁ」


 と、甘えた様子で言ってきた。厳ついおっさんがやっても何かの恐怖映像と大差無い。僕は笑顔で却下する。


「ダメ。領民には出来る限りのことをするし、部下は厚遇する。でも、いずれこの村から出て行くオルトさん達はちゃんと領地の為にお金を払ってくれないと」


「ぐぁああっ! なんで八歳なのにそんなしっかりしてるんですか!?」


 頭を振りかぶりながらショックを受けるオルト達に、エスパーダが澄まし顔で口を開いた。


「この私の教育の成果です。ヴァン様は基本知識の他に帝王学、経済学、政治学を学んでおられます」


「なんて余計なことを……」


 エスパーダの台詞に、オルトは天を仰いで嘆く。


 そのやり取りに笑い、僕はオルトやプルリエル、クサラ達を順に見て、口を開く。


「この村に冒険者ギルドが出来た時、村専属になってくれるなら装備一式贈呈するけどね」


 そう告げると、オルト達は顔を見合わせ、輪になって何か話し始めた。まぁ、結論など出ないだろうし、結論を急がせれば必ず断られるだろう。


 そもそも、自由がモットーの冒険者を縛り付けようというのが間違いなのだ。


 僕は笑いながら、盗賊達を見る。


「……さて、この盗賊達をどうしようかな」


 その呟きに、盗賊達は顔を青くして口々に命乞いの言葉を発した。


「こ、これからぁ心を入れ替えて頑張りやす!」


「俺らぁ、引き渡されりゃあ縛り首でさぁ!」


「ここで働かしてくだせぇ!」


 半泣きで騒ぐ様は哀れだが、こいつらがどんな罪を犯してきたのかは分からない。簡単に信用してはいけないだろう。


 とりあえず、村の長たるロンダに聞いておく。


「彼らの言葉をどう思う?」


 そう尋ねると、ロンダは険しい表情で盗賊達を睨んだ。


「この者達によって、我が村は甚大な被害を受けた過去があります。殺された者も十ではきかないでしょう」


「はい、有罪(ギルティー)


 即決である。というか、これから一緒に暮らしていく村人達に思い切り悪感情を持たれている段階で甘い対応は厳禁である。


 リスクが高まるだけでなく、村人達からの信頼も失ってしまうだろう。


「悪いけど、行商人がきたら引き取ってもらおうかな」


「そんな!?」


「あんまりだ!」


 盗賊達からクレームが来るが、無視する。


 と、そこで良い仕事を思い出した。


「じゃあ、盗賊の皆さんには行商人が来るまでの間にアーマードリザードの素材バラしをやってもらおうかな! 皮、骨、肉で切り分けたら大丈夫?」


 そう聞くと、オルトが頷く。


「目、牙、爪も綺麗に保存した方が良いですね。内臓は売れませんが、魔核だけは確実に」


「あ、そうだね。じゃあ、皆には木の剣を貸してあげよう。頑張れば切れるみたいだし」


 僕がそう告げると、盗賊達の顔が絶望に染まった。


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